03 修学旅行の巻
とと達小学部6年も、もうすぐ修学旅行。一般の小学校と同じく、一泊二日の旅程である。
今年は、震災の影響で行き先がなかなか定まらなかったのだが、結局例年と同じく東京への旅行となった。
タイムスケジュールは、4週間前に保護者への説明会があり、この頃から、子どもらも修学旅行のための学習と訓練とが1日1時間くらいずつ週3回~4回入る。
2週間前に、家庭で旅行カバンを準備。中身を指示どおり詰めいったん学校へ持たせる。
子どもが中身の確認などを授業を通して学んでから、カバンは先にまとめて学校からホテルに送られる。
このころから毎日の体温、起床就寝時間、食事排便などのチェック表を毎日つける。
その後も緊急連絡先などの書類を色々提出。その間、子どもたちは学校でしおりを作成する。
電車、新幹線、貸切バスと乗り継ぎ一日目は東京タワー、お台場近辺と遊びあるき隅田川の水上バスにも乗るらしい。二日目は上野動物園。
子どもらの人数は30人余。引率教員は20人+養護教諭1人。肢体不自由のお子さんもいるので、保護者の方も3人ほど同行する。
時々ととも、ファイル形式になったしおりを持ち帰ってみせてくれるのだが、いつ、どこへ、だれと、どのようなコースで、みどころは、食事は、ホテルでは、バスでは……みたいにプリントを切り貼りしたものを小さなスケッチブックに順に貼り付けていくらしい。
面白いのが、「おみやげアンケート」というのも家で書いて提出するところ。
おみやげを買う場所は上野動物園と決められている。
家で「このおみやげを買ってきて」という希望があれば、金額内で指定ができるとのこと。もちろん「おまかせ」でもよい。
もたせるお小遣いは5000円。すべて千円札でお願いします、との指定があった。
自閉のお子さんとか、見通しの苦手な子が多いし普段から障がい等であまり外に出ない、お泊りに慣れてない、という子もいるかと思うので事前授業を密に行って下さるのはヨシコら保護者にとってもたいへんありがたい。
事故がありませんように、とヨシコは願いをこめて少し古いバッグに荷物を詰めてさて、ととに持たせようとしたとたん、いきなりバッグの底が抜けてしまった。
……ちょっと不吉な気もしないでもなかったが、急ぎ新しいものを用意し、後は天と引率の先生に任せることに。
そして、あっと言う間に旅行本番。
出発当日は朝8時少し前に駅集合、かんたんな出発式を行い、元気よく「いってきま~す」。
翌日5時すぎ、また同じ駅にお迎えに。
どの子もそれぞれ元気に帰ってきた。
解散式の後、各自担任の先生に様子を聞いて引き取るのだが、ととは、特に困ったこともなく、東京タワーの展望にある、ルックダウンウィンドウも
「こわい」
と言いつつも楽しげにのぞいていたらく、観覧車も平気だったとのこと。
小学部6年の良い子たちのみんな、一泊二日を十分に愉しんできたようでよかったよかった。
……実は彼、旅行前日にちょっとやらかしていた。
ヨシコと買い物に出た時、広い量販店の中に入ってすぐゲームの機械に夢中になってしまったのが原因で、その後、母の見てないスキに姿を消してしまい、約15分ほど迷子になってしまっていたのです。
ヨシコ慌てふためいて探したがととは全然見つからない。
建物外のトイレや駐車場にもおらず、店内の出入口近くでずっと待ってみたのだが、いつまでたっても姿が見えないのでもう一度トイレを見に行ったら、なんとトイレ脇の通路にひとりさびしく体操座りしているのを発見した。
カードゲームの機械に心奪われ、ふつうならそのままずっと夢中になるところ、急に自然の欲求に負けてしまったらしい。
すっかり涙目になっていた彼と再度店内に。やや照れもあったのか
「母さんがいなくて、寂しくなっちゃった?」
とヨシコが聞いてもニヤニヤしながら
「しらん!」
と答えていた彼も、今度はさすがにゲーム機には見向きもせず、しっかりヨシコの後をついて歩いていた。
ここで懲りたので、修学旅行でも多分同じような事はないだろうと思っていたが、とりあえず問題はなかったようなので、ヨシコはほっと一安心。
駅からの帰り、車の中でも
「とと、修学旅行楽しかった?」
「しらん!」
「動物園でパンダみたの?」
「しらん!」
と、完全に供述拒否していたが、それでも楽しい思い出を作ってきてくれたであろう、と。
帰宅後、ばあちゃんにも
「旅行はどうだった?」
と聞かれ、しらん! と答えるかと思ったらようやく
「しん、かん、せん!」
と答えていた。
しかし大好きなじいちゃんはやっぱり外せないとと、もちろん、家についてまず第一声が
「じちゃ~ん! た~いま!」であった。
そしてニコニコしているじいちゃんをみるとうれしそうに
「あ、じちゃん!」
そしてなぜか
「かぁい~~」と。これも少しじいちゃんと離れて過ごした後必ずといっていい程見られる光景。けなげに留守番して偉かったね、ということか?
旅行のあれやこれや、またいつか話してくれるかなあ。何年後でもいいからね~、とヨシコはカバンからお土産を出しながら、じいちゃんを撫でまわしているととを愛おしげに見つめていた。




