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そうだね、ボクとDは友人より少し深い仲だった。
君の言うように恋人って言えるかもしれない。
Dはどういうつもりだったか、最後まで聞かなかったからわからないけど。
それで、何の話が聞きたいんだっけ?
……ああ、その時の話。
ボクはDと一緒に遊んでいた。夜の街で、と言っても夜中じゃない。ボクたちは真面目だったから、せいぜい8時とか9時だよ。
うん、そうかな。デートかもね。
季節はクリスマスの少し前だった。
街にクリスマスソングが流れていて、並木にイルミネーションが光っていて、ボク達も何となくそんな雰囲気に呑まれていたんだ。
それで、いつもは行かないようなちょっと高いレストランに入った。
そしたら、後ろの席で男女のカップルが言い争いをしていてね。
Dは聞こえないふりをしていたけど、聞き耳を立てていたのがよくわかったよ。
話が気になって、フォークを持つ手が度々止まってたんだ。
こーんな風に、眉間に皺を寄せて。Dは真面目だったから、後ろの2人が互いの浮気を責め立てているのが信じられなかったんだろうね。
だから、そのカップルがケンカ別れみたいな感じで立ち去った後に、ボクはちょっとした好奇心で聞いてみたんだ。
恋人が浮気したらDはどうする?って。
そしたら、Dはすごく嫌そうな顔をしていた。
「殺す」
Dはそう言ってすぐに嘘、って言って誤魔化すみたいに笑ったけど。
でも、Dは本当に浮気とかは許さなかっただろうなぁ。
今でもそうなんじゃないかな。真面目で真摯な付き合いが好きなんだよ。今のボクが言えたことじゃないけど。
そうそう、ボクとDが別れたのは別に浮気が原因じゃないよ。
ボクが仕事で離れるから、別れようって決めたんだ。
まぁ、付き合ってたかって言われると微妙だけど、別れ話をしたってことは付き合ってたんだろうね。
……。
………。
それは、セクハラっていうんじゃないかな?
別に良いけど。
うん。恋人がすることはDとやったよ。
……。
………。
…………。
ボクが何でも答えると思ったら大間違いだからね。
人の生活に口出ししないで欲しいな。ボクたちなりに色々あるんだよ。
……怒ってないよ。慣れてるから。
体の相性は良かったけど、Dと一生一緒にいるとは思っていなかった。結婚とかは、Dとじゃやっぱり無理かなって。
……今?
ボクは会社の上司と付き合っているよ。
ただ、誤魔化してるけど結婚しているみたいなんだよね。
そのせいか、無言電話が一日に何十回もあるんだ。
さっきから電話がずっと鳴ってるだろう?
あーあ、ボクはDと付き合ってた方が幸せになれたのかな。
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鷹野 世海
享年 25歳
死因 外傷による失血死