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2  騎士娘御愁傷様

や、やっと二話目が書けた……(泣)。

                2 騎士娘御愁傷様


 ……ところで、山彦が響く為にはそれだけ大きな声でなければ響かない。つまり近くにいる人間にとっては大音量の騒音、あるいは音響破壊兵器の類でしか無かったりする。少なくとも、鼓膜が破れそうな痛みにしかめっ面になっている少年にとってはそうだった。


「うるさい騎士様ですねぇ。ひとが折角良い話を聞かせて差し上げたのに」


 畑の雑草をむしりながら昔話―――とはとても言い難い話だが―――を語っていた少年は溜め息をついて立ち上がると、先程からツッコミ…もとい怒声を浴びせてくる騎士服に身を包んだ少女に顔を向けた。少女はポニーテールにした栗色の長い髪をブンブンと振り回し、高級そうな仕立ての服が汚れるのも構わずにずかずかと畑に入ると、少年より頭半個分は高い長身で見下ろしながら、せっかくの美貌を台無しにする程の般若のような顔で少年を怒鳴り付けた。


「どこが良い話なんですかっ、どこがッ! 不謹慎にも程があります!! だいたい、何を他人事みたいに自分の話を語ってるんですか、『殿下』!!!」


 ……実はそうなのである。

 粗末で汚れた野良着を身に纏い、ボロボロな麦わら帽子を目深にかぶり、首には手拭いを引っ掛けた、どこからどう見ても農夫にしか見えない、もちろん王子には見える訳がない目の前の少年こそが、一か月前に隣国『ヴェスティニア王国』に滅ぼされた『ドゴスティア王国』の第四王子であり、現在では唯一の王族の生き残りとなる『マリクハインド・ソレスティ・ドゴスティア』であったりするのだ……が。


「……だって、他人事じゃないですか」


……もっとも、当の本人は『ドゴスティア』の姓を名乗る事はしないし、そもそも自分が王子だという自覚も無かったりする。


「マリク殿下、あなたって人は……!!!」


 あまりに人を馬鹿にした態度に少女は文句を言おうとするが、マリクは両手の平を向けて「はい、どうどう。落ち着いて落ち着いて」とまるで馬を宥めるような口調で発言を止めた。…ちなみに、本当に農夫であればその行動は無礼討ちにされても文句の言えない代物だという事には何故かマリクは気づいていない(もちろん少女は気づいているが口にはしない)。

 

「事実には違いないでしょう? いいですか、セリカ・ハーヴェイ様? もうドゴスティア王国は滅んだのですよ? この国はヴェスティニア王国の領土の一部として生まれ変わったのです。

 あなたもヴェスティニアの騎士として新しい人生を歩む事になったのでしょう? ならば、過去を振り返るのは後回しにして、今は未来を見据えて前を進むべきではありませんか。違いますか、セリカ様?」


「だぁかぁらぁ!! まだドゴスティアは滅んでいませんってば!!! 殿下が王都に戻って王位を継いで下されば王国は再建出来るんです!!!」 


「い・や・で・す。僕は王都になんか行きませんよ。滅んだ国の、それもあのクソ野郎の後を継いで王になるなど冗談じゃない。ヴェスティニアの国王陛下には勝手にやって良いから僕を巻き込むなと伝えて下さい」


 ……そうなのである。王宮を出たマリクを態々(わざわざ)セリカが訪ねてきた理由。それはマリクに新生ドゴスティアの国王の座に就いて欲しいというヴェスティニア国王の要請を受けての事だったのである。

 しかし、マリクはこれを拒否。あくまで農夫を続けることを主張した。一方ヴェスティニアとしては既にマリクを王に据える事を前提に話を進めていた為、大いに困り果てる事になった。…かくして、『絶対に連れて来い』という強硬姿勢のヴェスティニアと『絶対行きません』と断固抵抗の構えのマリクの間で右往左往しているのが現在のセリカの現状である。            


ちなみに、『力づくで連れて来い』という選択肢は無しである。何故かというと既に失敗しているからである。マリクに『鍬』で叩きのめされて。


 そう。『鍬』である。明らかに農作業用の道具である。そんなモノを使ってマリクはドゴスティア・ヴェスティニアの騎士達(勿論完全武装だ)を完膚なきまでに叩きのめしてしまったのである。…勿論、騎士達にも言い分はある。そもそも『鍬』と言ってもマトモな代物ではない。本来、鍬とは木製の柄に直角に金属製の刃が付いた物である。しかしマリクの鍬は柄もである上に刃の部分も仕掛けを操作する事で柄と平行になり、一本の『槍』として使用可能なのだ。


「一応は円匙シャベルなんだけどね」とはマリクの弁であるが、冗談も大概にして欲しいと思うのはなにもセリカだけの話ではない。先端が三つに分かれているのはまだ良いとして、真ん中だけ他より長く鋭く尖っているのは明らかに刺す為の機能だし、フチの部分は切れ味抜群に研ぎ出されていて斧と殆ど変わらない。実際に畑を荒らしに来た猪を突き殺すわ、開墾の邪魔になる木を切り倒すわ、挙句の果てには山賊・騎士といった連中までも撃退する、そんなろくでも無い使い方をするマリクにセリカが絶句したのは一度や二度では済まないのだ。


「仕方ないじゃないですか。畑を荒らす害獣は沢山いるんです。鹿とか猪とか熊とか(ひげ)の親父とか。……最近は鎧のおっさんとかも出てくるし。本当に物騒なんですよ」


「……物騒なのは殿下でしょうが! 戦闘用の鍬なんてふざけたモノを持ってる農夫なんて世界広しといえども殿下以外にいる訳が無いじゃないですか!! しかも、この開拓村の住人の手助けが多少はあったとはいえ、殆ど一人で20人近い数の山賊を退治してのけるなんて非常識ですよ!!!」

  

「そうですかぁ? この前の鎧共に比べたらチョロ過ぎでしたけど?」


「騎士と山賊を一緒にするな――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!」


 本気で首を傾げているマリクにセリカの精神は悲鳴を上げていた。不敬を覚悟で怒鳴り付けなければ気が狂ってしまいそうだった。実際、既にその声は絶叫のレベルだった。しかしそこで更なる非常識を叩き付けてくる(本人に自覚は無い)のがマリクハインドという男であった。


「えー? 大して違いませんよー?? 猪とかと違って殺しても喰えないから畑の肥やしにするしか使い道無いじゃないですかぁーー???」


「ぁァァぁぁァァぁぁ――――――…………」


 ……セリカは崩れ落ちるように地面に突っ伏した。よくぞ地中に顔面がめり込まなかったと思う程だった。

 最早まともな声も出す気力が無い。幼い頃からの差別や(しいた)げられた経験から騎士・貴族・王族といった人種に強い嫌悪感を抱いているのは分かっていたが、まさか動物以下の扱いで肥料以外の存在価値が無いという認識だったとは、さすがにセリカの予想の斜め下(それもほぼ直下!)をいっていた。

…ちなみにセリカは『人間扱い』というのがマリクの認識であったりする。あくまで『一応』なのが不憫ではあるが。


「大丈夫ですか、セリカ様? 頭が痛いんですか? …しょうがないですねぇ、今薬草を煎じて上げますよ」


 そう言って畑の脇に生えている薬草を無造作に毟り、煎じる為に火を(おこ)す準備を始めるマリク。誰の所為だと無言で睨むセリカには気付いた様子も無い。自分の所為だとは欠片も思っていないらしい。…ある意味救いようが無い程おめでたい王子にもう一度叫ぼうと口を開きかけたところで、


「……いやいや、どう見てもその()の頭痛はお前の所為だろ」


 代わりにツッコミを入れる人物が現れた。


 それは、一人のおっさんだった。


 使い込まれた頑丈そうな皮鎧を纏う堂々たる体躯、腰には実用性を重んじてか一切の装飾がされていない無骨な長剣、口元を覆った見事な髭、鋭い眼差し、いかにも歴戦の戦士といった風情(ふぜい)である。そんなおっさんが心底呆れたといった顔で近付いて来た。


「え…、な、何で此処に貴方が………」


 おっさんを見て一瞬あっけに取られたセリカが慌てて立ち上がったその瞬間、


「いっぺん死んどけえぇぇぇっっッッ!!!」


 問答無用でマリクが鍬でおっさんに切り掛り、咄嗟に長剣を抜いて鍬の一撃を防ぐおっさんの姿があった。


「おいおい! いきなり何しやがる!!」


(やかま)しいわ、この盗ッ人が! そこへ(なお)れ、畑の肥やしにしてくれる!!」


「は………??」


 おっさんの顎がカックンと落ちた。



 




 遅くなって大変申し訳ありません。やっとこさ第二話です。筆が遅すぎですね、私(苦笑)。

 さて、この話に出てくる戦闘用農具(笑)についてですが、実は似たような物が存在します。軍隊で使われる携帯型スコップがそれで、コンパクトに折り畳める機能が付いており、これを利用して先端部のみを折って、鍬として使用する事が出来るのです。

 さて次は第三話。出来るだけ早く書くつもりですが……、気長にお待ちください(泣)。

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