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03

 数日後。

 今度はととの学校で小学部の学習発表会があったので、ヨシコは兄と妹とを連れて見に行ってみる。

 学年ごとの発表で、オペレッタや寸劇、技披露などをそれぞれステージの上で行うというもの。ととたちも自分にできる技を劇の形式で観客に披露していた。

 自閉のお友達などは、環境の変わるのだけでもずいぶん大変だろうに、それでもがんばって発表をしている。

 そんな中でもととは、いつものマイペース、

 かと思ったらヨシコたちはすぐに壇上のととに見つかってしまった。

「あ!いた!」

 と指さして叫び、なぜか感激で涙ぐんでいる。

 出し物が滅茶苦茶にならないか、ヨシコはハラハラしながら見守っていたが、それでも、舞台上で得意の上体起こし(腹筋)をなかなかのハイペースで見せてくれた。


 家に帰ってから夕食時、ためしにヨシコは

「今日、学校で何やったの」

 と、ととに聞いてみた。

 すると、ととは急に箸を置いて席を立った。

 そして椅子の後ろに寝転んで1人で上体起こしをやろうと寝転ぶ。が、頭を机の角にぶつけ「あだ」と頭をさすってからすぐに立ち上がって席に戻り、また何事もなかったかのように箸をとってご飯の続きを食べ始めた。

 一連の流れがあまりにもムダがなく、ご飯どきに中座したことを叱るのも忘れてヨシコはすっかり一連のショーを見守ってしまった。

 いや、ショーというよりコントに近いか。


 ◇


 先日はととの誕生日。

 また、年子の兄と半月の間、同い年になる時期がきた。

 その兄と言えば、誕生日当日(休日)は朝5時半くらいから起き出し、居間で何やらゴソゴソやっていた。

 前の晩は、頭痛がするだの咳が出るだのさんざんグズグズ言ってたのだが、その時も咳をしながら何か紙を切ったり貼ったり作っている。

 見ると、昨夜からのオモチャも出しっぱなしだし、新しくゴミも大量に出ていたのでヨシコが注意すると、工作が上手くいかないのも相まって、急に荒れ出した。

 起きてきた妹とも喧嘩になり、工作物はほったらかしで、寝室にこもる。

「頭が痛い。気持ち悪いからご飯いらない」 

 おお、いつものパターンですな、とヨシコは放っておくことに。


 ととはいつものように、(休日は特に)爽やかにお目覚め。

「とと、今日誕生日だね」 

 と声をかけると、すっとんきょうな声で

「え? ぼく?」 

 と自分を指差す。そうそう、おめでとうと言うとうれしげな唸り声。

 何歳になったの? のヨシコの問いにはまるで興味なし。


 朝食後、妹が急に

「ととちゃんのためにお人形を作る」 

 と、トイレットペーパーの芯に紙を貼り付け、キノコのような人間を作成。


 もしかして、と兄が作りかけたものを見ると、どうやらミニチュアの公園と街のセットらしい。紙で貼り合わせた電車も転がっている。

 どうやら、弟の誕生日プレゼントを黙って作っていたらしい。なかなか心憎いことを。

 まあそれにしても作りが雑だなあ、とヨシコは電車を取り上げる。吹けば飛びそうな電車の中に試しに単3電池をひとつ入れるとちょうどおもりになって安定したので、寝ていたとらに

「こうすれば安定するんじゃない? 続きは作らないの?」 

 とみせたら、ようやく機嫌を直して起きだしてきた。

 その後、作業は順調に進行したらしく、ようやく完成した公園セットを兄、こっそり二階のタンス部屋に隠しに行く。


 夕方近くなって、広場で遊んでいたとと、ぴかの二人を誘って近所のお菓子屋まで歩く。

 予約してあったケーキが奥の調理場から箱に入って出てくると、とと

「わーい!!」

 とものすごい喜びよう。

 ヨシコとぴかが止めるのも聞かず、自分で持って帰ると主張。

 始めはそっとささげ持ってゆっくり歩いていたが、だんだんうれしさのあまり小走りになってしまう、しかもスキップもどきの縦揺れ。

 そのたびに妹に怒られて余計、箱が揺れてしまうのだがそれでも、どんどん小走りになるとと。

 それでも距離が近いおかげでどうにか無事に家にたどり着く。


 そして夕餉。恒例の手巻き寿司夕食、ケーキ蝋燭消しの儀を執り行ってから、まず妹がトイレットペーパー芯人形をととに「おめでとう」と渡す。

「え?ぼく?」(近頃の口癖)と、ととは大好きな妹から手作りのものをもらって、顔を赤くしながら大喜び。

 次に兄が大きな段ボールのパノラマを「はい」と渡すと今度は

「え~っっ!?」 

 と非常にびっくりしながら大興奮。

 いつもは自分に口うるさくて苦手な兄がボクのために? と思ったのかどうかは不明だが早速床に置いて、これまた兄自作のミニ紙人形を手に、小公園の滑り台やシーソーで遊ばせたり、船に乗せてみたり、電車を走らせたり。

 このゾンザイな作りでよくどれがシーソー、どれが船とか解るもんだ、さすがきょうだい、と大人からはおかしな褒められ方をしているにも関わらず、兄はまんざらでもなさそうに、廊下に出て隠れてニヤニヤしている。逆に妹は、すぐに自分の人形が放り出されてしまったのをみて泣きそう。


 そしてついにメインの、お父さんお母さんからのプレゼント。

 いつもはゲームとか音の出る絵本とかが多いが、今回は実用品、しかも今一番興味あるところで、目覚まし時計 ということで。

 しかも見た目はジミで、大人になっても使えそう。

 そしてここが彼好みだが、メロディーに宮崎アニメの4曲が選べるようになっている。

 もちろん、お気に入り『となりのトトロ』も入っている。

 すっかり時計に心奪われたととを前に、悔しさをにじませながらも

「まあ、キカイものには敵わないよ」 

 と物分りのよい所を示そうとする兄、自分の人形がうち捨てられたのもすっかり忘れ、一緒になって時計に夢中な妹、それぞれの表情をみせて、とと10歳の誕生日の夜はふけていったのでありました。


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