アリス
新世界には白盾十字団というギルドがある。
新世界は美男美女が多い。
ベースは自分の顔だが、ある程度はアバターの初期設定時に変更できるからだ。
だからみんなが美男美女。逆に突出した美男美女が出てくる事はないと言ってもいいだろう。
しかし白盾十字団のギルドマスターのアリスは違った。
彼女は顔を弄ってはいない。
絹のような腰まである黒髪も、慈愛にあふれた感じの少し垂れた目もどこにも違和感はない。
新世界では美男美女が多いと先に言ったが、それは顔を弄った結果の作られた顔だ。
そんな顔にはどうしても不自然さがでてしまう。(勿論ほんの僅かでしかないが)
その不自然さがアリスにはない。
そしてアリスの人柄の良さも合わさって彼女の周りにはいつも誰かがいた。
白盾十字団はそうやってアリスを慕うプレイヤー達が集まって作られたギルドだ。
アリスは性格も良く、誰にでも平等に接する。
戦う事はそこまで得意という訳ではないが、それでも大型戦闘やギルド戦の時は自分が最前線に立ち指揮を取ろうとした。
結果アリスはプレイヤー達から聖女と呼ばれるまでになるのだが、今の彼女にはそれが重荷になっている。
(あー、みんなが慕ってくれるのは嬉しいけど、正直しんどいわぁ…)
アリスは心の中で何度目かの溜息を吐いた。
アリスはゲームが好きだ。みんなで遊ぶようなMMOではフォローするのが当たり前だと思っているし、大型戦闘やギルド戦なんてゲームの華は特等席で遊びたい。
アリスは当たり前の事をしているだけのつもりだったのにいつの間にか聖女にされていた。
いったい誰が言い始めたのだろうか?アリスはその誰かをぶん殴ってやりたい気持ちで一杯になる。
アリスは基本面倒くさがりだ。興味がある事は率先して頑張るが、それ以外はあんまり頑張りたいとは思わない人間だった。
しかし聖女と評価された彼女は今、怠ける時間が少なくなってしまっている。
慕ってくれているみんなを裏切りたくなかったからだ。
(あぁ、草原フィールドで小一時間ゴロゴロしたい。高級ホテルで一日ベッドの上も捨てがたいなぁ…)
アリスは今、ギルドメンバーを必死の思いで振り切って喫茶店【猫の目】で紅茶を飲みながらボーっとしている。
テーブルに頬をつけながらため息を吐いている姿はとても聖女には見えない。
この喫茶店は目立たない裏路地にある為、聖女でいる必要がないのだ。
「そういえば新ボスが出たのよねー。一回行ってみようかしら?」
アリスは先日、一人で新ボスの一体を倒したプレイヤーがいるとギルドメンバーが騒いでいたのを思い出した。
「私もたまにはソロで行ってみようかしら。丁度みんなを振り切ったところだし。」
アリスはそう決めるとガタリとイスから立ち上がり会計をすませる。
黒髪を靡かせながらアリスはフィールドへと駆け出した。




