魔王の娘
パチパチ
パチパチと火の粉が爆ぜる音がする。
ブータの目の前にはたき火があり、たき火の周りには程良く焼けた魚があった。
空には星が輝き、月が大地を照らしていた。
近くには川があり、蛍のような虫が幻想的な風景を造りだしている。
中々に素敵な場所だと思う。
時々ならキャンプをするのもいいだろう。
(でもなぁ、毎日は嫌だなぁ。ベッドで寝たい。)
ブータは溜息を吐きながら魚に噛り付いた。
ここの川魚は脂が乗っていて驚くほどに美味い。ブータは無言で次々に魚を食べていく。
焼いていた分が無くなれば川に入って魚を掴み取って補充していく。このスピードで魚を捕っていくと、もしかしたら明日にはこの川の生態系が変わっているかもしれない。
しかしブータは川の生態系を崩す不安よりも、空腹を解消したいという気持ちの方が強いので気にせず魚を捕っていく。
「美味そうだなぁ。」
新しく魚を捕って焼いていると、何時の間にかブータの隣に10代くらいの女性が座っていた。
ここはアルファの街からかなり離れた場所にあり、こんな夜中に若い女性が来ているのは明らかにおかしい。
(冒険者か何かだろうか?それにしては普通の服装だが……)
ブータはこの女性が冒険者か何かだと考えたが、その割に来ている服は普通の何処にでもいそうな街娘のような格好だ。
彼女はいったい何者なんだろうか?
「すまないが、一つ分けてもらえないだろうか?」
「うん?別に良いぞ。」
女性はよだれを垂れ流しながら縋る様な眼で見てきたので、ブータは焼き魚を一つ、彼女に渡す事にした。
魚を渡すと女性はハフハフと美味しそうに魚を頬張る。
その食べっぷりは豪快で見ていて気持ちがいい。
「所で君は誰だい?」
「私か?私は大地の魔王の15番目の娘、ミディアラだ!ミディと呼んでくれ!」
ミディはエヘンと胸を張った。
ブータはそんなミディを見て唖然とした。
それもそのはず、ブータ達が倒そうとしている魔王にはなんと子供が居て、しかもその子供が自分の前で自信満々に自己紹介をしているのだ。唖然とするのも仕方ないだろう。
改めてミディを見てみると、頭にはバッファローマ○のような大きなつのが生えている。
髪の色も燃えるような赤色、良く見てみると高貴な顔立ちをしている様な気がしないでもない。
「魔王ってあの、人に恐れられているあの魔王?」
「それはどの魔王だ?私の父さんは率先してモンスターに壊されてしまった村の復興を手伝ったりしているぞ?何でも悪いモンスターしかいないと思われたくないらしくてな!」
話が違う。ブータはそう思った。
それともミディの父親である魔王とブータ達が倒そうとしている魔王は別の魔王なんだろうか?
「なぁ、この世界には魔王って沢山いるものなのか?」
「うん?いるぞ?30人位かな?」
どういうことだ、本当に話が違う。
全員倒さないと帰れないんだろうか?それともその中の1人を倒せばいいんだろうか?
「何ていうか、魔王ってくらいだし、みんな世界を征服したり滅ぼそうとしてるのか?」
「どんな偏見だ、それは。確かにそう言う人達も確かにいるけれど、そう言う人達は10人くらいしかいないぞ!」
結構いる。3分の1は世界征服しようとしているのか。
しかし3分の2はイメージしていたのとは違い、温厚な性格で人類と仲良くやっていきたいと思っている様だ。
「それで、魔王の娘さんは何をしにここに来てるんだ?」
「別に目的はないな。今は見聞を広げる為の旅の途中なんだ。」
「そうなのか。」
ミディは見聞を広げる旅の途中で仲間というか、親の魔王と逸れてしまったらしい。
お腹を空かせてフラフラしていた所に焼けた魚の匂いがして釣られてきたみたいだ。
「それでな、今日は1人なんだ。明日になれば父さんが見つけてくれると思うんだけど。」
「それは大変だね。」
「そうなんだ!それで相談なんだけど、私もここで寝ても良いかな?」
ミディは不安そうな顔でこちらを見上げて来る。
ブータがこれを断ったら彼女は不安な夜を過ごさないといけなくなるだろう。
それは阻止しないといけない。
「勿論だ。テントを使うと良い。」
「ありがとう!でもあなた……えっと。」
「ブータだ。」
「えっと、ブータと一緒だとテントがパンパンになっちゃわないか?私は外でもいいのだけれど。」
「女性を外に寝させる訳にはいかない。テントにはミディが入るといい。私は外で見張りをしているから。」
「そんな!だってこれはあなたのテントじゃないか!」
それからブータがテントを幾ら使えと言ってもミディは外で寝ると言い張る。
ミディは中々に頑固でブータが幾ら言っても聞こうとはしない。
結局2人とも外で寝る事になったのだった。




