とと十一歳・雨にも負けず風にも負けずの秋 01
とと画・からすも西の空に飛んでいかぁ
台風が次々とやってくる関係で、休校などのイレギュラーな対応が多い今日この頃。
そんな、少し大き目の台風が通過中のある日のこと。
子どもらはそれぞれ3校とも休校、風雨は強いながらもそれでもあまりいつもと変わらないにわか休日の昼さがり。
ちょうど近辺の沿岸近くに台風上陸の情報が入った頃、突然電気が消えた。
ヨシコはパソコンの前、ととはテレビの前で一瞬ぼうぜん。
急いで周りの家を見渡してみると、今まで点いていた灯りも見えない。
どうも全域、停電のようすだった。
それでもノンキな親子、少し待っていればまた復旧するだろうと、のんびりと待つ。しかし、今までやっていたパソコンはもちろん、使えないのでヨシコは普段あまりやっていない家事なぞちょこまか。
ととは、今まで夢中になってやってたテレビゲームが突然消えたので
「あれ」「んも~」
などと言いながら、はじめはコンセントやリモコンの電池を調べていたが、ヨシコやきょうだいに、
「でんきが、きてないの。だめなの」
と何度も説得され、不承不承リモコンから手をはなす。
しばらく様子をみていたが、電気が戻ってくる気配がないし、近所の友人からもメールがきて、思ったより広範囲のできごとのようなので、仕方なくヨシコは停電時の準備を始めた。
まず、冷蔵庫から氷を避難、アイスボックスと子どもらの水筒に氷と保冷剤を急いで移す。
電話機は、ファクシミリ付きのいつものを外し、非常用に物置にしまってある旧式のプッシュホン電話に付け替えておく。電源が不要なので電話線一本つながっていれば、とりあえず一般電話が使えるのがありがたい。
(※ 注意 光回線などは停電時には使えないそうです。ご注意を)
ラジオは電池式と手回し充電式の2つを用意。
懐中電灯は娘がいそいそと集めている。
水がないと困る長男には、ペットボトルにできるだけ水を汲んでおく。
裏の川は、みるみるうちに水かさが増しているが、意外と雨の量が少ない。
それでも、いざ避難となった時困らないよう、リュックに当座の着替えや簡単な食糧を入れておく。
そのうちに、台風が遠ざかっていくのが雲の流れからもはっきりとしてきた。雨脚が急ににぶり、川の水も急に引いてきたのが判る。
避難はしなくて済みそう。ここでまずヨシコは一安心。
しかし電気はまだ戻らず。
そのうちにだんだん暗くなってきたので、今度は慌てて照明用の電気やろうそくを用意する。
あまり暗くなると、今度は調理もできなくなる、と遅まきながらヨシコも気づき、早めにご飯の支度を。お釜一杯のご飯をせっせとおむすびにする。
ちょうど勤務先から帰るケイちゃんに、スーパーでおかずを少し買ってきてもらうよう頼む。
そして、冷蔵庫の中を少しでも減らそうと、買ってあったウインナーともやしを出してきて炒める。
夕方6時過ぎ。ケイちゃんも帰ってきて、ようやく家族そろったので早めに夕飯を済ませる。
いつもならばまだテレビを見たり宿題をしている時間なので、子どもらは
「なんか変」
と言いつつも、暗がりでおむすびと溺愛のおかず、ウインナー炒めとでキャンプ気分のご飯。
後片付けをできるだけして、茶碗は朝洗うことに。
他にすることもなくなり、みんなでもう寝ようかという事になったのが7時半。歯磨きと着替えをなんとかすませ、早々と就寝。
窓から見える、一本向こうの通りには電気がきているらしく、どの家にも煌々と灯りがともっているのがまた哀しい。
さて、一夜明けて……
ヨシコ愕然。まだ電気きてないし!
ケイちゃんは5時半過ぎに家を出なければならないので、薄暗がりの中で支度して(もちろんご飯も弁当もない)仕事に出かけて行く。
6時過ぎに子どもらも起きてくる。いつもはもう少し遅くまで寝てるじいちゃんばあちゃんも早々に起き出す。
「ゆっくり寝てればよかったのに」
とヨシコがいうと、早く寝過ぎて目が覚めた、とのこと。
ととは、いつもならば案外目覚めが悪く、起こすのに苦労するのに、その朝に限って
「あのね、まだ電気きてないの」
と教えると、何故か急にむっくりと起き上がり、慌てて階下へと降りていった。
しかしテレビが点かない事が判ると、また寝に戻ろうとしたので焦って引きとめる。
あり合わせのご飯と、今や冷蔵ではなくなってきている冷蔵庫から救い出されたおかずの残りとで、何とか朝ご飯。
ラジオでは、県内で13万6千世帯が停電している、と伝えている。
うちもそのうちの一軒なんだな~、とヨシコは妙な納得を。
ご飯も済み、子どもらがそれぞれ学校の支度をし始めた7時ちょっと前
突然、灯りがともりました!!
思わず歓声があがるナミキ家。
ととはすぐ、テレビを点けました。それから、ヨシコの手をとって
「かさん、(ちょ)っと、きて!」
と、スイッチのところまで引っ張っていくと、部屋の灯りをいちいち点けてみては
「ほら、ついた!」
と教えてくれた。ありがとうございます。
どうやら無事に子どもらも学校へ。
出がけに長男がにやにやしてこう言った。
「これも立派な節電になったよね」
確かに。
月並みだけど、失って知るありがたさ。
電気のないまま眠る、そして起きた時も電気がない、(結局17時間近い停電でした)というのはナミキ家では多分(ヨシコの世代でも)初めてのことだった。
それでも、水道やガスが使えただけでもナミキ家は大助かりだった。
これでトイレが使えなかったら、真っ先にどこかに避難せねばならなかっただろうし。
震災やその他の災害でもっともっと苦労している家族がたくさんいるんだ……という事をわずかな期間であっても再認識する貴重な時間ではあった。
暗闇で娘とあやとりしたり、灯りのまるでない夜空にまたたく星をながめたり、それでも平穏無事だったことを、ヨシコはつくづく感謝した。




