03
◇
なんとなくだらだらと電話待ちという日であります。
昨晩のとと、夕御飯の前からぐったりしていた。
そして、ご飯を半分くらい食べてから急に立ち上がる。
牛乳を取りに行くのかな、と思っていたらなぜか途中でがくっとひざをついて、そのまま座り込む。
「どうしたの?」
とヨシコが額に手をやっても、熱のある様子はなし。
仕方ないのでヨシコは、彼に手を添え、パジャマに着替えさせて寝室に連れていった。
ヨシコが添い寝してやるとニコニコして、時折「おっぱい」などと手を伸ばすプチ・セクハラ行為に走りながらも、案外早く寝入ってしまった。
その朝も、ひとりで起きてきたはいいが、何となく切れが悪い。しかし熱は36度にもならない。
とにかく、スクールバス乗り場まで連れて行って乗せてしまったものの、学校から
「グッタリしているので迎えに来て下さい」
という電話が来そうで、ヨシコは日中ずっと浮足立っていた。
先日も、午後に入って学校から
「給食は食べたんですが、何だかぐったりしていて……熱はないんですが迎えに来ていただけます?」
という電話があったばかり。
ただ、その時はヨシコ慌てて迎えに行ってみたものの、肝心のととは、車に乗せて発進した瞬間からお気に入りの曲に合わせ
「へー!」
とヘビメタっぽく叫び始めた。
家に帰っても、元気よくおやつを食べゲームに興じていた様子を目の当たりにしたばかり。もちろん、発熱もなく
「これって……仮病では?」
という出来事があったばかり。
今回も同じパターンになるのか? ヨシコは何度も電話を見つめる。
どうも、彼なりに「ぐったりすれば心配してもらえる」という学習をしたようだし、学校でも
「だいじょうぶ?」
などと声をかけられたらますますぐったりしてしまうだろう。
ところで、この「へー!」は、この頃の流行らしく、お腹の底から息を吐きつつ、やや裏声をかけて、舌をとがらせるように突き出し発声するのが正しい作法。
蛇と関係あるらしく、
「へび、くねくねくね~、へー!」
とつながる事もたまに。
蛇を思いつつ、学校からの電話待ちで結局、一日終わってしまうんだろうな、何とか無事にこの冬を乗り切れますように、ヨシコの願いは切実であった。
◇
そんな願いもむなしく、冬から春にかけて、ナミキ家にはインフルエンザという嵐が吹きまくった。
まずはとと、それからとら、少し遅れてぴか、そして何とばあちゃんとじいちゃんまで。
少しずつ時差をおいて次々と高熱を発し、病院のお世話になる時にはもちろんヨシコも要同行、というわけで。
しかも、いつもは口が達者なばあちゃんも普段車椅子生活ということもあり、高熱ともなると一人で立ったり座ったりが今まで以上に困難になる。一度は高熱時に立とうとして転び、大腿骨を折って酷い目にも遭っているので、高熱には要注意であった。
そして、気力体力のすっかり衰えているじいちゃんもヨシコには心配の種。
高熱のためにトイレで崩れ落ち、歩行すら困難になることがしばしばであった。
それでも、じいちゃんはいくら調子が悪くなっても
「起きられる?」
とヨシコが聞くと
「だいじょうぶ」
としか返事をしない。しかし、五分たっても十分たってもそのままの状態で固まっている。
かと言って、パニックになったり感情的になったりするわけでもなく、いつも淡々としている。
「ねえ、本当に大丈夫?」
「大丈夫」
この会話の繰り返し。しかし物体的には何の移動もない。
ヨシコの看護介護なんだかな~の冬はあっという間に飛び去っていった。




