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04

 ◇


 今、ととの大好きな楽器、それはピアニカ。

 現在のレパートリーは『カエルのうた』。途中から完全に即興の、どちらかというとピアソラ風かもしれない。

 よく、スクールバスへの行き帰り、車の中で大音量でブースカ吹かれるのにヨシコは閉口していた。

 CDは近頃の流行りははいつもなぜかJ-POPの老舗バンド・T。特に第一曲目が気に入っているらしく、それに合わせて吹きまくっている。

 延々とエンドレスで。何故? 他のCDを入れといても、必ずこれに入れ替え一曲目を、しかもなぜかリピートキーまで押して選曲するとと。

 これに合わせようとするピアニカにはやはりやや無茶がある。

 ヨシコはこのバンドについては嫌いではないし曲も好きではあったが、あまりに音量が大きいし、窓は全開でブースカやらかすのでご通行中の方々に迷惑になってはいかん、と思い、ととに

「いい? 車が止まってる時は、ピアニカは、なし!」

 と言い渡した。

 初めのうちは、信号で止まってもピアニカは止まらないのでいちいち注意していたのだが、そのうち気がつくと、


 ぴた


 と、音が止まっているでは。

 ととの顔を見ると、自慢げ。どや! 顔だな。

「止めてるら!?(しぞーか弁)」みたいな。

 偉いね~と褒めると、テレテレで喜んでいる。


 どうにか停車中ピアニカ止めは成功。

 それからもずっと、停車するたびにピアニカはぴた、と止め、手はひざに。

 車が動こうとすると、すぐ持ち上げるが、そこでまた車が止まると

「ちっ」

 と小憎らしく舌打ちしつつも、また楽器はひざに下ろす。

 えらいぞ、とと。とヨシコはサム・アップ。


 ……でもその間も曲の方は結構な音量でエンドレス。すっかり耳がマヒしているヨシコはそこまで気づかなかったとさ。


 ◇


 ある日のこと。

 いつものようにスクールバスに乗り込み学校に向かったとと。

 いつものバス停で見送ってから家に帰ったヨシコに、しかし学校から一本の電話が。

 担任からだった。バスがちょうど着いた頃の時間。


 もしや熱でも?? ヨシコの声か固くなる。


 しかし、先生の言葉は意外にも

「あの~、今日とと君、学校に来ましたか?」

「はい?」ヨシコは口があんぐり。そして、目をさまよわせる。急に自信がなくなってきた。

 確かに、バスに乗った。というか、乗せたような気がする。

 と答えると、先生

「昇降口の下駄箱に靴が入ってなくて、教室にも入ってこなかったんです。どこに行ったのか……」

 すみません、とりあえず急いで捜してみます、とのことで電話が切れる。


 何だか急に不安になったヨシコ。


 小学部に入学してから6年の間、こんなことは一度もなかったのだが、実はとと、今朝はバスに乗ってなかったのでは……?

 幼稚園の時に「車に乗せたと思って実は乗せてなかった」事件もあったし。


 あわてて、同じバス停の母さん二人に電話してみる。

 ふたりとも、

「え、乗ったよ~……って言うか乗ったと思う、多分」その程度の返答。

 そうなんです。毎日のことなので基本、乗ったと思うのが普通。みな、見ているようで実は見ているのかどうか。

 しかし、ヨシコの他に2人もそう言ってくれていたので、とりあえず学校には着いているだろうと推察。


 悶々と過ごすこと10分ほど。ようやく、学校から電話が!

「あの~、とと君、バスの中に残ってました~。本当にすみません」

 眠ってしまったのか、わざと隠れたのか、誰かとケンカでもしてふてくされたのかは不明だが、車の中に隠れるようにして、静か~~~に座っていたらしい。


 帰りに迎えに行った時には、スクールバス介助員の方からも

「ほんと……ごめん。ちゃんと降りたのか確認してなかったってことだよねえ。ごめんね」

 と深々と陳謝される。

 暑くなる時期なので、ずっと乗っていたら確かに危険でもあるが、それでもすぐ捜して頂いたので、大事に至らずにすんだ。


 帰ってから、ととに

「朝、バスから降りなかったんだって?」

 と詰問(?)すると、ととはやや困ったような笑顔をしつつ、アメリカンな感じで肩をすくめてみせた。


 結局、理由は解らずじまい。本人にしたら、言いたいことは色々あるかも知れないのだが。


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