検問
「これはすごい。」
ブータはアルファ南門の前に居た。5mはあるだろう魔物避けの防壁は圧巻の一言だろう。大きな門の前には2人の兵士らしき人達が検問をしている。
(厳重だな。まぁ、モンスターがいるこの世界では普通なのかもしれないが。)
門の前には列が出来ていてしばらく待たなければいけないみたいだ。
魔物避けの松明なんかもあって周囲にモンスターはいないが、遠くで狼の遠吠えの様なものが聞こえて来る。
門の前にいる兵士は2人で大丈夫なんだろうか?
もっと沢山いた方が絶対良いと思う。
街に入る為に並んでいる人達はこれが日常のようで、この状態に誰も怯えていないが、それがブータには信じられなかった。
ブータの様に自分で何とかできる人間ならいいが、並んでいる人達は商人や職人しかいない。兵士やブータがいない状態でモンスターが来たら並んでいる人達は戦うことなく惨殺されてしまうだろう。
(あぁ、この人達はここにモンスターが来るなんて考えてもないんだろうな。それとも兵士さん達に絶対の信頼でもあるんだろうか?)
ここら辺にはモンスターは来ないのかもしれない。
だからこそ大きい街が出来上がったんじゃないだろうか?
それでも、それでも危機感が少なすぎる気がする。
確かに兵士はいる。それなりに訓練もしている兵士だろう。
魔物避けの松明もあるし、門もすぐ傍だ。危機感を持つのも難しいかもしれない。
それでも、それでもだ。
「少し失礼しますね。」
気付くと兵士たちがブータの前にいた。
何時の間にか結構な時間が過ぎていたようで、ブータの番が来ていたようだ。
ブータは簡単な身体検査を受ける。
「特に問題は無し、と。出身地と名前をお願いします。」
「ブータと言います。出身地は日本という所なのですが、分かりますか?」
「ブータさんですね。えっと、ニホン、ですか?」
「実は転移魔法に巻き込まれまして。私の故郷は別の大陸みたいなんですよ。」
ブータが適当にそう言うと、兵士達はそれを信じたのか同情したような感じで頷いている。
この兵士達はもっと人を疑う事を覚えたほうが良いと思う。
「それは大変でしたね。身分証はお持ちですか?無い場合は通行料が必要になりますが。」
「お金ですか。この国の通貨は残念ながら。」
「そうですよね。しかしそうなると…うーん。規則は規則ですから、通す事が出来ないんですよ。」
「えっと、これをお金の代わりには出来ませんかね?」
ブータは兵士たちに熊の毛皮を見せる。
それを見せた瞬間、兵士たちの顔が青く染まった。
「ジャ、ジャックベアーの毛皮じゃないですか。それをどこで?」
「ここに来る途中で襲われたので倒しました。えっと、倒したらマズイ熊でしたか?」
絶滅危惧種とかだったら最悪牢行きだろう。魔の森には沢山いたので大丈夫だとは思うが。
しかし兵士達はなにも答えない。ガタガタと震えているだけだ。
「あ、あのー?」
「あ、いえいえ。倒す事自体は全然大丈夫なんですけど、ジャックベアーは凶悪なモンスターなので驚いてしまって。」
「あぁ、そうなんですか。えっと、それで通行料的には大丈夫そうですかね?」
「通行料には多すぎる位ですよ。」
兵士達は困ったように苦笑した。
どうやらこの熊は思った以上に強敵で、この毛皮は思ったより高価なものの様だ。
「ではこれでお願いします。」
「いいんですか?この毛皮は状態も良いですし、売ればかなりの額になりますよ?」
「別にかまいません。それにそれ位しか金目の物はありませんし。」
ブータは毛皮を兵士に押しつけるように渡し、代わりに通行手形を貰う。
木で出来たそれは、神社の絵馬みたいな形をしていた。
「ギルドか役所で身分証を発行してもらったら通行証は返却をお願いします。ここに住むだけの場合は役所で、冒険者として依頼を受ける場合はギルドで身分証の発行をお願いします。ギルドで登録した場合はギルドで依頼を受ける事が出来るようになります。その分、少し登録料金がギルドの方が割り増しになりますが。」
「親切にありがとうございます。」
「いえいえ、これが仕事ですから。」
ブータは兵士達に別れを告げてギルドに向かう。
30分後、ギルドが何処にあるのか分らなくて兵士達の元にブータが再び訪れる事になるのだが、それはまた別の話。




