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とと十歳・反省の色はパステルピンクな春 01

とと画・「よぉ、くまさん」

「なんでぇ、はっつぁん」

挿絵(By みてみん)


 ととは、相変わらず細かいイタズラ数々。

 学校の給食の時間、なぜか先生の(しかも女性)箸箱をこっそり持ち帰るのが今、ブームになってしまいヨシコは弱っていた。

 先生は先生で

「自分のものもちゃんと管理できてなくて……私にも責任があります」

 と哀しい反省モードだし、家でととに説教しても、今ひとつ理解してない様子だし(何と言っても現行犯逮捕第一主義者だから)4回目のある日に至っては、ヨシコ、言うべきことばもみつからなかった。

 それでもふと思いついて、ととに

「○○せんせい。おはし、ごめんね、ってここ(連絡帳)に書きなさい」

 と、指導してみた。すると、案外素直にととはノートに文字を書き始めたではないか。

『○○せいせん』

 ヨシコはすかさずほめながら、さりげなくまちがいを修正させつつ、次を書かせる。

『おはし こめんれ』

 おだてて濁点をつけさせ『れ』を『ね』に修正させ、1度読んでごらん、と言うと、神妙な表情のまま、

「しぇんしぇ、おはし、ごめんなしゃい」と。

 ようやく、わかってもらえたか……ヨシコの手は感動で震える。なんて言っているうちに、なんとその下にととは絵を描き出した。

 ドラえもんらしい丸い顔と丸い目……しかもちゃんと『とらえもん』の文字まで。

 さらにもう一つ丸い顔を、とドラえもんが暴走し始めたので、ヨシコは慌ててノートを取り上げた。


 ◇


 今日は兄妹の学校(居住地校)の運動会。

 彼らを送り出してから弁当のしたくを整え、後から起きてきたととには

「ぴかの学校で、運動会だよ。いく?」

 とヨシコは聞いてみる。もちろん返事は

「いく!」

 でしょうな。やっばり。

 せめて茶碗を洗ってから、とヨシコが思っているうちに……気がついたら、ととの姿が見えない。

 クツがないので、外に出たもよう。

 もしやして、先に1人で学校に行ってしまったかも! と、ヨシコはあわてて弁当をリュックにつめて、学校までチャリを飛ばす。

 おりませんがな。

 すでに来ていた近所の友人たちに、ととを見かけたら教えて! とお願いして一旦うちに帰る。

 灯台もと暗し。なんと、ととは隣の家に上がり込んでました。

 出発が遅くなったので、ヨシコ、車で行こうかと思いととを先に車に乗せ、その前に停めてあった父さんの車を家の前に移動させる。

 家に戻ろうとしたとき、ととの乗った軽自動車から何故かエンジン音が!

 暇にまかせたととがついエンジンをかけてしまったらしい。カギ付けっぱなしだったヨシコに全責任あり。

 そんな責任どこ吹く風、ヨシコはととをこっぴどく叱りつけ、ようやく家を出る。


 着いてしばらくは大人しくしていたものの、だんだんそわそわしてきたとと。

 全校綱引きになると、とうとうガマンできなくなって、だっ! とグラウンド内に駆け込んだ。

 ようやく引き止めたものの、綱の近くに座り込んで、大好きな妹をかぶりつきより応援。

 その後も、校内をあちこち走り回り、全然落ち着いていない。

 ヨシコが説教をしても、がっちり押さえようとしても、まるで腹の中でフェレットでも飼っているのか? というくらいの落ち着きのなさで、追いかけているヨシコはだんだんとぐったりしてきた。

 ぴかの学校に来ると、けっこういつも腹にフェレット状態の彼。

 それでも少し救いなのが、学校の子どもたちが、日頃から時おり見かけるととに対してかなり寛大なところか。

 幼稚園まで一緒に過ごした5年の男の子たちはととを見かけると

「あ! ととちゃん! 元気~?」

 とすぐ声をかけてくれるし、綱引きの側に行った時も、彼らに

「ととちゃんもこっそりこっちに入ってよ~」

 と言ってくれたし(人数を厳密に調整してたので飛び入りはムリでしたが)。


 そう言えばこんなことも。

 ぴかのクラスの男の子(4月に転入してきた)が、初めてととをみて

「ぴかちゃんのおとうと?」

 と聞くので

「お兄ちゃんだよ。5年」

 とヨシコが答えると、

「ダウンしょう?」

 とまた聞いてきた。前の学校かどこかで実際に見たことがあるらしい。

「そうだよ」とヨシコが答えたら、少し考えてからまじめな顔のまま

「なんかさ~……歩くのがよっぱらったおっさんみたいだね」

 と、しみじみとコメント。

 確かに彼は歩くのに、バランスの取り方が良くない、とヨシコも感じていたので素直にうなずく。


 こんな風に、よくも悪くも素直に色々声をかけてくれるのがヨシコにとっては、とてもありがたいことだった。

 言われ方が失礼かと受け取れたら正直にその言い方は好かん、と言ってみるもよし、ジョークでやんわり返すもよし、逆によく話してみるとお互い色々わかってきたり、とかで。


 そのためには、腹の中のフェレットをだましだましでも、外に飛び出していかねばならないんだね、とヨシコは改めて感じていた。

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