とと十一歳・危機もイベントも隣り合わせな夏 01
とと画・なぜかフルーツ大集合。召しあがれ
◇
小学3年から年1回ある学校での宿泊訓練。
すでに4回目とあって、とともすっかり慣れたものであろうが。
今年は、ひとあじ違いましたよ。
宿泊当夜の8時過ぎ。なんと学校から電話が。
よもや……とと発熱か?? とヨシコ気色ばむ、だが実はもっと衝撃的な内容だった。
日中の活動が、かなり暑い中で行われたせいで体温が高めの子が続出。泊まらずに早退した子も数人いたとか。
そんな中で、ととは36.8度と。かなり微妙な感じだね。
「今からぬるめのシャワーを浴びて、クールダウンしてから、1時間後にまた体温を測ります。その時にまたお電話します」
とのことで、とりあえず処分保留のまま1時間経過。
そして9時。きましたよ、電話。
「とと君は36.8度でした(ますます微妙)……それでですね、体温が高い子が多くて、睡眠が十分に取れないことも考えられますし、無理をして体調を崩す恐れもありますので、残念ですが今回の宿泊は中止、ということで……」
宿泊、中止??
電話の声がだんだん遠くなるわぁぁぁ
なんとか気を取り直し、ヨシコはケイちゃんと二人、学校へ迎えに。
9時半過ぎ、パジャマ姿にリュックを背負ったとと1名を無事確保した。
そして10時前に撤収。
ととは、思いのほか元気で、車に乗り込むまで
「がっこうに、とまろ~!」
と叫んでみたり
「しぇんしぇ~、さぃなら~。ともたち、さぃなら~あ、(昇降口の上靴たちに)くつ、さぃなら~」
とあちこちに手を振り続けたり、最後までテンション高めであった。
そして翌日にはまた元気に登校。
それにしても、地球温暖化に意外なところで足をすくわれた感が。
一日目の活動で、歩いて買い物に行ってヒートアップしたところに、夕方近くなっても校内が思いのほか涼しくならなかったりで、こまめな給水は心掛けたにも関わらず、こういう結果になったらしい。
……先生方も本当にお疲れ様でした。
そして続けざまに翌日にはぴかが学外合宿。
どうぞ、夜の電話がありませんように……と星に願うヨシコであった。
◇
さて並行して、ぴか、小学4年は5年と合同の1泊2日宿泊訓練。
宿泊先は、海辺にある青少年の家。
この娘、
「おかあさん、したく手伝ってよ」
と言いながらも、そこは元々のしっかり者。前々日くらいから持ち物をチェックして、自分でしおりを見てパジャマやら雨具やらを出してきてほとんど母の手を借りずに積極的に荷造りしていた。
しかしなんせ、家族と離れて他所で泊まる、という経験は初めて。
ドキドキしたりワクワクしたり、そして前夜には少し不安になって情緒不安定になったりしたものの、準備も万端……
当日朝。ぴかは「行ってきまーす」と、元気に学校へ。
娘を見送ってから少しして、ヨシコもととをバス停に送るため、いつものように車で家を出る。
ところが、家から2㎞ほどのところで、突然携帯が鳴った。
路肩に停めてみると、なんと娘の小学校から。
焦って電話に出たら、担任の先生だった。
「すみません……お出かけになってるのは承知してたんですが、ちょっと急ぎの用件で」
何? もしかして急に発熱とか??
ドギマギしながらヨシコが聞くと
「……実は、ぴかちゃん、赤白帽をおうちに忘れてきたということで」
あと10分ほどでバスに乗って出発らしいのだが、この炎天下、屋外活動もバリバリあるし、しかも青少年の家の担当から、赤白帽は必携との通達もあったらしく、小学校に予備の帽子もなかったため、止むなく、母親のヨシコの所に電話をしてよこしたらしい。
とりあえず、ととをバスに乗せずに直接学校に送ることに決めたヨシコ、学校とバスの担当に電話して、急ぎ我が家に戻る。
ランドセルの中にちんまりと収まっていた赤白帽を持って、ととを車に乗せたまま娘たちの待つ小学校へ。
正面玄関付近で、出発式をしていた娘たち、誰かが
「あ! ぴかちゃんのおかあさんきてくれたよ~~」
と叫ぶ中、顔を赤くしながらもほっとした表情の娘に帽子を手渡し、ヨシコは先生方に深々と頭を下げて、また改めてととを学校へと送って行った。
あまりにも普段の行動がしっかりしているためか赤白帽のような大事な物をぽろっと忘れてしまうというギャップがなんだか自分の娘らしくて、ヨシコにはかなり可笑しい出来事であった。
そして娘の宿泊学習は無事、終了。
帰ってきてから数日後、急にぴかが言うには
「あのね、今、国語でならってる短歌をね、みんなで作ることになったんだよ。
それで、必ず最後には『心にしみて、うれしかりけり』って入れなければならないもんでねうち、こういうの作ったんだよ。きいててよ
『赤白ぼう 忘れて 母の 姿みえ
心にしみて うれしかりけり』」
すごーくうれしかったんだね。よかったよかった。とヨシコまで心にしみて、うれしかりけりであった。
ちなみに、
「なんでそんなに大事なものを忘れたの? 必ず持ってきて、って先生から言われたでしょ?」
と少し説教してみると、ぴかはけろりとした顔でこう答えた。
「え? うちそれぜんぜん聞いてなかった~」
やっぱり、うっかり者の子どもはうっかり者だった……




