動けるデブ、異世界に到着する
お久しぶりです。
森の中を駆ける。風のように、嵐のように。
その巨体からは考えられない速さで駆けるその肉塊は正に弾丸。
見た目はピザデブだが、動きは弾丸。ブータの姿がそこにはあった。
・・・
ブータが異世界に送られてまず困った事は尋常ではない自分の身体能力をコントロールできないことだった。
何せ軽く触っただけで巨木が倒れ、果物を取ろうとしたらその果物が粉々に砕けるのだ。
ゲームの時の身体能力と自分の感覚がまるで噛み合っていなかった。
困った事はまだある。それは食事だ。ブータが目覚めた場所は森の奥深くのようで、果物やモンスターが数多く生息していて食材は豊富にあり、困ることはなさそうだがブータは触れた物全てがもれなく四散してしまう状態なので食事方法が限られてしまっていた。早急に力のコントロールを覚える必要があった。
更にブータの体の燃費が悪い事も問題になった。正確には燃費が悪い訳ではないが、常に空腹感が付きまとってくるのだ。
結果、ブータは常に何かを食べていないと落ち着かなくなってしまっている。
今は巨大なオオカミのようなモンスターを食べようと追いかけている最中だ。
ブータ達が異世界に飛ばされて3ヵ月という月日が流れている。
他の2人はどうやら別々の場所に飛ばされたらしく、チャット機能も使えないので無事かどうかは分らない。
しかしブータは2人のことを心配してはいなかった。
ブータと同じようにゲームの時の能力を引き継いできているのなら何とかなるだろうと思ったからだ。
だからこの3ヶ月間、ブータは食べる事と力のコントロールを覚える事に重点を置いてきた。
おかげで力のコントロールは完璧に出来るようになったし、狩りも上手くなってきた。もうこの森はブータの庭といってもいいだろう。
「そろそろ人里に下りるか。誰かと会話しないと言葉を忘れそうだ。」
もう木を触っても木が折れる事は無くなったし、寄り掛っただけで大岩が砕ける事もなくなった。目の前に倒れているオオカミもちゃんと捌けているし、大熊相手にプロレス技を仕掛けられるまでに力もコントロールできるようになった。
(最初は大熊に技を掛けようとしたら手足が千切れたんだよな。あれは申し訳なかった。)
今なら人の肩を叩いても大丈夫な気がする。
最悪肩から先が無くなるかもしれないが、その時は回復薬を使って何とかしよう。回復薬バンザイ!
こうしてブータは森から出る事を決めた。
そうと決まれば準備が必要だ。まずは食糧、次に食糧、あと食糧が必要だろう。毛皮なんかも少しは持って行った方が良いかもしれない。売って金にしよう。
ブータは森を出る為の準備を始めた。
その準備が終わるころには森に生きるモンスターが半数にまで減っていたが、今は気にしないでおく事にしよう。
・・・
ブータがいた森はブータが思っていたよりも大きな森だった。
弾丸の様なスピードで駆けているブータだったが、一向に森の終わりが見えてこない。
出て来るモンスターは弱くなっているので、森の終わりも近いとは思うが、すでに日が暮れ始めている。
今日はそろそろ足を止めて野宿の準備をした方が良いだろう。
今日の夕食は【熊の干し肉】だ。
この森の熊は雑食で何でも食べるが蜂蜜と果物を好む性質がある。
そのせいか、この森の熊の肉は臭みが少ないという素晴らしい熊さんだ。
ブータはこの熊肉に惚れこみ、力のコントロールが出来るようになってからは熊の肉を干し肉にして持ち歩くようになっていた。
(この世界に来て、この体を得てからは随分と苦労した。マサムネとクウリャさんは上手くやっているだろうか?まぁ、死んではいないと思うが。)
自分と同じようにこの世界に送られたはずの仲間の事を考えながら魔法でたき火を起こす。
ブータはたき火で干し肉を焙りながらこれからの事を考えていた。
(まずは2人と合流するのが先だな。魔王とやらを倒すにしても戦力がたりないだろう。2人に合流するまでは適当にこの世界を観光するか。)
この世界は……といってもまだこの森から出た事もないのだが、ブータはこの世界を美しいと思っていた。魔王を倒す前に少しくらいは楽しんだっていいだろう。
空を見上げてみると一面に星が輝いている。
こんな星空はゲームの中以外では見た事が無い。
ブータはこれだけでもこの世界に来て良かったと思えた。
「……魔王が何をしようとしているかは知らないが、この世界を荒すのだけは止めさせないとな。」
ブータは空を見上げたままそうボソリと呟くのだった。




