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サヨナラのミラ  作者: sugar
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初めまして。

俺はすべてを失った。

住む家も、友達も、家族も。

そして、恋人も。







日本は未曾有の災害に見舞われ、列島は分断、人口の都市一極化、被災道府県の処理と様々な問題を抱えていた。


「スターフォールからもう、三年もたつのか」


紫煙に巻かれながらふと空を見上げた。

幾重にもなるフィルター状の膜。まるで、空を見ることを禁じられた巨大な箱のようだ。

「スターフォール」

自然災害とされているが、現段階では原因不明のまま名前だけが世の中に出て、一人歩きしている。

その災害の副産物が、この粒子ドームだ。

スターフォール後、日本の環境が激変してしまったことを受けこのドームが建設された。


(環境が変わると、匂いも変わるのか)


11月。そろそろ冬支度を整えてもいい頃合いだ。

だが、このドーム内は全くの適温。

風も人工、森林も勿論人工。

何て言えばいいのか・・・・。

強いて言うならば、息をしていないのだ。この国は。


再び歩きだし俺は心の拠り所を探して、思い出の地をふらふらとさまよう。まるで死に場所を求めて、樹海をうろつき回る自殺志望者のように。



出来もしないくせにそんな事を考えて馬鹿みたいだと笑ってくれ、当事者じゃなかったら俺も笑う自信がある。


暫く歩くと視界の開けた場所にでた。

災害の爪痕を微塵も感じさせない不気味なほど整った公園だ。昔は、高層ビルやら、ブティックやら、総合複合施設が立ち並びきらびやかに輝いていたのだが、今やその片鱗すら見えない。


公園の一角にイベントスペースとして設けられているベンチに腰掛け、煙草に火を点ける。腰を大きくのけ反らせ再び空を見上げた。


「あの時は、星、沢山見えたのにな」


ペテルギウス、プロキオン、シリウス。冬の大三角。

この時期なら、浮かんでいるであろう星ぼしを指でなぞり、ぼんやりと虚空を見つめる。


笑うような、泣くような、曖昧な表情を浮かべているのが自分でもわかる。


(未来・・・)


あのとき見上げた空さえも、奪われてしまった。何もかもが手のひらから零れ落ちてしまうのだ。

いや、しまった、と言えば良いのだろうか。

一握の砂。拳を握りながら思う。

残ったのは、たった一握で片付けられてしまうこんなちっぽけな命だ。



(帰るか・・・)


フィルターだけになった煙草の残骸をポケット灰皿に捩じ込み立ち上がる。その時だ。

体が吹き飛ばされそうな爆音と共にドームが鮮烈に発光し、視界を奪われる。


「始めまして」


ぼやけた視界のなか、一人の女性が目の前に立っていた。

年は、17~20位だろうか。

短い薄黄色の髪、やせ形で見たこともない服を身に纏い、瞳は金に近い濃黄に輝いていた。


「始めまして、私は、と・・・」


途中で言葉を切るといきなり倒れてしまう。

状況が全く理解できない俺に、追い討ちを掛けるように警報が鳴り響く。


「ドーム内の汚染濃度が変化しました。屋外にいる都民の皆様は至急屋内に避難してください。繰り返します・・・」


先程までは緑の薄い膜だったドームの天上は真っ赤に染まり、上空の浮遊ディスプレイには危険濃度を知らせる警告が表示されている。


その場を早急に離れようとしようと立ち上がった時、さっきの女性が目に入った。


(このままじゃまずい。警備ドローンのAIには説明も効かないし、見つかった場合のリスクがあまりにも高い)


自らの保身五割、見捨てられない偽善で五割。捨て置いて、見つかった時のリスクを考えたら保身の方に重きが置かれる。

瞬間的に判断するのは、自分で言うのはなんだが優れている・・・と思いたい。


(警備ドローンを掻い潜るのは骨が折れるが・・・仕方ない)



幸い、街頭カメラが死角になる所が多い。警告表示で反射する点滅の瞬間を見計らって物陰をつたい歩きする。


(しっかし、軽いな)


彼女は、抱えていることすら感じさせない軽さだった。まるで、軽石でも持っているかのようだ。


そうこう考えながら移動しているうちに、いりくんだ路地に入る。街に在中しているドローンが先程までいた公園の方向に向かって行くのを確認して、帰路を急ぐ。慌てず、慎重にだぞ、西園望。

そう自分に言い聞かせる。









自宅にたどり着いた時には、すでに12時を回っていた。

すんなり帰れれば、10分もかからない距離だったのに、隠れながらのせいで倍以上時間がかかってしまった。



「とりあえずは、安心かな」

「ん・・・」



ベッドまで運ぶ前に、彼女は目を覚ました。


「大丈夫か?いきなり倒れたもんだからビックリしたよ」


彼女が生きているのは、抱いている段階で解っていた。



「んえっ・・・・?」


まだ脳が覚醒していないらしい。赤子のようにモゾモゾして目元を擦っている。


「腹減ってんだろ、えーと・・・」


そういえば、名乗りの最中に倒れたものだから名前がわからない。

どもらせていると、彼女は言い放った。


「私は、ミラと言います。貴方の願いを叶えるため、宇宙から参りました」

「はっ?」


突拍子も無いことを言ったせいで、思考回路が全く機能しない。それどころか、今にも処理落ちでショートしてしまいそうだ。

ない頭なりに、熟考していると自称宇宙人のミラはこう続けた。


「で、叶えるのは良いのですが・・・何でもいいので、食べさせてください・・・」


クークーと可愛らしくなる腹の虫の音と、その言葉で考えるのを止めた。


代わりに、変な笑いが込み上げてきた。

それは、緊張が切れたからなのか、目の前の自称宇宙人のミラが余りにも間抜けだからなのかは解らない。或は、両方かも知れない。

「仕方ない。有るもので作るから、少しだけ時間をくれ」


「あぁ、ありがとー」


力尽きたのか、ベッドに横たわる。

こうして、自称宇宙人のミラと俺の不思議な生活が始まった。




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