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◆◆◆◆◆◆◆

僕はDなんて知らない。



ちょっと会っただけだ。旅の途中で。


……違う。一人旅だよ。僕の趣味。

リュック1つでぷらっと旅に出るの。歩きの時も、自転車の時も、バイクの時もあるけど。

Dと会った時は……確か、3日ぐらい歩いてて、途中で適当に買った自転車に乗ってたんだけど、それが壊れたからその辺に捨てて歩いてた時だ。

運悪いなぁって思っていた。帰る予定が狂っちゃったからな。

一人旅っていっても、ちゃんと予定を立てて行くんだよ、僕は。


夕方の田舎道で、赤い夕焼けがやけに綺麗で。でも、人が全然歩いていなかった。

お化けでも出て来そうな雰囲気さ。旅をしていればそういう道には慣れていたけど、少し嫌な感じがした。

いいや、怖いなんて言ってられないけどね。


そう、しばらく歩けばバス停があって、そのまま行けば夜のバスには充分間に合う時間だった。

だけど、土地勘が無い所で、延々と続く畑だか荒れ野だかわからない中の細い一本道があまりに果てしなくて、ちょっと急ぎ足で歩いていた。


で、Dがいたんだ。


ちょうどすれ違って、僕が来た道を逆に向かって行くところだった。

でも、宿を探しているって言うから、僕が歩いていた方に宿なんか無かったって教えてやったよ。

Dは道を間違えたらしくて、携帯で地図を見ながら首を捻ってたな。

ああ、最近はどこでも使えるよ。面白くない世の中になったもんだ。

でもその辺りは田舎過ぎて時々電波が入らなくなるし、そこで道を見失ったんだろう。

Dの背負った大きなザックにはテントもあって多分野宿の準備があっただろうから、全然心配はしてなかっただろうけどさ。

取りあえず、僕と一緒にバス停に向かったんだ。

そしたら、途中に墓地があった。


バス停に向かうまでに墓地なんてないはずで、道を間違えたかと僕は少し慌てたね。

それに、夕暮れの田舎の墓地なんて好んで行きたい所じゃないし。

僕は早足で立ち去ろうとしたんだけど、Dは墓地を突っ切って行こうとした。


馬鹿なことはやめとけって、僕は言ったんだ。

まともに管理されていないし、野生動物に荒らされていたからその辺に骨が転がっているかもしれないって。

でも、Dは平気な顔をして荒れた墓地の中をずんずん行っちゃうんだよ。


「一度弔ってもらえただけ、幸せでしょう」


そう言って、墓地の中に消えて行った。

何だか言い方が歳に合わず達観していてね。

いいや、僕はDの年齢なんて知らないけど。

でも、まだ若かったはずだろ。行き当たりばったりで野宿なんて若くないと出来ないね。

その後、僕はちゃんと地図の道に戻って、バスに間に合ったからそれに乗って帰ったよ。


今も知らない街に行くのは好きだけど、最近はほとんど二泊三日とか、長くても一週間くらいだ。

野宿なんてもうしたくないよ。

昔は小馬鹿にしていたけど、温泉旅行とか観光地の良さが僕もようやくわかってきたかな。


ああ、この前その近くに行ったから、試しにその墓地を探してみたんだ。

でも、何処にもなかった。

やっぱり地図にない所まで迷っていたんだろうな。それとも、狐か何かに化かされていたのか。


じゃあ、そこで会ったDは一体何だったんだろうな。


◆◆◆◆◆◆◆


末風 慈音

享年 45歳

死因 行方不明(失踪宣告)

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