プロローグ
ざぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・
空から無数の雫が降ってくる。
「長!!凋節亜様!」
ばたばたと少女が長の名を呼びながら走ってくる。
「どうした?李陽?」
李陽と呼ばれた少女は息を切らし、長・凋節亜の前に立った。
「派門のところに・・・女児がひどいけがで倒れているのです!」
「なんだと!?」
凋はあわてて立ち上がり、李陽とともに派門に向かう。
雨は一向にやみそうもなく、ますますどしゃぶりになってくる。
「あ!長!!」
李陽の双子、李月が凋を見つけ叫ぶ。
彼女のひざに頭をあて、一人の幼女が倒れている。
見た目は6〜7歳ほどで、胸や肩、足などからだのいたるところから血が大量に出ている。
美しかっただろう銀髪はぼさぼさで血がべっとり付いてしまっているうえ、
服はぼろぼろに破け、いままでどのような生活をしていたかは大体予想が付く。
凋はその子の姿を見て、思わずつぶやいた。
「いったい・・・・・この子は何を・・・・・・・」
―
チュンチュン・・・
「・・・・夢、か・・・・・」
久しぶりに過去の夢を見たな、と凋はため息をついた。
あれからもう6年近く経つ。
あのころ、まだ長に成り立てだった若い自分も今はもう27歳だ。
「あ、凋様。おはようございます。」
部屋を出ると、李月に出くわした。
「おはよう。李月、小雪はどうしている?」
凋が聞くと、李月はにっこり笑い、
「雪華様はさきほど鈴雨様と朝礼にいかれましたよ。今は五霊山に居られるとおもいますが・・・・・・・」
と教えてくれた。
小雪こと雪華は6年前に助けたあの幼女のことで、名前は凋がつけたものだ。
胸にあった鳳凰をかたどった家紋の刺青で、仙術使いの名門・鳳家の者だということがわかった。
しかし、本人は記憶がない上にとんでもない人間不信に陥っていたため、深く探ることもできなかった。そこで、本人が思い出すまで「雪華」という名前をつけたのだ。
「そうか・・・・・・・」
「なぁ、小雪」
黒髪を頭の上で二つにお団子した少女が小雪に話しかけた。
五霊山はもともととても険しい山だったが、
五年間登り続けた今となっては、もう普通の道を歩くのとほとんど変わらなかった。
「・・・・・鈴雨・・・どうした?」
隣の美しい銀髪を低めの位置でひとつにしばったにした少女―小雪が返事をした。
「うちら、いつまで五霊山に登らなきゃいけないのかなぁ・・・・」
ため息をつきながら鈴雨は言った。
「だってさぁ・・・・うちらもう五年だよ?節亜様は三年しか修行してないって・・・」
退屈そうにのろのろと歩き、頂上を眺めてはため息をつく鈴雨に小雪も同情をした。
この五霊山に登り、門下生は修行をするのだが、どうも二人はやたらと修行の年数が多い。
これも凋が組んだメニューなのだ。
20歳以下で十級門下生にいるのはこの二人だけというほど、
二人ともとても優秀なのだが、十級でまだ五霊山に登っているのもこの二人のみなのだ。
「節亜様はあの方なりの考えがあるのだろう」
そう鈴雨にいいながら、自分にもそう言い聞かせた。
五霊山独特の青い霧が見え、頂上についた。
頂上には五霊のとおり、五つの精霊が宿る祠がある。
その祠は丸く並んでおり、その中心には陣が描かれている。
その陣の真ん中に五霊派の門下生なら誰もが持つ、白水晶の腕輪を置き、精霊を呼び集めるのだ。
これによって、腕輪の持ち主は仙術を学ぶことができる。
しかし、小雪と鈴雨はすでにすべての仙術を心得ており、もう登らなくてもいいはずなのだ。
「ふぅ・・・・・戻るか。小雪!」
腕輪の仙力を貯め終わり、鈴雨は小雪に声をかけた。
「・・・・・ああ。」
小雪は答えた。やはり、凋が何を考えているのか読み取れない。
十級になった二人を五霊山に登らせると言うことは、
きっとなにか五霊派全体にかかわる重大事項なのだろう。
しかし今はそんなことなど気にしてはいられない。
修行に専念しよう――
「そういやぁ、昨日新しい奴が入ったってね。」
鈴雨は思い出したように言う。
「ふーん。」
もちろん小雪がそんなことに興味を持つはずもない。
しかし鈴雨はうれしそうに語り続ける。
「それがさぁ〜、相当すごい奴らしいんだよね」
「どうすごいって?」
『すごい』という言葉に小雪が反応する。
小雪は昔からこうだった。
強いと言われる人には確実に勝負を申し込むのだ。
本人曰く、自分の力試しらしいが一度もまともに小雪と戦えた者を見たことはない。
それもそうだ。
小雪の戦闘能力はずば抜けていて、鈴雨でさえ一回も勝ったことはない。
「なんか・・・・ものすごい戦闘能力だとか・・・・・それでいきなり九級の試験をうけるとかなんとか・・・・・・」
そうつぶやいた鈴雨の声に、小雪は不敵な笑みを浮かべる。
またか・・・・と鈴雨がため息をついたのは言うまでもない。
小雪のこの癖は家系からか、それともただ本人が好きでやっているのかわからない。
しかし、小雪はどこか普通の人とちがう。
だからこそ、鈴雨は彼女に話しかけ、親友になろうときめたのだ。
「そいつの試験を見にいくぞ。」
予想をしていた言葉だ。
「あいよ」
鈴雨は了解、とばかりに頷く。
人の試験を見るのはなかなか悪くない。
もちろん試験会場には高等レベルの人しか入れないが、
二人は凋が特別に許可を出している。
凋は二人の実力を最もよくわかっているのだ。
「鈴、雪。」
五霊派に戻ったとたん、二人は凋に呼び出された。
「何ですか?」
鈴雨が聞く。
「新しく入った奴のことだ。柳葵、こちらに来い。」
凋が呼ぶと、美しい長い黒髪の少女が入ってきた。
外見的に12,3歳に見えるこの少女は目がぱっちりとした、
なかなかかわいらしい子だった。
「紹介しよう。昨日入った柳葵だ。」
「はじめまして。葵とよんでください。」
凋が紹介すると、葵はペコリと礼をした。
「まだ級はないが、近日九級の試験を受けさせる。それまで、彼女に指導をしてほしい。」
凋はそう言うと、葵を置いて去った。
「葵、か。私は鈴雨。洸鈴雨だ。よろしく。」
鈴雨はそういい、手を差し出す。
「は、はい!よろしくお願いしますっ!!」
かわいらしく握手に応じる葵に、鈴雨は思わず表情が緩む。
「・・・・・・・・・鳳雪華だ。」
小雪は無愛想に言った。
「・・・・・・・よろしくお願いします・・・・・」
小雪の態度に葵は戸惑う。
「大丈夫。小雪はいつもああだから。」
鈴雨はそう葵に言った。
しかし実際は小雪に疑問を抱いた。
―
「どうしたんだ?小雪」
自分の部屋に向かいながら、鈴雨は小雪に聞いた。
「何が?」
「葵にあんなに冷たくすることはないじゃないか。」
鈴雨がそう言うと、小雪は立ち止まった。
「あいつは・・・あいつはどこかがおかしい。」
小雪は苦しげに言った。
「ほぇあ?」
あまりにも意味がわからなかったため、鈴雨は変な声を出してしまった。
小雪は相変わらず無表情で、何を考えているのかわからなかった。
「九級を受けるほど腕が立つというのになぜ私達が指導をしなければならない?」
小雪は言った。
当然鈴雨は返す言葉がなく。
「・・・・・確かにおかしいな。」
言葉は大きな夕日に飲み込まれたかのように消えた――
初めてしまいました・・・・。
これからがんばります!!!