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魔法をなくした薬師  作者: 灯野 しおん
第二日目

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第二日目②

朝食の時間は、

昨夜より少し賑やかだった。


窓から朝日が差し込み、

食卓を明るく照らしている。


焼き魚。

味噌汁。

卵焼き。

白いご飯。


湯気がふわふわ揺れていた。


リツカは席へ座りながら、

その光景をじっと見つめる。


朝から、

こんなに温かい食事を食べる文化があることに、

まだ驚いていた。


「いただきます」

フミと奈緒が言う。


リツカも慌てて続けた。

「い、いただきます」


昨日より少しだけ自然に言えた。


奈緒は気付いたみたいに、

少しだけ口元を緩める。


箸はまだぎこちない。

けれど昨夜よりはましだった。


魚を落とさず持てた瞬間、

リツカは密かに感動していた。


「そんな真剣な顔で食べる?」


奈緒が呆れる。


「……難しいので」

「箸に命懸けすぎ」


フミが笑った。


穏やかな朝だった。


窓の外では風が洗濯物を揺らしている。


遠くで、

カン、カン、カン——と踏切の音。


そのあと、

ごう、と低い音が流れる。


リツカは反射的に顔を上げた。


奈緒がその様子を見て笑う。


「慣れない?」

「……まだ少し驚きます」

「毎日鳴るよ」


毎日。


リツカは小さく目を瞬いた。


この町では、

あれが“日常”なのだ。


朝食を終える頃。


フミが湯呑みを置きながら言った。

「今日は晴れたし、少し町歩くかい?」


リツカの動きが止まる。


町。


昨日はほとんど景色を見る余裕もなかった。


「……いいんですか」

「ずっと家の中も落ち着かないだろ」


奈緒が味噌汁を飲みながら口を挟む。


「でも迷子になりそう」


「まいご?」

「道分かんなくなること」


リツカは少し考え、

真面目に答えた。


「それは……たぶん大丈夫です」


奈緒が吹き出した。

「その間がもう怪しい」


リツカは首を傾げる。


なぜ笑われたのか、

よく分からない。


すると。


どん。


足元へ白い毛玉がぶつかってきた。

ハクだった。


どうやら散歩の時間らしい。

リードを咥えている。


「お、行く気満々だねぇ」

フミが笑う。


奈緒が立ち上がった。


「じゃあ、ハクの散歩ついでに町案内する?」


「私がですか?」


「ハクいたら迷っても帰れるし」


リツカはハクを見る。


ハクは誇らしげだった。


……本当に帰れるのだろうか。


少し不安だったが、

同時に。


外を歩いてみたい、

という気持ちもあった。


窓の向こうには、

青空が広がっている。


潮風が吹いている。


知らない世界。


でも昨日より、

ほんの少しだけ怖くなかった。

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