02
夏休み中に、ケイちゃんは子どもらを連れて実家に一泊で出かけていた。
翌日午後、自分の用事が終わってようやくそこにたどり着いたヨシコ、しかし玄関先にケイちゃんが困ったような顔をして立っている。
「とらがととを連れて散歩に出たんだけど、どこかですれ違わなかった?」
以前にも数度、とと兄がととを連れてこの近所の散歩に出たことがあったので、特に気にせず家に上がって腰かけたとたん、ヨシコのケータイが鳴り出した。
公衆電話からだった。
「あのさ……」と長男の声。
「怒らないでくれる?(コイツの常套句)あのさ、道に迷っちゃったみたいでさ、マルヤススーパーの前にいる」
そのスーパーならヨシコたちがいるところから歩いてすぐ。遊びに行くたびに買い物にも行くので子どもらにもなじみはあるはず。
そんな場所で道に迷ったということなのか? とよくよく聞いてみたら
「いつも行くスーパーじゃないけど同じ名前なんだよ」と。
同系列のスーパーがもう少し先にも一軒ある、多分そこから電話してきたらしい。
とりあえずヨシコは車を出した。
もう一軒のマルヤス駐車場に着くと、どこで見てたのか店内からひょっこりととが、
「かさん(母さん)!」
そして続いて兄が
「あ~よかった~」
と表に出てきた。
どちらも汗だくで、ヘタリ顔。それでもようやくほっとしたような表情。
ケイちゃんの実家まで戻る車中、とらの話を聞く。
・はじめは順調だったが、途中、鎖から外れた犬に追われ、ととが恐怖のあまり逃げ出した(兄の方が犬嫌いなので、この話は半分怪しい)。
・気づいたら道がわからなくなっていたので適当に進んだ。
・サイフを落としてしまった(が、ととがすぐ拾い上げた。しかし黙っていたので気がつかなかった)。
・喉が渇いたので水を買って飲んだらお金がなくなってしまった(サイフがないのにここで気づいたらしい)。
・完全に道に迷い、とりあえず「古いお寺はどこにありますか」と通りかかりの人に聞く(なぜ古い寺? とヨシコは少し思ったが黙って続きを聴く)が、見当違いの寺に案内される。
・近くにスーパーを見つける。金がないと思ったので電話もかけられず途方にくれていると、通りかかりのおばさんが20円下さった。どこの方か聞いたが、すぐにバスに乗って去られたとのこと。
・ととが電話を見つけてくれた。ついでに兄のサイフも「あったよ~」と出したのであわてて百円玉を出して電話する。
父さんの実家も、父さんのケータイも番号がわからず、とりあえず暗記していたヨシコのケータイに電話。
ここまで、しめて2~3km、時間にしたら1時間くらいの冒険だった。
それでも、いつもはヘナチョコだの小心者だのインドア派だの呼ばれている(散々だな)長男・とら、それなりにがんばったようで。
長男はなぜか、ナミキ家の周りでもケイちゃんの実家近辺でも
「ととを連れて出かけていい?」
ということが多く、外でどんなことを巻き起こすか判らない小僧を、案外平気で連れ歩く。
地理の不案内な場所でも、弟と一緒ならば心強いらしく、ととも面白いもので、兄貴の言うことならば(機嫌を損ねなければ)たいがいはちゃんと聞く。
今回はさすがに、きょうだいっていいな、とヨシコは感じたのであった。
危険がいっぱいの世間ではあるが、道を案内して下さったり、小銭を下さった方々に感謝しながら、短い冒険の旅は無事に終わった。
その後、とらの夏休みの日記はこのネタで決まり。◎◎新聞、というタイトルで作るペラ一の体裁に地図と写真とでまとめていた。
その名も『まい子新聞』と。