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03

 近頃のブームは

「保護者はつかず、きょうだいと一緒に、買い物やおつかいをしてみよう」

 というナミキ家の子どもたち。

 たとえば先日は、近くのスーパーに買い物メモだけ持って、妹・ぴか&ととの二人だけで間違えずに買い物をすませてくるということに挑戦。

 というのも、ちょっと買い忘れたものを足すためにスーパーに寄った時、ぴかが

「ととちゃんと二人だけで買い物をさせて!」

 と懇願したため。

 時は忙しい夕方。

 内容は

「豆腐(木綿)2丁、牛乳2カートン、レギュラーコーヒー(メーカーはおまかせ)」

 ということで、ヨシコの嗜好品であるコーヒーについてはぴかに詳しく説明をして、駐車場から送り出す。

 送り出す直前に、ヨシコ試しにぴかに

「ととを連れていってもし何かあったらどうするの?」

 と聞いたら

「お母さんって、ホントにしんぱいしょうなんだから」

 と真顔で言われてしまう。


 そして数分経過。なかなか帰ってきません。


 ぜったい来ないでね! と釘を刺されていたのだがヨシコ、おそるおそる外から店内をのぞいてみると……

 店内にちら、と娘が、そしてととが見えたでは。

 明らかに不安そうに店内をうろうろする娘、その後から忠実な家臣のようにカートを押しながらつき従うとと。

 しまった……ヨシコは思わず身を浮かせる。余分に頼んだコーヒーが原因だろうか。

 頼まれた品物がどこの棚にあるのか分からなくなって、迷ってしまったようす。


 それからしばらく待って、とっぷりと日が暮れた頃、ようやく二人して出てくる。


 ぴかが泣きそうな顔で言うには……

 やはりコーヒーがすごく迷ったらしく、場所はお店の人に聞いてようやく分かったものの、どの商品を買っていいかでつまづいてしまい、お店の人に色々聞いて(忙しい時間ごめん、という感じ)ようやく判断を下し、買うことができたと。

「でもさ……お母さん、これもしかしてちがう?」

 ぴかが出して見せたのは、いつもヨシコが買うレギュラーではなくインスタントの詰替だった。

 あ~レギュラーが欲しかったのに~しかもこのインスタントならうちに売るほどある……

 と喉元まで出かかった言葉を飲み込みヨシコ、

「ありがとう! インスタントはお父さん大好きだからこれでもいいよ」

 ようやく、ぴかの顔にほっとしたような笑顔。それを見ながらヨシコは

(オトナになったな~私も……)

 それでもほっと、吐息をつくのであった。 

 そうして、やや持ち直した娘と、最初からケロっとしているととを連れて、ヨシコは家路へと急いだ。


 ◇


 夕方近くから、なぜかおなかをさすってゲップばかりしているとと。

 消化不良かな? と思っていたら案の定夕飯の天ぷらに全く箸をつけずに座っている。

 眼は欲しがっているのだが、胃が受け付けないらしく、天ぷらに醤油をかけたり、ご飯を箸ではさんだりまではするのだがそこから先が進まない。

「とと、無理に食べなくていいからね」

 ヨシコが声をかけると、哀しそうな顔で天ぷらをみつめている。

 そのうち、はっ! 気づいたぞ! みたいな顔になって

「かさん!」

 ひそひそ話のようにヨシコの耳に口を近づけてきた。

 いつもひそひそ話はゼスチャーだけで、何も意味のあることを言わないのだが、その晩は

「こしょこしょこしょこょ……」

 と(文字通り)囁いてからはっきりと

「くしゅり」

 と要求。

 兄がいつも「薬飲む!」と騒いでいるので

(そうか……こういう時にこそ薬!)

 と自分で気がついたらしい。えらいぞ、とと。

 しかし、こういう時に飲ませるものがない。ヨシコはあたりをきょろきょろ。

 そこで目に入ったのが、空のカプセル。ぴかに漢方薬を飲ませるために買った小さいゼラチンカプセルがあったので、これに砂糖を入れて、

「はい、とと。おくすりだよ~」

 と水と一緒に持って行った。

 大喜びのとと。でもカプセル薬は飲んだことがない。

 錠剤もほとんど経験ないが、大丈夫なのか? ヨシコが渡したカプセルを、最初はためらいつつ口に含み、

「ん~~っっ」

 とどうにか飲みこもうと努力、いったん出して哀しげに見つめたものの、歯形がついたカプセルをまた口に入れ、目を白黒させていたがついに……

「できた! くしゅり、ったよ~~」

 ようやく、飲みこむことができた。

 後味が残らないうちに、水も急いでゴクゴク。

 すると、不思議なことにその後気分がよくなったようで、ご飯をパクパク。

 よかったよかった、ヨシコは胸をなでおろす。

 ……現代医療ってなんだろ? って、少しだけ思ったんだけどね。

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