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バイオニックレミー  作者: 堀幸司 - holycozy - 
第一章 『黒いJK』
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第03話 謎のセーラー服①

「今のは、ビームペネトレーターかっ!?」

 叫びながら彩子は、光の棒が車両に空けた大穴に駆け寄った。車体の形状も窓ガラスの位置も全て無視した大きな穴だ。彼女が外を見るや「ぬぅ!」と唸ってサブマシンガンを構えたとき、再び、太陽よりも眩しい光が迫った。


 ドドドドドドドォォォッ!!!!


 同じように轟音が響きわたり、客車はもう一度ビームの串刺しをくらう。それをすんでのところで避けた彩子が、列車のすぐ外にいるらしい襲撃者に向かって吠えている。そして脩太を指さしながら、こんなことも叫んだ。


「正気か!? この車内には生身の人間もいるんだぞ!」


 彩子が脩太の身を案じるとは!

 脩太は思わず「え?」と言葉を漏らしてしまった。だが彩子の憤怒は収まらない。


「あいつめ、人の命を何だと思ってる!」

「言われたくないよ! きみみたいな人に!」

「ハハハハハ! レッテルだな!」


 快活に高笑いする彩子。穴だらけでボロボロの客車内とは真逆に、彼女はみなぎっている、たぎっている、興奮を隠せないでいる。

 そうこうする間にも、ビームは次々に撃ち込まれた。一つ、また一つと客車の土手っ腹に大穴が空けられると、さすがに車内では、時速三〇〇キロの勢いで強風が吹き荒れ始めた。

 脩太は、襲撃者の姿を一目見たいと、もはや窓枠すら残っていない車窓にすがりついた。不用意に立ち上がれば、ビームペネトレーターとかいう極太ビームに焼かれかねない。襲撃者は生徒会の敵らしいが、だからと言って脩太の味方とは限らないのだ。窓ガラスの破片で、手のひらを切ってしまったものの、こんな状況では想定内――脩太は何とか外の様子を垣間見ることが出来た。


「あれが?」


 あれが襲撃者? あれが曽祖父のノートPCに記されていた者?

 あれが、か――!!


 脩太は目の前の光景に絶句した。

 黒いセーラー服の少女が、時速三〇〇キロで疾走するバレットライナーと並んで走っていたからだ。

 何より自分の足で。

 長い黒髪と、セーラー服の真っ赤なスカーフを、激しく風にはためかせながら。

 彼女の左腕には、副会長・能満別彩子の銃器よりも二~三まわりは大きな「砲」が生えていた。彼女の体躯と比べていささか大きすぎるようにも思えるが、まともに振り回すことが出来るのだろうか? だが疾走する彼女の表情は涼しげだ。


「間違いない……彼女が、そうなんだ」


 まっすぐに脩太を見据える彼女の赤い瞳が、力強くうなずいたように見えた。

 次の瞬間、彼女は走りながら腰をひねると、「砲」ことビームペネトレーターを撃った。


 ドドドドドドドォォォッ!!!!


 彼女のアイコンタクトに一瞬遅れた脩太は、強引にエビ反り体勢をとることで、何とか焼かれずに済んだが、背後に立っていた彩子に背中からぶつかる形となってしまう。


「あっ、すみません」


 さっきまで――あるいは今も!――自分を殺そうとしていた相手に「すみません」も何もないとは思うが、ぶつけられた彩子は彩子で「お、おぅ」と返す。何とも「コミュ(りょく)」が試される状況だ。


 そのときである。

 脩太と彩子のすぐそばを、一陣の疾風が駆け上がった。


「えっ!?」


 客車は、先ほどから壁や天井にいくつもの穴を空けられていたものだから、四方八方からの強風には事欠かなかったが、今の風だけはあきらかに質が違った。かまいたちでも呼びそうな、そんな鋭さが備わっていた。


 彩子が「ハッ!? やつは!?」と窓ガラスのない車窓の外を見やる、と同時にサブマシンガンの照準を合わせたが、その先に彼女の姿はない。


 一瞬の間をおいて、バンッ! と何かが客車の屋根の上に落ちてきた。

 もし「彼女」だとすれば重きに過ぎる気もするが、だからと言って、今、客車の上に現れるのが何なのか、他に想像がつかない。

 確認は不要とばかりに、彩子が天井に向かって連射する。彩子のサブマシンガンは、フルオートで毎分六〇〇発の弾丸を発射可能だ。弾痕が直径一メートルほどの円を描くように撃ち放つと、射貫かれた天井が落とし蓋のように落下した。

 はたして、落ちてきたのは天井だけではなかった。

 そこには襲撃者である彼女が立っていた。黒いセーラー服の少女である。

 バランスよく天井ごと落ちてきた彼女は、まるで即席のサプライズステージに立つアイドルのようでもあった。


「貴様だな! ここしばらく学園の怪談になっている黒いセーラー服は!」

「…………」


 黒いセーラー服の少女――黒少女は何も言わない。

 その瞬間、あたりに七色の光が満ちあふれると、列車の走行音が消えた。

 時の流れが無限に遅くなったような感覚を覚える。


 バレットライナーが、いよいよバブリスの表面である『拒絶の地平面リジェクト・ホライズン』を突破しようとしているのだ。


 拒絶の地平面は、外部からの観測では厚さ二メートル弱であることがわかっている。バレットライナーなら、わずか〇.〇二四秒で通過する計算になり、実際そのとおりの時間が測定されているのだが、サイメタルを実装した者の場合のみ、その体感時間は異なる。

 およそ三〇秒。

 本来なら、時計の秒針が一度も動かぬその瞬間を、サイメタルたちは「三〇秒はかかった」と認識するのだ。

 現に今も、脩太の時間だけが凍り付き、彩子と黒少女の二人は同じ時間の流れを共有している。

 じりじりと間合いを詰める彩子と黒少女。


「ふむ……やはり貴様の装備もサイメタルなのだな。多少、風変わりではあるが」


 黒少女のビームペネトレーターが、拒絶の地平面に突入しても壊れないのを見て、彩子はそんな感想をもらした。普通に考えればそうだろう。そのために進歩を遂げてきたのがサイメタルなのだから。


「――――!?」


 だがここで、彩子は不思議な光景に気付いた。

 あたりに満ちていた七色の光が、次々と黒少女の身体に吸い込まれていくのだ。

 そもそも、拒絶の地平面で観測される光が何なのかは明らかにされていない。あくまで「三〇秒の時の狭間」に迷い込んだサイメタルだけが見るものだ。そういう意味では、夢や幻に近いものだと考えていい。ところがどうだ、七色の光と黒少女は明らかに干渉しあっている。だとしたら、吸い込まれた光はどうなるというのか?


「貴様……!?」


 どういうことだ? これは何を意味している?

 彩子の脳内に疑問符だけを残して、体感の三〇秒が経過した。時間は元の姿を取り戻し、脩太の意識も再び動きだした――あくまで、サイメタル視点からの相対的な出来事だが。


 時間の復帰後も、黒少女を呆然と見ていた彩子だが、脩太に不審な顔で見られていることに気付くと、あわてて取り繕う。


「とにかく! 弾脩太! テロリストによる二號学区への侵攻は排除させてもらう。今の拒絶の地平面が交渉のデッドラインだ!」

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