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03

 ◇


 とある講演会に出席し、ヨシコは非常にためになる話を聴いてきた。


 重い障害があっても『はたらく』ことができる、その人ひとの得意なことを活かし、特徴に合わせた作業を繰り返し続けていくことで、他の人の助けになるという内容だった。

 講師の先生には重い自閉症の息子さんがおり、現在はご家庭で食事を作ることが一つ大きな役割となっている、という。米をといで炊いたり、パスタを作ったり、とか。

 これらの作業は、初めからうまくいってるわけでは全然なく、米をばらまく行為を繰り返す息子さんに長いこと付き合っているうちに、米好きの彼を活かす仕事は? という発想から、米とぎに行き着いたらしい。

 パスタ作りも、数々の試行錯誤、紆余曲折を経てついてソースまで手作りの域に達した、と。


 確かに、その行為が就労に直接結びつかなくても、自炊ができるというだけでもうかなり人生に幅が広がる感もある、ヨシコも感動。

 ととなどもできることは多いと思ってはいたが、やはり、やらせていないことも多い気がする……


 よし、やらせてみよう、とりあえず今夜はパスタだ!


 単純に話を聴いていただけでパスタが食べたくなったヨシコだった。

 そしてうまい話にすぐに飛び付く、この蛙並みの行動力。うん、全然褒め言葉になっていないな。


 夕食の支度どき。

 まな板の前に立ってさりげなく待ち構えていたヨシコ、腹を減らして近寄ってきたととをつかまえ

「どぉ? 切ってみる?」

 と誘う。

「ゃる!!」

 ととは、さっそく乗ってきたでは!

 自分で小さいナイフを出して、まず無謀にもタマネギを刻み始めた。

 面白いことに誰も教えてないのに、一度薄く切ったタマネギを揃え、包丁の上の先を左手でおさえて包丁を握った右手を扇形に上下に動かしてまた切っていく。

 これぞ秘儀・みじん切り~!

 炒めるときも、フライパンのふちに触れないように注意ぶかく、しかし手早くまぜまぜ。

 おかげで、おいしいパスタソースが完成。

 本人もおいしいと思ったのか、一回味見をしてもらったら、そこに座り込み。

 気が付いたら小皿お代り5杯目に。ヨシコは慌てて小皿を取り上げた。


 以前から、断片的には「切る」「炒める」「洗う」など、気が向くと色々手伝ってくれるととだった、ここまで一連の流れに沿ってやってもらったことが今までなかったのでヨシまたヨシコの感動もひとしおであった。

 それともう一つ。

 子どもって本当に『他人の教えることではなく、やることをよく見ている』ものだなあ、とヨシコはつくづく感じたのであった。


 今後期待できそうな、とと、家事デビュー!!


 ……しかし翌日には、厨房には一歩も近づかず。そんなものであった、世の中は。

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