表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイオニックレミー  作者: 堀幸司 - holycozy - 
最終章『エゴイスト』
42/43

第07話 戦場の跡にて

 新校舎の天守閣――その中央会議室で一部始終を観戦していた栞会長は、その最期の咆吼が鳴り止むと落ち着いた調子で席を立った。


「結果的に、バイオニックG7の成長を手助けしてしまった――そういう認識でいいかしら? 矢倉イビシャ殿」

「……残念ながら」

「フッ……顔が残念がっていませんよ。まるで面白いゲームが始まったとでも言いたげな――まぁ、いいでしょう。バイオニックG7の戦いぶりの中で、いくつか面白いものが観られたのも確かです。今回はその奮闘を称えてさしあげるとしましょう」

「それがよろしいかと」

「規律を乱した彩子の粛正については、あなたに一任します。好きにするといい」

「かしこまりました」


 イビシャがうやうやしく頭を下げる。


「さて、メル子――下校しますよ」

「はい、栞会長」


 もはやバイオニックへの関心を失った――そう言わんばかりにあっさりと退室する栞会長を見送りながら、イビシャは歓びをこらえきれずにいた。

 これは面白くなる。ことの流れ次第では、生徒会が根幹からゆらぐだろう――と。


        × × ×


 『決戦』が沈黙して三〇分後。

 事前の規定に従い、二號教育委員会とスクールメーカーそれぞれの検証チームが、学園内に立ち入って調査を始めた。粘土寺剣とバイオニックG7が共に「勝ちどき」をあげなかったため、相討ちの可能性があるからだ。

 現場には、地区行政のトップや、スクールメーカーのスポンサーである主要企業の役員たちも訪れ、一種異様な緊張感を生み出していた。戦士たちは己の誇りを懸けていたが、その戦いも所詮は、世の中のシステムに組み込まれた歯車に過ぎないことを、この光景が雄弁に物語っている。

 全壊したプール棟に張られた規制線の外側で、心配そうに見つめているのはイエティーだ。そのそばには東京から戻ってきたばかりの大槻先生の姿もあった。


「佐菜子たち、大丈夫でしょうか……?」

「便りがないのは無事な証拠と言いますが、正直なところ、今回ばかりは私にもわかりません……ただ、弾クンとレミーの本当の戦いはこれから始まるのだと、そういう予感がしています」

「大槻先生は、弾三十八博士の遺言をお読みになったのでしょう?」

「はい――スクールメーカー宛てに遺されたものは読ませていただきました。その遺志に従って、私は弾脩太クンのサポート役に立候補したのです。ですが、弾クン自身に何が託されていたのかは、私も詳しくは存じ上げません。いつの日か彼の口から直接聞くもよし、このまま永遠に知らないままでいるのもよしと思っています。山千家クンの立場ともなれば、その内容も知っていたのでしょう?」

「はい。おそらくそれを知っているのは、世に一〇人といないはずです。でも大槻先生、その内容は多分、先生が想像していらっしゃるとおりのものだと思いますよ」

「――そうですか。それは茨の道ですねえ……弾博士は、何と酷なことをなさるのか。それとも、そんな選択肢しか与えなかった神様が酷なのですかねえ。私は無神論者ですが、神様にはひと言申し上げたい気分です」


『下がってください! 負傷者を搬出します! 下がってください!』


 プール棟の中から、ストレッチャーに乗せられたケガ人が運び出されてきた。

 それは大槻先生とイエティーの前を通り過ぎようとしたが、当のケガ人が「ちょっと待ってくれや!」と制したので救急隊員もあわててストップする。

 大槻博士とイエティーは、そのケガ人の顔を覗き込んだ。


「ずいぶんと派手にやられましたねえ、粘土寺剣クン。きみとは敵対関係にありますが、私の教え子であることには変わりありません。無事に帰還したことを嬉しく思いますよ。本当によかった」

「よせよ、柄でもねえ。だいたい俺がそう簡単に死ぬわけねえだろ? 死んだら人類の損失だろ? なかなか死なせてもらうわけにはいかねえんだよ。色男のつらいところだな。それよりバイオニックG7はどうなった? 弾脩太は?」

「まさにそれをきみに訊ねようと思っていたのですが」

「そうか――俺は、バイオニックG7の何とかブルマってのに焼かれたような気がするんだが、そこで記憶がプッツリなんだ。そんで気付いたら、目の前にあんたが見えたってわけさ」

「なるほど。きみにそこまでのダメージを与えるとは、レミーは相当レベルアップしたようですね」

「ああ。もう不意打ちぐらいしか、あいつを倒す方法が思い浮かばねえぜ」

「ははは……ケガが治っても、そういうのはナシにしてくださいね。きみの力は、生徒会で使うよりも、生粋の番長でいるほうが活きるような気がします。どうでしょう、これからは全国の学区を巡って『番長破り』でもしてみては?」

「ちょっと大槻先生!」


 イエティーがあわてて大槻先生の袖を引っ張った。

 だが、大槻先生と粘土寺剣のニヤニヤは止まらない。


「『番長破り』かァ――世界最強の番長を決めるってわけだな。悪くねえ。ケガを治すモチベーションが高まったぜ、ありがとよ」


 そう言うと、粘土寺剣は片手を上げて出発進行のポーズをとる。

 ストレッチャーが再び動き出し、粘土寺剣は救急車で病院へと搬送されていった。


「大槻先生、番長っていうシステムは海外にもあるんですか?」

「いやあ、私は日本国内のつもりで言ったのですが……さて、困りましたね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ