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03

 それもあって、ととを少しは外に慣らしてみようか、とヨシコは夏休みの一日、親子公共機関の旅を企画してみた。

 今回の目標は、

→バスを使ってJR駅まで行き

→ついでに駅近くのデパートで買い物をしてまたバスで帰る、

 だった。


 まずは自宅から歩いて3分ほどのバス停まで。

 定期バスは田舎のことゆえ、1~2時間に1本という超のどか線なので予め前日に時間を調べておいた。

 それでも本当にバスが来るのか、不安になるくらいののどかさ。

 ようやく来たバスに、ととは案外落ちついて乗り込んだ。そしておりこうにじっと最前列のシートに座っている。

 ヨシコが何か話し掛けても

「しっ! し、ず、か、に!」

 と制されてしまうほど。

 公共の場所では静かにしている、という教育が学校でも行なわれている成果かもしれないが、それにしても徹底しすぎの彼。


 バスにかなりの時間乗ってから、ようやく終点・もよりのJR駅に。


 ところがいざ、料金を払おうかと思ったが、ととの金額がよくわからない。

 療育手帳(A)を持っているので(子ども料金の)半額、介助者も半額らしいが、この夏休みシーズン、たまたま子どもは全線100円均一!というイベント中だったらしく、そうなると介助者はまるまる自分の料金を払うことになるのか? というところが不明瞭で、運転手さんもまじめに考え込んでいた。

 結局、適当と思われる料金を払ってようやく親子はバスから降りることができた。


 JRの駅に、ととはすっかり魅了されている。

 現在では駅もかなりバリアフリーが進んできているため、エレベータもエスカレータも駅の両面に完備されている。

 エレベータに魂奪われ中のとと。まずエレベータに乗って駅構内に。そしてすぐにきびすを返し、またエレベータに乗って下まで。

 これを何度か繰り返す、他に人もおらず、初めての体験なのでヨシコは2回まで放っておくことに。


 次にとと、駅構内を南に進み、そちら側のエレベータにも乗りまくろうとする。

 それはさすがに御勘弁下さい、と止める。


 次はエスカレータに何度か乗る。


 そのうちに、電車が来るのに気づいてしまい、「ぅる(乗る)!!」と宣言。 

 改札に駆け込もうとするのをあわてて制したがどうしても乗ると主張、たまには電車もよかろう、と予定を変えて切符を買うことに。

 何故か切符販売機はすぐ判別できるらしく、ととは機械にまっしぐら。

 しかし考えてみたら療育手帳があるので、ようやく機械をあきらめさせて、ヨシコはととを窓口に引っぱって行く。

 自動改札では、通る前に「前に切符出るよ」「切符でないよ」といちいち指示をしながらととの背中をぐいぐい押して、なんとか通過。


 電車大好き! なのでとりあえず2駅ほど乗って降りる。

 席は空いていたのだが、外の見えやすい出入り口付近に立っていた。


 着いた先は乗った駅とあまり変わらないふつうの田舎町。


 とりあえず降りて(またエスカレータとエレベータに乗る)、近くのスーパーまで歩いていって、ヨシコはなぜか浅漬けの素を1瓶、ととはアイスを買って近くのベンチで休憩。


 特に遊ぶ場所もないので、また駅に戻り、はじめの駅まで戻る。

 今度は新型車両で、何か目新しかったのか降りたがらず、駅に着いてドアが開いてからヨシコはととを無理やり抱きかかえて電車から降りた。


 駅ではとにかく、機械ものに目を奪われっぱなし。

 公衆電話も「する!!」というのでヨシコはコインを入れさせ、家で待っているおばあちゃんに電話をさせてみる。会話にはならないが、とりあえずは気が済んだもよう。


 次のバスが到着するまでには、元々寄りたかったデパートまで行けそうもなかったので、仕方なく駅に隣接した不二家にて『ペコちゃんのほっぺ』を家族への土産として購入。


 とと、バスでは大事そうに菓子をひざに乗せていた。


 予定していた夕飯の買い物が全然できなかったものだから、また急きょ予定を変更。

 途中のバス停で降りてそこのスーパーに寄ることに決めて、ヨシコはケイちゃんに電話してそこまで迎えに来てもらうことに。


 今度はととに、「次、××って言ったらボタン、ピンポーンしてね」と頼む。

 そんな所までいじっていいのか! とワクワクしているとと。

 ようやく降りる場所になり、合図してやるとうれしそうに、ピンポーン。


 無事にバスを降りる。今度も料金のことで運転手さんが悩み出す。

 ところが告げた金額が行きの2倍近く。乗った距離も短いのに何故?? とヨシコは思って少し食い下がったが、行きの料金が安すぎだと思っていたし、ととがどんどん降りて行こうとしていたので言われた通り払ってからあわててととを追いかけるように降りる。


 降りてからヨシコは、なんだかすっきりしてるな~と次男を見る、ととは何故か手ぶらである。

「とと……あんたお菓子は」

「え?お、か、ち?」

「もしかして、バスに置いてきた?」

「うん」

 ととの爽やかな返答にものすごい虚脱感をおぼえ、母と子の旅は終了。


 それでも家についてから、ヨシコはバスの営業所に電話してみる。

 お菓子が届いています、というので、夕方遅くなってから、少し離れた営業所まで取り戻しに。

 お菓子はちゃんと返ってきた上に、事務所の方が

「運転手から預かってるんだけど、料金を多く取りすぎた、っていうので」

 といくらかの小銭(念入りにセロハンテープで留めてある)を返して下さり何だか少しだけテンションを取り戻したヨシコであった。


 まあ、終わりよければすべてよし、ということでお出かけの一日は無事に暮れていった。 

 

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