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バイオニックレミー  作者: 堀幸司 - holycozy - 
第一章 『黒いJK』
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第04話 謎のセーラー服②

 言うや、右腕のサブマシンガンを脩太の胸に突きつける。

 そして「次はお前だ、黒セーラー」と、左腕のエナジーボム・ショットガンを黒少女に向けた。

 この至近距離なら、脩太は確実に撃たれるだろう。黒少女もエナジーボムの攻撃面積を考えると分が悪い。

 そんな危機的状況を無視するかのように、黒少女は、天井に空いた穴よりもはるか高い大空に向かって右手を突き上げた。カッと開いた手のひらが、何かをつかみ取ろうとしているようにも見える。そのさまを見て彩子が直感したのは、援軍の要請だった。右手にサイメタル製の通信機を仕込んでいるのはあり得る話だ。

 一秒……二秒……三秒……黒少女は何かを待っている。だが、ことが起きる気配はない。

 そしてわずか数秒の沈黙に耐えきれなかったのは脩太であった。


「ちょっ……きみ……」

「観測して! 脩太!」


 脩太は、突然の命令に目を白黒させるだけだった。僕の名前を知っていたのか? と訊ねたいところだが、今重要なポイントはおそらくそこじゃない。


「観測して!」


 黒少女は何を言っているのか? 脩太に何を求めているのか?

 そしてそれは、脩太になら出来ることなのか?

 脩太の逡巡が解答にたどり着く前に、彩子の高笑いがこの場を制した。


「アッハハハハ! 貴様もノープランで出張(でば)ってきたのか!? 弾の一族は阿呆の集まりだな!」


 そう言ってもう一度、「アッハハハハハハハハハ!」と長めに笑い飛ばす。

 どうやらそれが、黒少女の逆鱗に触れたらしい。

「――――ッ!!」と、彼女の怒気が衝撃波のように伝わる。

 あきらかに目つきが変わった。一点をにらみつけるジト眼が怖い。

 こんな憎悪に満ちた表情が出来るんだと、脩太は変な感心のしかたをする。

 とにかく黒少女はキレた。

 無言でマジギレした。

 何という沸点の低さだろう。ここはマッキンリーか!

 瞳の赤色も相まって、黒少女の心の炎が熱い。少し離れていた脩太でさえ、肌がチリチリする感触を覚える。

 黒少女は、叫びにも似た息を吐くと、全力で彩子に跳びかかっていった。跳んだ勢いのまま、左腕のビームペネトレーターで彩子を殴りつける。ボクシングやその他格闘技には存在しない幻の大技『ぶん回しパンチ』が矢継ぎ早に繰り出され、ともかく彩子はそれを受け流すだけで精一杯という状況だった。

 一撃ごとに、彩子は骨の髄までダメージを受けていた。


 重い。このパンチは重すぎる。


 そもそもビームペネトレーターが重厚すぎて「ナチュラル・ボーン・鈍器」だ。あきらかに「バールのようなもの」より手強い。

 一方で、喉元過ぎて熱さを忘れている脩太は、「最後は物理でどつきあいだなんて……」と呆れたような口調でなじっていた。

 しかし、単純な物理攻撃であっても、桁外れであれば必殺であり、この殴り合いは限りなくそれなのである。

 八対二で彩子が押されているムードが漂ってきた。


「くっそっ! ……何だというのだ!」


 このままでは自分がTKOされる。彩子は三歩飛び退いて、サブマシンガンを連射した。対する黒少女は、左腕のビームペネトレーターを目の前にかざして、それを防ぐ。


 カカカカカカン! カン! カン!


 思ったより軽い音を立てて、弾丸が地面に落ちた。ビームペネトレーターの筐体に弾かれたのだ。ビームペネトレーターには傷一つ入っておらず、それが彩子の焦りを倍増させた。同じサイメタル同士なら、こうはならないはずなのに。

 その戸惑いの瞬間を、ふいに湧いてでた隙を、黒少女は見逃さない。ビームペネトレーターを構えると問答無用でビームをぶっ放し、彩子の右腕を吹き飛ばした。サブマシンガンが、まるで昔のビデオゲームのポリゴン爆発のように砕け散る。もちろんそれだけでは済むまい。彩子はのけぞったまま背中から倒れ込んだ。

 この場合、どうなるのだろう? 彼女の生身の右腕は、どうなってしまうのだろうか?


「おのれ!」


 腹筋を使って跳ね起きる彩子。脩太はその右腕に注目する。

 先ほどサブマシンガンを出したときとは逆再生のビデオのように、彼女の生身の右腕が、空間から染み出すように現れ始めていた。生身の部分もろとも吹き飛ばされたわけではないことに、脩太は正直安堵した……が、さすがに無傷とはいかないらしく、手首が変な方向に曲がっている。

 彩子は、威勢はそのままに、やや右手をかばうようなポーズで黒少女に対峙した。本当はかなり痛いはずだ。それでも戦いを止めない心意気は、自ら沸き立つものだろうか? それとも、生徒会副会長という役職が、彼女に撤退を許さないのだろうか?


「別に格闘戦をするでなし! 互いの飛び道具が一門ずつになっただけだ!」


 そうだった。今までの彩子は、両腕とも銃器に変態していたのだ。

 対する黒少女は左腕のビームペネトレーターのみ。一門同士になった今こそ、対等な戦いと言えなくも……ないかも知れないが、それは黒少女が片腕にしか武装を持たないという希望的観測に基づいている。

 ともかく、彩子に停戦の意思はないようだ。左腕のエナジーボム・ショットガンがあればまだいける、という自負もあるのだろう。


 二人の戦いは仕切り直しとなった――束の間のクールダウン。

 最高潮の熱気から解放され、脩太は車窓に気を留める余裕を持った。

 そして、外の景色を見た途端に青ざめて、再び余裕を放り投げた。

 バレットライナーが、いつの間にか二號学区の都市部にまで進行していたのだ。見上げんばかりのビルが林立するコンクリートジャングルを、列車は狙い澄ました弾丸のように一直線に駆け抜けている。

 そして脩太はさらなる違和感を覚えた。


「一度も駅に停まってないぞ……」


 バレットライナーには、二號学区内だけで三つの停車駅がある。しかしまだ一つも停車していないはずだ。いくらドンパチやっていたからといって、駅に停まったならさすがに気付くだろう。周囲のビル群の様相からいっても、ここはすでに二號学区の中心地だと思われる。つまり、おそらく次が終着駅の『形代中央駅』だ。しかしこの雰囲気だと、そこにも「停車」しないような気がする……。

 嫌な予感があふれ出し、思考の行き場を無くした脩太は、救いを求めて黒少女を見た。黒少女も、脩太が至った結論にすでに到達しているようで、大きくうなずいてくれた。とりあえず親指を立てて「グッジョブ!」と賛辞する脩太であった。

 そんな脩太のサムズアップを見て、何をどう判断したのか、黒少女は脩太の親指(サム)をギュッと握ると、天井の大穴を抜けて屋根の上へとジャンプした。


「いだだだだだだだだ! もげる! 僕のサムがもげる!」


 客車の屋根の上に立つと、状況は思った以上に深刻だった。時速三〇〇キロの強風を気にしている場合ではないと思い知らされた。

 列車の進行方向、そのはるか先に終着駅が見えているのだ。残りのルートが直線だからとはいえ、これは近い!

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