とと十一歳・冬来たりなば春遠からじ 01
とと画・ヨシコ装丁「すき」の額
卒業式の日に、お世話になった先生に贈ったもの。
ミニ額に雑誌のちぎったものを糊で貼り付け、中にととの絵を。
◇
ととの学校ではまたマラソン大会の季節に。今年の彼のコースは約1キロ。
ととは、全50人余の中でいつも30番以内に入ったことがない、というマイペース野郎であった。
さて本番ではどうか? と思ったら。
姿は『走っている』のに、なぜかととはのんびり歩いている子たちよりもずっと遅い。
しかも走る姿、かなりあごが上がっている。
近頃、家にこもってゲームばかりだったからなあ……と少し反省したヨシコ。
そこで、急に思い立ち、ととがスクールバスから降りてきた時、
「ねえとと、ランラン公園に行きたい?」
と誘ってみる。
ちょうどドングリなどを拾って、学校に持ってきてください、とお便りにも書いてあったし、ランラン公園ならばスクールバス停から家への帰り道に通りかかるし、木の実を拾いながら、広い敷地を歩きまわるのもよいかな、と思いついたヨシコ。
ととは、ヨシコが何度か公園、と言っていたので始めは
「今日はマラソンもあったし……気が進まねえなぁ」
という顔をしていたのだが、ようやく
「いく!」
と答えた。
ヨシコ、気が変わらないうちに、と思い、急いで車を止めて公園へ。
週末や天気の良い日などは、家族連れでにぎわう公園なのだが、やや午後も遅い冬のひとときは、さすがに閑散としている。
ウォーキングや散策ににいそしむ人々の間を縫って、それでもととはうれしそうに先へ先へと進んでいく。
最近新しくなった遊具でひととおり遊んでみたり、公園内に住んでいるらしい猫を触りに行ってみたり、水の中に小石を投げ込んでみたり、久しぶりの公園散策を思いきり満喫していた。
約一時間程して、少し寒くなってきたので帰ることに。
いつものように、家に帰ってすぐにゲーム、という生活から考えれば、なかなか健康的でよいかも。とヨシコは自己満足のきわみであった。
これからも、週に一度くらい一緒に寄ってみようかな、と決心する。
……結局、ドングリのことは忘れ果てていたのだが。
それから一週間後。
「とと、今日も公園で遊んでいこう」
そうヨシコが声をかけ、車を公園駐車場に入れる寸前に彼が言った。
「もう、いいの。おうちかえろ」
はああ? この拒否は何? しかも、けっこうくっきりとはっきりと。
体力作りと健康維持活動は、あえなく一回きりで終了となりましたとさ。
◇
ぴかは相変わらず、時には自分でおむすび弁当など用意して朝から友人宅に出かけたり、と充実した日々を過ごしている。
ある日のこと。
ヨシコは探しものついでに、ぴかの机周りを整理していた。
そこで、クシャクシャになった半紙を一枚拾い上げる。
墨字で、しかも縦書きでしたためてある。子どもの字のようではあったが何か書状の雰囲気。
どうも、先日友だちのおうちに遊びに行った時に使ったものらしい。
その友だちユウちゃんは、大の歴史好き。戦国ものから大江戸時代劇、はたまた韓流の歴史物まで幅広く網羅している。まあ、歴史好き、というか歴史ドラマが好きなんだが、とにかくうら若き歴女であった。
そんな彼女のところで遊ぶことといえばそう、歴史ごっこ。
この時の遊びには、大河ドラマの流れもあって『江』が採用されたらしい。
なので、この半紙は、どうやら手紙、それも往復書簡として書かれたという体裁であった。
「読んでみましょう。こほん」ヨシコはひとり、手紙を捧げ持つ。
『元気にされていますか
信長より』
『元気でいたらなによりです。
江』
『信長様・お江へ
元気にしています。
ひで吉がこまらせていますか?』
そして裏にはこうある。
『市様へ
それは、よいことですね。ばちあたりでしょうね。
ひで吉は死にました。ゆえにございます。』
『たしかにそうでございますね。石田みつなりも
死にました。ゆえにございます。』
私、もしかして歴史的にものすごい文書を机の下から拾ったのかも!
とヨシコおそれおののく。ゆえにございます。
……んなことあるワケなく、彼女はその史実まるっきり無視の歴史的文書を丸めてゴミ箱にぽいと放り込んだのであった。




