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とと九歳・お互いニンゲンが出来てきた的な秋 01

とと画・どんぐり歌う、秋の歌

挿絵(By みてみん)


  妹・ぴかは新しくスポ少のバレーボールを始めたはいいが練習に疲れ切り、兄は尿崩症の症状と投薬とのタイミングに日々苦心し……

 と他のきょうだいがドタバタしているさなか、なぜか1人で創作ダンスなぞ。

 曲は「はとぽっぽ」。

 片手を腰に、片手を野球帽のひさしのように額にかざして指先は揃えて前に(多分くちばしのつもり)、そしてエジプシャンダンスのようなすり足とお尻を前後に振りながら右に数歩進み、くるりとターンして左に数歩進み、この繰り返し。

 神格化したハトを表しているのか? ぽっぽっぽー、とヨシコが歌ってやるたびにアルカイックスマイルを浮かべたととが、ひたすらこの踊りを繰り返す。

 動作はゆったりしているが妙にキレがあり、お尻を振る回数も数歩中1回か2回程度で、どちらかというと能の世界かも、知れなかった。


 ◇


 近頃少しは、お出かけしても大人しくついて歩けるようになったので今度は久々にじっくり遠出もいいかな? などと言ってた矢先のヨシコ、魚市場で思い切りととにまかれてしまった。

 しかし近ごろの見つけどころの優先順1位は、トイレか電光看板か、自動ドア近辺と固定されてきた。

 今回も、看板の点滅する『営業中』に魅入っているところを無事発見、確保。

 このように、まだ時おり野生動物VS監視官的な攻防は続いていたが、それでも少しずつ少しずつ二人はオヤコニンゲンとして進化しつつ、あった。


 ◇


 いつものように学校から「ま~(ただいま)」と帰ってきたとと。

 そしていつものように、しばしテレビに釘付け。

 ところが、少ししてからヨシコのところに「かしゃん」とやって来て

「ほん」

 とずいぶんはっきりと言ってから両手を出して

「ちょーらい」

 ときた。

「何? 本ですと?」 

 聞いてみると、うんうんとうなずく。

 本をくれ、と言っているのはヨシコにも判った。

 しかし急になぜ「ほん」なのか? 

 例えば大好きな絵本の「うんちっち」ならば「いちち」というように、タイトルで伝えるはずなのだが。

 母には通じないと悟ったのか、とと、今度は学校から持って帰ったカバンをゴソゴソ探り始めた。

 ところが、かなりしつこく奥の奥までさらってから、急に顔をあげ

「ない!」

 と一声さけび、そのままビスビスと泣き出したでは。

 とりあえず放っておいて、ヨシコは夕飯のしたくに取り掛かる。


 さて夕食時、熱すぎるご飯にぐずっていたととであるが、急に過去がフラッシュバックしたらしく、箸をぱたっと取り落とし

「ほん! ない!!」 

 とまた、ジメジメと泣きモードに。

「何? 何の本?」

 と聞いてみたら、今度は泣きながらも

「げげげ、きたろ」

 と応える。


 これでようやく、ヨシコにもおぼろげながら見えてきた。

 学校で何か面白い本(多分敬愛している鬼太郎)を見たので家に持って帰ったつもりだったのを、忘れたか何かで持って帰らなかった、という事だったらしい。


 あまりにも彼にとっては珍しいこだわり方だったので、実際にどのようなことがあったか確認したくなり、ご迷惑とは知りつつもヨシコは担任の先生宅に電話を入れてみた。

 え~! とびっくりされていた先生、それでも嫌がらずに日中の出来事を語って下さった。


 現在、「としょかんにいこう」という単元学習をしている小学4年生、その日は学校の図書室を利用して、好きな本を1つ、選んで教室に持ち帰ったのだと。

 ととが選んだのは「ゆうれい列車」by 水木しげる 。

 帰りの時間、「うちには持ち帰りません。ばつ」と聞いていたにも関わらず、とと、その本を自分のカバンにこっそり入れようとしていた。

「私も悪かったんですが……」すっかり恐縮した口調の先生。

 言っても聞かないだろう、と瞬時の判断で、彼がよそ見したスキに本をまたこっそりカバンから出しておいた のだと。

 今までのととならば、それでカバンに入っていなかったら

「あれ?」

 で済むか、そのまま忘れているかだったのだが、そこに気づいて非常にがっかりしているというところがまこと、成長著しい。

 先生はとても申し訳なさそうに

「ごめんなさい! 今度はちゃんと本人に言い聞かせます」

 と言って下さったが、

「いえいえ、つまんないことで電話してしまってごめんなさい」

 と逆にヨシコは恐縮しきり。

 だってヨシコが先生だったら、やっぱり『こっそり抜く派』だからね。


 今回はととに教えられたなあ、とヨシコは次の買い物の時に、おわびとして本屋で鬼太郎の本を買おうと探してみた。

 だが、ちょうどよいものが何も見つからず、なぜか「となりのトトロ」などと無難なモノを買って帰ったりして。

 一応、ととは喜んではくれたが、キタロウほどではありませんでした。残念。


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