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04

 ◇


 冬のナミキ家、特にヨシコは祟られていた。よく言えば充実していた。ヨシコの日常は家族の世話と病院での介助と家事とですでに満員御礼状態。


 そんな中、今度はじいちゃんがインフルエンザをこじらせ脱水症状が出てプチ入院。

 じいちゃんは、特にボケているわけではないが何と言っても野性的マイペース人間。

 嘔吐が止まらなかったために入院したはずなのに、病院に入って少し症状が収まると見るや

「どうせ病院じゃあ、メシも出ないし(主症状が嘔吐なので、基本絶食ですが!)、あってもおかゆだし(当然!)病院の人に気を遣うから(待てよじいさん、看護士さんは何のためにいるのだ?)」

 ヨシコの心の突っ込みも空しく、入院3日目には自ら荷物をまとめてさっさと病院玄関先まで出てしまっていた。

 退院する日はいつだ? それはオレが決める、オレがルールだ。

 じいちゃんの背中にはそう書いてあった。

 ヨシコは気が動転したまま、病院にぺこぺこと頭を下げてじいちゃんを連れ帰る。

 そして家について知る。

「じいさん……スリッパのまんまじゃん」気づけよヨシコも。


 そのうちに子どもも順番に微妙にカゼひいたり参観会が重なったり諸手続きがあったり、と息つくヒマなくヨシコの日々は過ぎていった。


 ◇


 そんな目の回るような中の、ある日のこと。

 とと、ヨシコの所にきて

「かみ!」と要求。

 裏が白いチラシを1枚やると、太いマジックで何やら書き始めた。

 できあがった3行を読んでヨシコ仰天。

「すおとと

 ぴかわと!

 すきのですち」

 これは……恋文??

 すきなの? とヨシコが聞くとうれしそうに「ゔ~~!!」とペンギンポーズ。

 説明しよう。これは、超ハッピーな時によくやる、手をペンギンのヒレのようにつっぱる喜びの表現なのである。

 とと、出来た手紙(?)をはずかしそうに、妹・ぴかに手渡す。

 ぴかもたいしたもので、しかし余裕の笑みをうかべ

「わ~ありがと」

 と受け取っている。

 この年になって初めて、自分の意思で書いた短文が恋文、というのもまたよきかな、とヨシコは二人をみやって思う。

 こんな愛情表現もまた、よいですち。報われる報われないは、まあ、別ではあるが。


 ◇


 ととにも寛大でさりげなくオトナなぴか、それでもごく平凡な7歳の女の子であったが、時々とてつもなくヨシコのツボにハマるようなおポンチな言動をとることがあった。

 先日、 ぴかの大好きな野沢菜漬けが食卓にのぼっていた時のこと。

「わ~これうち大好きなんだよね~、とくにこの色がホラ!!」

 と言いながら特に緑がきれいな1本を箸でつまみあげ、ホレボレとみつめながら


「ホント! 押し花にしてとっておきたい!!」


 それよか、食えよ! とヨシコは思い切り心の中で叫ぶ。


 また別の日。


 アニキが親戚からもらった子ども英語辞典をみながらぴかが話しかけてきた。

「ね~おかーさん、今から全部英語で話すから聞いててよ」

 はいはい、とヨシコが生返事をするとすかさず

「おかーさんも英語だからね」と。それから

「まま! まま!」

 とひっきりなしに呼ぶのでヨシコ、面倒くさくなって

「は?」

 と応えると(こりゃ日本語か?)、彼女は英語の本を机に置きながら自慢げに

「まま、ぶっく、ぷっと!」ですと。

 本を置きました、と言いたかったらしい。

 文法なぞてんでなってないが、とにかく使ってやろうというその心意気たるや良し、とヨシコは少しだけつき合ってやることに。

 その後もずっと興奮気味に英語でしゃべくりまくっていたのでさっさと風呂に入れようと思い

「へい! レッツテイカバストゥギャザー!!」

 と誘う(合っているかは不明)、すると彼女はすかさずこう答えた。


「いやん♡」


 ヨシコの完敗であった。



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