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03

 ◇


 台風が次から次へとやってくる。

 そんなある朝、ナミキ家上空をちょうど台風が通過中だった。

 しかし、ととの学校は休みになる基準の『午前6時の時点で3警報同時発令』にまでは届かず、微妙な判断を迫られることになったヨシコ。

 他のスクールバス停近くに住んでいる友人からヨシコのところに『スクールバスが走ってたよ~』とメールがくる。

 どうやら、学校は無事に営業中らしい。しかし裏の川が心配だし……すでに休みと決まったぴかも暇そうにテレビなんぞ見ているし、今日はとともパス1と決める。

 8時過ぎ、ととの学校に欠席の連絡電話。学年主任の先生が出てくださり

「6年生は、とと君で14人目です~欠席の連絡」

 寂しそうな声でおっしゃった。学校ががらーんとしているらしい。

 学年全体の約半数という数字で、他の学年も似たりよったりらしかった。


 ◇


 台風やら自然災害に何かと振り回され、それでもナミキ家の面々は無事に過ごす日々であった。


 ある晩のこと。ヨシコも子どもらもすっかり夢の世界というとき、


 がた、ぐらぐらぐら・・・


 と、いきなり足元をすくわれたような揺れ。

 大部屋で川の字状態だった脇のとと、ぴかも目をさまし、きょろきょろしている。

「地震、地震だよ」

 とヨシコは二人を近くに引き寄せ、入口のドアを大きく開けてから低い姿勢のままなるべく入り口に近いあたりに座ってやりすごしていた。

 隣の部屋で寝ていた長男は、ベッドの上に起き上がってはいたが、そのままぼお~っとしている。

「こっちの部屋においで」

 とヨシコが呼んでも、半分眠っている。

「危ないから、こっち来なさい」

 と更に声をかけると、また少し目が開いたが、そのうち揺れが収まってくると座ったまま、また目を閉じてしまう。

 ずいぶんたってから

「なに」

 と聞くので、何でもない早く寝ろと伝えたら、またこてん、と寝転んでそのままグースカ。

 その後ヨシコもようやく定位置に戻ったものの、ぴかは目だけはしっかりと見開いて黙ってじっとしている。

 ととは、不安そうに

「かさん」

 と、ひそひそ声で呼びかけてきた。

「なに?」

 とヨシコがきいてみると

「おわった……」

 と一言つぶやいた。

 東日本大震災の余震もあって、テレビにしょっちゅう緊急地震速報が流れたり、関連報道も多かったりということもあり、ととも近頃地震というものが何か判ってきたようで、けっこう真剣に怖がっている。

 しかしそのあとすぐ

「かえろ!」

 と言うので、だってここ、うちじゃん? とヨシコが返したら

「した!」

 つまり、階下のおじいちゃんの寝室に行きたいとアピール。

 親と一緒に寝るより、じいちゃんの方が安心感があるらしい。

 しかし「帰ろう」はちょっと寂しいぞ、とヨシコ。

 それでも安心して眠れるならば、と思い直し、ついでに様子を聞くためにととを階下まで送っていく。

 その姿をぴかが不安そうに見送る。


 二階の寝室に戻ってきたヨシコ、ついでにテレビのある隣室に行ってしばらく他地域の被害の確認しようと思ったのだが、気づくとぴかにしっかりと足首を掴まれていた。

 ぴかは黙っていたものの、かなり怖かったらしい。

 仕方なく、テレビ番はまだ起きていたケイちゃんにまかせて、そのままぴかと一緒に寝に入る。


 少したってから、一斉同報が闇を切り裂いて震度5弱の揺れを伝えていた。

 今夜は眠れないなあ……と思ったのもつかの間、ヨシコは結局朝までぐっすり眠ってしまった。


 翌日の発表では、震源は近くの湾内ということ。一応、近年必ず来ると言われている大地震との直接の関係はなさそうだとの発表が。


 短い時間だったので、ただじっとしているくらいしかできなかったヨシコ、完全に寝首をかかれたという状態だった。3月にあったことを忘れたわけではなかったが、やはり認識の甘さは実感として残った。

 特に睡眠時の弱点を補うためにも今さらながら、携帯電話と懐中電灯、それに外履きにできる靴を取り急ぎ枕元に用意するようになった。


 地震は否応なしにやってくる、やはり自然の力には敵わない、それでもささやかな抵抗努力はしないと。

 自然の力とうまく折り合いをつけていく庶民の知恵を、色々と模索するヨシコであった。

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