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◆◆◆◆◆

確かに、私はDを知ってますよ。



何かしたんです?あの人。


いえ、久々の再会って喜ばしいことなんでしょうけど、この仕事では1回限りで2度と会わないのが真っ当なんですよ。


そう、Dに会ったのは駅ビルの服屋です。

私が来た時にはスタッフルームの机に座ってボロボロ泣いていました。

泣いてる奴っていうのは厄介でしてね。

こちらの質問にも答えないし、店員は同情しちゃってやっぱりいいですとか言って、何もしないで帰らせられることもありますから。

店員がいいって言うなら、こちらはもう知らないですけど。


でも、Dは泣きながらひたすらやってない、やってない、って言うんです。

代わりに店員がこいつが盗んだんだ!!ってすごい剣幕で喚き散らしてて。

店員に話を聞いて見ると、怪しい素振りをしていたし、通った後に商品が無くなってたからこいつが盗ったんだ!!って。


ただ、盗んだっていう服が無いんです。

聞くと、カーディガンみたいな薄手の上着らしくて。

隠せないほどでもないけど持っていればわかるでしょう。

すぐに捕まえたっていうなら捨てられないだろうし。

大体、証拠が無いなら身柄を拘束しちゃいけないはずなんですけど。

だから、店員に盗品が無いし防犯カメラにも映ってないし、証拠が無い以上万引きとして捕まえられないって言ったんですが、全然聞く耳を持たないんです。

逮捕してくれ!って店員は叫んでいて、Dもつられて泣き声がどんどん大きくなっていって。


「死ねばいいんですか!?」


とか喚き出しちゃうし。もう阿鼻叫喚。

本当に、こんな仕事は後輩に押し付けちまえばよかったって来たのを後悔しましたよ。

それで、死んでやる!ってスタッフルームからDが飛び出して行こうとするのを必死で抑えて、その剣幕に負けて店員がもういいですってさ。

私はそのまま帰ってしまってよかったんですが、それで本当に死なれたら厄介だと思いまして。

その辺の茶店でコーヒー奢って、李下に冠を正さずって軽く説教しました。


いえ、それほど珍しくはないですよ。

そういう奴はよく居ますから。

でも、やっぱりあそこまで大騒ぎすれば印象には残りますね。


……で、Dは本当に何もやってないんですか?


いやね、本当は盗んでたんじゃないかなって思うんですよ。

私と別れた途端に、Dはにんまり笑って軽く駆けて行きましたから。

ついさっきまで泣き喚いていた気の弱い若者の仮面を脱ぎ捨てたみたいに。

そこで捕まえても仕方ないからDを見送ることしかできなかったけど、あれは悔しかった。

長年の勘ってのも、当てにならないなぁって。

今更言ったところで、負け惜しみにしか聞こえないでしょうが。


あ、私がこんな話をしたって絶対に漏らさないでくださいよ。

最近厳しいんですから。


◆◆◆◆◆


永井 丞

享年 58歳

死因 自殺

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