第二話 蓮華
九級試験に合格した葵。
しかしなぞはまだ残っていた。
それと雪華と鈴雨が五霊山に登っていることの意味は・・・・・?
「そんなはずは・・・・・」
雪華はずっと考えていた。
じゃあなぜ葵はあの技を使えたのか・・・・。
そう考えている間に、また日が昇った――
「はいい??」
間抜けな返事を返したのは鈴雨。
「だから、葵は男にしか伝えない龍家の秘伝の技を使える。」
声を低くして、雪華は繰り返した。しかしそれは鈴雨に伝わらないらしく、鈴雨は首を傾げ
るばかりだった。
「葵は女だろ?」
「だから、それがおかしいんだよ・・・・」
雪華は少しむっとしたように答えた。
「じゃあいいんじゃない?」
鈴雨らしい答えだった。雪華はその答えを聞いて、諦めたらしくため息をついた。
―もうすこし様子をみるか・・・・・
「おはようございます!!!」
元気に挨拶してきたのは話題の中心、柳葵だった。
彼女の姿はやはりどうみても女で、雪華はさらに大きなため息をついた。
「あれ?雪華先輩どうしたんですか?」
「なんでもない。」
雪華はそう答えると、席を立った。
「おい、五霊山行くぞ。」
その言葉を聞いて、あわてて二人はついてきた。九級に合格したばかりの葵が一番はりきっ
ていたようだった。
「よし。」
五霊山の頂上の陣から腕輪をとった葵は、うれしそうにいった。
「今日で私の登山もおわり!」
いつもは聞かないような口調で葵は叫んだ。それを聞いた雪華はギロッと恐ろしい目つきで
にらみつけた。葵はそれで縮こまる。
そんな葵を見た鈴雨はあわてて駆け寄り、
「五霊山の頂上は聖地だから騒ぐのは禁止なんだよ。」
といい、葵の肩をぽんぽんとたたいた。
葵は申し訳なさそうに頭を下げていた。
「さ、帰ろう」
鈴雨の言葉に三人は山を下った。
「雪、鈴」
五霊派に帰ったとたん、凋が二人を訪ねてきた。
「葵、お前はそろそろほかの九級門下生たちに混ざれ。仙術はすべておぼえたのだろう?」
「はい!」
葵は凋に言われるまま、あわただしく九級門下生たちのもとへかけていった。
凋はその姿を最後まで見送ると、静かに言った。
「お前たちはこっちへこい」
いつもと感じの違う凋様子に雪華と鈴雨はただ疑問を抱くだけだった。
その間にも凋はどんどん進み、気がついたらいつの間にか凋と李陽・李月姉妹しか入れないという礼拝堂の前に着いた。礼拝堂の前にはすでに李姉妹が待機しており、二人は深刻な顔を
して立っていた。
「お前たちに五霊派最上級武術のうちの、”蓮華楊”を伝授する。」
『!?』
突然の凋の言葉に、雪華も鈴雨も驚きを隠せなかった。
「私たちに・・・ですか・・・・?」
鈴雨が遠慮がちに尋ねた。
”蓮華楊”とは五霊派最上級武術の一節であり、これを習得するには相当な仙力と、体力、
そして精神力が必要だった。そして普通の門下生には雲の上のもの、といっていいほど習得が
困難な技だった。三つの力のどれかが不足していれば、その人は蓮華楊習得途上の激しい訓練に耐えられず、死んでしまう場合もあるといわれている。
「まさか・・・そのために私たちを五霊山に・・・・!?」
雪華が息を呑みながら言った。
「・・・お前たちならできると思った。やるか?」
『はい』
凋の言葉に、二人は即答だった。この技の名前が凋の口からでて、さらに習わせてくれる権
利を得ることは本当にまれだったのだ。
「李陽、李月」
『はい』
姉妹の返事はまさに双子の神秘と思われるほど息がぴったりだった。
二人は雪華と鈴雨をつれて、礼拝堂の後ろにある道場へ入った。鈴雨には李陽、雪華には李月がついた。
「蓮華楊は、五霊派の創立者が愛するものを護るこころから作り出されたといわれる最上級武術のひとつです。これは最上級武術に共通することですが、誰かを護り抜くという強い意志がなければ使いこなすことはできません。」
李陽が説明すると同時に李月は雪華を見つめていた。
―あのぼろぼろの女の子がこんなに成長するとは。
雪華は当然その視線に気が付き、不思議に思っていたのだが。
「それでは、基本です。」
李陽が一言言うと、李月も同時に身構えた。その構えは、今まで習ってきたどの武術とも異
なるもので、やわらかい動きが特徴的だった。
「すごい・・・・・」
初めて最上級武術というものを見た鈴雨は思わず言葉を漏らした。
「まずは構えです」
李姉妹は鈴雨と雪華それぞれにつき、丁寧に教えていた。構えは思ったより難しく、その姿勢を保つだけでも二人は精一杯だった。
「は・・・っ」
鈴雨はどさりと床に倒れこんだ。
「きつい・・・・・」
そしてつぶやくように言った。雪華の方を見ると、こちらもなかなか苦労していた。しかし
雪華の方が体力があったのか、鈴雨の様に立っていられないということはなかった。
夕暮れ。
あっというまに一日が過ぎた。
李姉妹は二人が帰ったのを確認すると、すぐに凋のもとへと向かった。
「どうした?」
凋は不思議そうに二人を見ていた。
「あの二人・・・・とんでもない才能を持っています」
李陽が驚いたように言った。その言葉に凋は笑った。
「当然だろう。じゃなければ最上級なんか学ばせない。」
李姉妹はすこしだけうれしそうに微笑むと、去っていった。
李姉妹がいなくなった部屋で、凋はひとり窓の外を眺めていた。
「そろそろ真実がわかるころだろう・・・・・・」
「鳳雪華。真実の重さに耐えられるか・・・・・・・・」