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02

 小学4年になった、元気花マルのぴか。

 先日は留守番中に描いた、という鉛筆画をヨシコにみせてくれた。

 コンデンスミルクの缶についている牛を見ながら写して描いたとのこと。

 さすが動物大好きな娘だなあ、とその出来栄えにヨシコは素直に感心。

「すごく上手!」

 とほめると、まんざらでもなさそうに

「今まで描いた中でも、けっこううまくできた気がする~」と。


 ぴか画・コンデンスミルクのうし子ちゃん

挿絵(By みてみん)


 この娘、学校ではクラスのみんなよりやや大きめなせいか、落ち着いて見えるせいか、どちらかというと聞きわけのよい、みんなの調整役、みたいな役柄らしい。

 また、学校でも家でも外でも、けっこう気がきいて頼んだ事だけでなく、頼まれそうな事までさっと手を差し伸べてくれることも多い。

 つまりは気づかい上手なんでしょうな。

 ヨシコはわが子ながら感心することしばしばであった。


 まあ、人間なんで欠点もそれなりに……


 どんな友だちともそれなりに付き合える良さがある反面、自分の意見を通せない、誘いを断れないなどの弱さも時々みられたり。

 そんな時はうちで荒れることあれること。

 また、家ではかなりの甘えん坊さんになることも多々。


 そんな彼女、ある日、学校から購買の封筒を持ち帰った。

「……ねえ、高いからだめ、って言うと思うけど」

 と見せたのが

『分数の計算ができる電卓』。

「先生がね、4年になると算数で電卓を使ってもいい問題もあるって。それにお兄ちゃん(とら)は電卓買ってもらったでしょ。わたしのはまだないし」

 けんめいにアピールタイム。

 うーん、でも小4で電卓かあ? 地道に計算すりゃいいんじゃないの? とヨシコ。

「それにこれ、1500円(学生協価格)だって??」

 値段にびっくりしていたヨシコを横目でみながらぴか、

「……うん、高いから、別にいらないんだけど」

 どうしても強気には出られない様子。

「でも本当は欲しい?」ヨシコが突っ込むと

「……ううん、いらない」

 今度は即座に断定。


 一応、授業で使うか、担任の先生にもう一度聞いて確認しなさい、必要ならこれを買ってもいいよ、でも授業で要らなければ残念だけど買わない、と伝えそれでいったんその話は終了。


 翌日、学校から帰ったぴかが開口一番

「あのね……授業で特に持ってくる必要はないんだって。でもね、しめ切りは特にないけど早く買わないとざいこがなくなるかもよ、って」と。

 しかしその声も「ふう~ん」で片づけてしまったヨシコ。


 そして連休明けのある朝。

 やけにさっぱりした声でぴかが言った。


「あのね、わたし、でんたくあきらめることにしたから」


 ぎく。ヨシコ思わず硬直。

 ぴかはまだ引きずっていたのですね……


 近頃小遣いもロクにやってなかったという負い目もあったので、ヨシコはそのまま彼女に背を向け、お金を封筒に入れ、名前も書いてから、黙って手渡す。

「え? 買っていいの?」ぱっ、と目をあげたぴか。

「大事に使ってよ」

「ありがとう、ありがとう」

 急に元気になったぴかは、張り切って学校へ。


 私って甘いな~、と思いながらも、実はヨシコもちょっと楽しみな分数のできる電卓。


 ……と、まあどうしてこの話題が急に話題に上がったかというと実は、先ほどヨシコがぴかの『牛の絵』を大事にファイルにしまっておこうと、スケッチブックを開けてみたところ、牛の次に絵がもうひとつ、描いてあったからなのだった。

 それは鉛筆で克明に描かれた電卓の絵。

 そう、『分数のできる計算機』。


 ぴか画・電卓くん…魂込めました。

挿絵(By みてみん)


 実物大よりかなり大きく、ひとつひとつのキーや液晶画面まで非常に緻密なタッチで写されたそれは

「いらないから、いいよ」

 から

「あきらめた」

 の間に、描かれていたと思われ……なんか執念を感じたヨシコはぶるっと寒気がわずかに。


 まあ、健気な感じもするから許す、と結局は親ばかなのであった。

 絵を描けば願いが通じる、と考えるようになるかも?


 でも子牛は買ってやらないぞ、とヨシコは強く心に誓った。

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