第三話〜伝説#とは〜
チュン…チュンチュン…
「ふぁ〜ぁ…」
小鳥のさえずりで目が覚める…いや、目が覚めた時、小鳥がさえずっていた。
まあ、それはどうでもいい。
横を見た時
氷花さんがめっちゃ近くに居た…いや、寝てた。
「ん〜〜〜なんでだ!?」
そこでガバッと勢い良く起き上がる。
隣にはもちろん誰もいない。
てか、部屋に誰もいない。
あー、夢ですか、あーあーそうですかそうですか。いや、別にそんな期待してませんよ?本当に。あれ?おかしいな…目の前がぼやけて…
と、そこでドアが勢い良く空いた。
立っていたのは昨日同じ部屋に泊まった和島勇刀だった。
「おい!いつまで寝て……って、なんで泣いてるの!?」
う、うるさいっ!これは、その…わからない!もう何もわからないよ!
「ま、まあ、早く支度して仕事場に来い!もうみんな仕事してるぞ!」
そりゃ、見ればわかるよ…
とりあえず「あーい、了解〜」と力なく返事しといた。
よっこいしょっと…って体、重い‼︎
昨日のがよっぽどキテるんだな…
まあ、早く支度しなきゃ…って、俺、布の服しか装備ないから、支度完了!
現実もこんなに早く支度できたらどんなに楽か。
あー、現実…か。
今頃、みんなどうしてるかな…
家族とかは探してくれてるのかな…
また、ぼーっとしてしまう。
いや、今はこの世界から早く出ることが優先!
そのためには、どうするか…
ま、まあ、とりあえず働こう。うん。
そうして、仕事場に向かう。
仕事場に着き、とりあえず挨拶。
「遅れてすいません!おはようございます!」
「あ、おはよ!信太くん!」
「おう、やっと来たか、信太ぁ!」
最初に氷花さん、続いて親方が反応してくれた。
見回すと、勇刀がいない。
「あれ、勇刀は?」
「あぁ、いまね、砥石を倉庫から持ってくるはず…って、ほら、今来たよ」
と、氷花さんが指差す先には、袋を抱えた勇刀が居た。
「おぉ、やっと来たか信太!遅いぞ!」
ごめん、と、ぺこり。
それから、俺が少し働き始めたところで親方が「さて、みんな揃ったところで一つ話がある!」との事で、今は奥の部屋である。
「実は、今日からまた一人ここで働く奴が増える!」
おぉ!?まじでか!?
この3日間で、3人増えるのか!?
1日1人ペースじゃん…
周りからは「おぉ、またかw」「楽しみだな♪」とか、いろいろ聞こえた。
「おうおう、よかったじゃん信太!後輩ができて!」
「おぉ、おぅ…」
「何微妙なリアクションしてんだよ!喜べよ!」
いや、なんだろう…なんか違和感が…
そこで親方が叫ぶ。
「さあ、入ってこい!」
そして、ドアが開いて一人の女の人が入ってきた。
容姿は、やや小柄。年下だろうか。
服装は布の服っぽい。
ってか、いま考えると、今まで会った人で、親方とお母さん以外全員布の服なんだよな…
偶然?
にしても、この人…あれ?……どこかで見覚えが……
「さあ、自己紹介をしてくれ」
その声を聞いた瞬間、その顔を見た瞬間、俺は完全に思い出した。
「えーっと、今日からここでお世話になる理波瑞稀って言いますっ!よろしくお願いしますっ!ってあああ!!!信太先輩っ!!どうしてここに!?」
あー、やっぱりこの子だったのか…
この子は、俺と以前、同じ会社で働いてた1年後輩の女の子。理波瑞稀だ。
瑞稀は会社では、俺の隣のデスクで、いつも話掛けてきたり、ご飯とかもよく誘われているのである。
あ、あれだよ?別に好きとかじゃないよ?ほんと。
ただ、一緒にいるととても退屈しないのは確か。
あれ?でも瑞稀がここにいるってことは…こいつも俺と同じ目に…
「あれ?信太とこの子って知り合いなの?」
「えぇ、まあ、そうなりますね」
あれ、なぜ俺敬語?
「なんでお前敬語?」
おお、以心伝心。
じゃなくて。
「まあ、ちょっとした腐れ縁ですよ」
「腐れ縁とは失礼なっ!いつもご飯を一緒に食べてる仲じゃないですかっ!」
まて。その言い方だと食いつく奴が…
「なんだって!?いつも一緒にご飯!?」
ほらね、食いついた。
「あの、お二人は付き合っているのですか…?」
と、突然の氷花さん。
「そんなわけないじゃないですか」
「まだ付き合ってないよっ!」
まだ、じゃねぇよ。
「おぅおぅ!なんだ信太の知り合いか!
まあ、仲良くしな!」
がっはっはと親方は豪快に笑っている。
いや、ほんと笑えない…
「まあ、とりあえず仕事しましょ?」
「そうだな。話は休憩時間に詳しく聞くか!」
まあ、話さないけどね、どうせ現実の世界のことなんてわからないだろうからね。
少しして、親方がまた招集をかけた。
「ちょっと石炭が切れそうだから、お前ら四人で採掘してきてくれ!四人もいれば、流石に採掘位は大丈夫だろうからさ!慣れついでに行ってきてくれ!」
「了解です!」「了解っす!」「了解ですよっ!」
おぉ…なんというか順応早いな…瑞稀…
「よし!んじゃあ、街を出て、すぐのところに炭鉱がある。そこで石炭を持ってきてくれ!」
町の外…
一体どうなってるんだろうな…
準備を済まし、期待と不安を抱えて、町を出る。
出てみての第一印象は、正直普通だった。
例えるなら、モンゴルとかにある大草原のような、まさにそんな感じだった。
「さて、モンスターに気をつけながら進む…ってうわぁ!」
と、草むらからいきなりゲル状の何かが飛び出してきた。
「これは…スライムね…初めて見た…」
え?今なんて?氷花さん…
「え?みんなってモンスター初めて見る人だったり!?」
「そりゃあ、4日前くらいにこの世界に来たしな…」
!?
「まって!話は後!スライムが攻撃してくるよ!」
と、言われて前を向いた時には既にスライムが突進してきた…って、まて!早い!
ゴスッ!という重い音が響く。
ぐはっ…痛…くない!あれ?なんで?
ふと上の方を見ると、お決まりのウィンドウが。
あ、『HP』の数値が少し減った。
なるほど、痛みは無いけど、この『HP』が無くなるとやばいってこと、だよね。
まあ、とりあえず、この棒で叩くか。
えいっ!と、長めの棒で叩く。
すると、スライムの上の方のステータス?が減ってくのが分かる。
そして、みんなも同じ考えだったのか、一斉に叩き始めた。
まあ、いわゆる、スライムをタコ殴りである。
そうしているうちにみるみるスライムのHPは減って、とうとう0になった。
キュー、ポンッという効果音と共に、スライムが消滅して、周りには謎のゲルが残った。
……ま、まあ、スライムって、ゲルだしね。
…意外とグロいのね…ゲームの世界って。
「やった!初勝利‼︎」「やっほぅ!!」
「やりましたよ!先輩っ!!」
みんな口々(くちぐち)に喜びの歓声を上げている。
いや、多分、こいつって、かなり弱い部類です…よね…?
ま、いいか!初モンスターだったし!
さて、聞くか。アレ、を。
「一つ質問していい?」
「ん?なんだ?」
「もしかしてさ、勇刀と氷花さんって、元は現実世界に居た…?」
すると、二人は顔を見合わせて、すぐさまこっちを向いた。
「え…?その言い方だと…信太くんたちも…?」
てことは、やはりか。
どうも、気になるところが多かったんだよね…服とか、ずっと、ててて音じゃないとか。
「まさかここに同じ境遇の人に出会うなんて!!」
「やったな!氷花!」
あれ?でも…
「でも、どうやってこの世界に?ちなみに俺は上司に連れられて、黒い箱から」
「あ、瑞稀もそうですよー」
やはりか、あの課長は一体何者なんだろうな…
まあいい。それより他の人だ…
「えーっと、俺も信太と同じだ」
「私も、ね…」
うーん…みんな黒い箱…か…
「あのーもしよかったらなんですけど、どこに勤めてました?」
「俺はとあるゲーム会社で、氷花もだぜ」
ゲーム会社も一致…か。
「どうやら、俺たちは共有点があるみたいだな…」
うーん…
「さて、これからどうする?」
「うーん…とりあえず、今日は石炭取って、帰ってからゆっくり話さない?」
うーん、その通りだな。
「うん、そうだな、そうしよう!」
まずは、石炭。
そこから、次の事を考えていこう。
少し歩き、やっと洞窟に着く。
そして、中に入ると、そこには一人の男の人がいて、「何か用かい?」と言われて、石炭が欲しい、と伝えたら一袋渡されて、「1500モネね!」言われ、お金を渡すと「毎度!」と言われた。
あ、もちろんあの『効果音』で。
「はい」「いいえ」の選択肢も。
仕事場に着き、親方に石炭を渡すと、「今日は町の外に出て、疲れただろう。だからもう仕事上がっていいぞ」とのこと。
親方最高!
と、いうことで今は、奥のさらに奥の部屋に四人集まったところ。
現在、時刻は午後8時。
「さて…と、何から話す?」
「そうだね…まず、みんなこの世界に来た時、どこに居た?」
「私と勇刀は鍛冶屋の前に最初からいましたよ」
「私もですよっ!」
「普通に家に居たのは俺だけか…」
うーん…
「結局のところ、俺たちがここに来た目的ってなんだろうな?」
「確かにな…」
「ま、とりあえず、この世界から出るには、まず慣れる、だ!」
「…そうだな!」
まあ、とりあえず今日はこんなところでひと段落しよう。
てか、あれ?俺と勇刀しか話してないけど、二人が随分静かだな…
振り向くと、二人仲良くうたた寝していた。
そりゃそうか、今日は初めてのことだらけだったもんな。
「さて、俺らも寝るか!」
「そうだな…ふぁ〜あ…」
「ほら、二人ともここで寝ると風邪引くぞ!」
氷花さんと瑞稀の肩を揺すって起こす。
「うぅ〜ん…あぁ、寝てたのね…
ごめんね、んじゃおやすみ…」と氷花さん。
最初、氷花さんはもっと完璧!みたいな人だと思ったけど、こうしてみると氷花さんも俺らと同じなんだなぁ…
そして瑞稀の方はと言うと
「……zzz……」
起きる気配皆無。
まあ、こいつなら風邪は引かないだろうけど、とりあえずベッドには運んでやるか。
あれ、そういえば勇刀は?…って、もう布団入ってるし…
みんな、本当に疲れたんだな…
はぁ…こいつ運ぶか…
よいしょっと、瑞稀をお姫様抱っこの要領でベッドまで運ぶ。
うーん…意外と…その…重い…
そう呟くと「重くて、悪かったですねっ〜!」といきなり声が!って起きてるんなら自分で歩けよ!
言い返そうと思って顔を見ると「……zzz…」と、寝息を立てている。
寝言かよ!
もう一度。
寝言かよ!!
びびったわ!
早く運ぼ!なんかこわい!
そして、瑞稀をベッドにリリース。
ふぅ…寝るか…
と、自分の布団に入る。
布団の中で考える。
あぁ、また1日が過ぎる…
あと何日経ったら帰れるんだろうな…
そんなことを考えていたら、いつの間にか寝ていた。