表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サヨナラのミラ  作者: sugar
2/6

クリーム色のスカート

独り暮らしの俺は、悩んでいた。

そもそも、食に関しては無頓着で大した物も食べなけりゃ、作れもしない。それに、オート調理ができるAIも只今故障中。なぜ、メンテナンス申請しなかった、俺。

反省もそこそこに冷蔵庫を開ける。中には、卵が2つにレタス、ミネラルウォーター、炭酸飲料の飲みかけ・・・と、ろくなものが入っていなかった。

冷凍庫も開けてみたが、保冷剤しか入っていない。

「仕方ない。主食もないし、買い出しに行くか」


必死の思いで自宅にたどり着いたのに、また外出する事を考えるとため息が出るが、緊張感が解かれたせいで俺も空腹だ。

身支度を整え、部屋を出るとさっきの警報が嘘のように平然としていた。


「ねぇ、何処に行くの?」


上着の裾をぐいっと引っ張られバランスを崩し、短い悲鳴と共に倒れこんだ。彼女が下敷きなる前に、どうにか体勢を立て直す。


「ったた・・・」

「あぅ・・・ごめんなさい」

「あ、あぁ、大丈夫。そっちこそ怪我は?」


おろおろする彼女。仕草なんかは、人間そのものだと思う。宇宙人のイメージとはかけ離れたものだ。


「私は、転んだくらいで怪我しませんから!大丈夫です!」


やたら強調した物言いだが、口の端をぎゅっと紡んで我慢している様に見える。

それもその筈、視線を下にやると膝の頭から血が垂れて、素材も解らない衣服に滲んでしまっている。


「我慢するな、怪我してるし。消毒するから来て」

「うぅ・・・」


二度目の帰宅は、出掛けてから僅か二分程度だった。

彼女をベッドの端に座らせ、足の様子を診るがどうやらただの擦り傷と、軽い捻挫のようだ。

久々に、救急箱と云うものを引っ張り出した。

中からは、常備薬の空ビンに包帯とガーゼ、消毒液が出てきた。久々過ぎて、この箱の存在を忘れかけていたのは内緒。


「足、ちょっと染みるけど我慢な」

「はっ、はいぃ!」


ぎゅっと、肩を掴む。華奢な腕からは想像もできない力で掴むものだから、Yシャツはくしゃくしゃになるし、爪が食い込んで少し痛い。

「ひやぁぁっっ・・・」


勢いよく消毒液が飛び出した。それと同時に彼女の体が跳ね、歯を食い縛って必死に痛みを堪えている。

消毒液で薄くなった血が、真っ白な足から垂れてくるのをガーゼで塞き止める。


「頑張ったな。痛くないか?」


ふるふると頭を横にふる彼女の瞳には、涙が滲んでいた。宇宙人でも、痛みを感じるし、涙も流すんだな。と、心の中で思いつつ、新しいガーゼで傷口に押し当てて包帯を巻く。我ながら応急処置は上手いもんだ。


「ごめんなさい・・・」


救急箱を片付けていた俺の背後に、弱々しい声がぶつかる。妙な紳士気質が出たのか、振り返ることはしなかった。


「別に気にしてないよ。それに、怪我もしなかったし」

「でも、私・・・」


救急箱を無造作にしまい、彼女の言葉に被せ気味に言う。


「お腹、空いてるんだろ?悪いが材料が無いんだ。良かったら、一緒に買い出し行かないか?」

「買い出し??」

「あぁ。宇宙には無い食べ物が沢山あるぞ!」


くぐもっていた彼女の瞳にようやく笑顔が戻っていく。良かった、やはり女性は笑顔が一番良い。

「行く!ちょっとまってて」


そう言うと彼女は、腕に着けていた時計のような物をタッチし始める。すると、一瞬にして服が切り替わる。

「それ・・・」

「えっと、これ、自分が認識した物を具現化する機械なの!」


自慢げな顔をする彼女の行動にも驚いたが、着ている服が未来の遺品そのものだったことに、もっと驚いた。


「さっき、ちょこっとだけクローゼットから覗いてたのを認識して、見えない部分は想像することで自分に認識させて作ったの。変じゃないかな?」


クリーム色のロングスカートをヒラヒラとさせながら確認している彼女は、まるで出会った頃の未来のように。


「??。やっぱり変かな?」

「えっ、い、いや、変じゃない。凄く似合ってるよ」


ぼんやり見ていた眼前に、彼女の顔が、息がかかった。取り繕うように虚空を見回す俺の手を彼女は取る。


「早く行こうよ!」

「ちょっ、足、軽い捻挫もしてるからゆっくりな?なっ?」


痛みも吹き飛んだのか、彼女は軽快な足取りで歩を進める。

(ごめんなさい)


「ん?なんか言ったか?」

「なんでもないよ。ほら、早く早く!」


掠れた声もあってか、俺は彼女の言葉を聞き取れなかったが、一瞬見えた横顔は何処か悲しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ