第06話 決闘という名のギグ
オレンジ色のギターピックが、激しく弦を爪弾く。
ギャィーーーーン!!
「俺は、ライバルたちから奪ったギターピックで、あいつらのサイメタル能力を再現出来るのさ!」
粘土寺のエレキギターがサウンドを放つたび、周囲の地面に、直径五〇センチほどの凹みが現れた。その数は次々と増えていく。
ボン! ボン! ボン!
形状はクレーターに似ているが、隕石が落ちてきているわけではない。目には見えない杭のようなものが、激しく地面に打ち付けているのだ。もしもこの直撃を喰らったら、頭から強引に潰されてしまうのだろうか?
「フハハハハハ! 首振れよ!! ヘッド・バンギングだ!!」
ボン! ボン! ボン!
あくまでランダムに、校庭のそこかしこに、直径五〇センチの刻印が刻まれていく。落下のパターンが読めないぶん、これはいささか厄介な相手かも知れない。
だがここで、脩太は疑問に思った。これが粘土寺のサイメタル能力なら、はじめからレミーなり脩太なりを潰せばいいのではないか。それをしないということは、どういうことなのだろうか。
元々は他人のサイメタル能力なので、うまくコントロールが出来ないのか?
それとも、ただ単に、脩太とレミーを翻弄して遊んでいるのか?
もしも理由が前者なら、何も恐れることはない。今すぐ攻撃に転じて、粘土寺を倒してしまえばいい。
同じことを考えたのだろう。レミーがビームペネトレーターの照準を粘土寺に定める。
トリガーを引くレミーの眼光が鋭くなるのと同時に、正面にたたずむ粘土寺の目は笑った。
ドドドッ! 三点バーストで弩弓針が発射された。
ボボボン!!
ほぼ同時に、粘土寺の眼前に見えない杭が落ちてきて、見えない防御壁を作った。ビームペネトレーターの弩弓針がそこであえなく砕け散る。
どうやら正解は後者だ――粘土寺は、脩太とレミーを弄んでいるらしい。まるでネズミを追い立てて遊ぶ猫のように。
「俺は「楽しんだ者勝ち」って言葉が大好きでなあ――バイオニックG7! てめえの戦法はいちいち堅っ苦しいんだよ! セルビットの頭脳はその程度か!? 弾博士も形なしだな!!」
「あ?」
そのとき、レミーのジト眼がギラリと光った。
正直言って、かなりイラッとした。
能満別彩子といい粘土寺剣といい、生徒会の役員たちは、レミーをイラッとさせる天才かも知れない。
「ビームペネトレーター、ラピッドモード」
かなりイラッとしたレミーは容赦がない。
通常の三点バーストモードが、連続して三本の弩弓針を発射するのに対して、ラピッドモードはエンドレスで際限なく撃ち続ける。敵を蜂の巣にするどころか、原子の一つ一つを焼き尽くすまで撃ち込むことも不可能ではない。
もちろん、相応の負荷がレミーの肉体にかかるのだが、彼女の怒りの沸点は依然としてマッキンリー並みに低かった。
粘土寺に向かって一気に駆け出すレミー。
相変わらず走るのが速い。瞬く間に粘土寺の懐に飛び込んで――。
「うかつだ! レミー!」
「まったくだぜえ!」
ボゴォォォォォッ!!
突如、超重量級の大杭がレミーの真上に降ってきた。それは直径一〇メートルほどのクレーターとなって彼女を押し潰すと、一瞬にしてその身体をかき消してしまった。
そんな使い方も出来るのか!? ――と脩太は驚いたが、今までのサイズがブラフだったのかも知れない。
「レミーーーッ!!」
脩太は危険を顧みず、いや、危険そのものを忘れてレミーの元へ駆け寄る。
はたしてレミーの姿はあった。完全に地面に埋め込まれ、まるで発掘を待つ化石のような姿でうめいている。
そのうめき声を聞いて、脩太は直感的に「やばい!」と察した。
粘土寺の戦術は、最初からきちんと組み立てられていたのだ。そう、ストーム・ザ・スネイクの段階から。
ストーム・ザ・スネイクでレミーの表面にダメージを与え、次にこのヘッド・バンギングで内部をボロボロにする。セルビットという、いわば極小の積み木細工のようなレミーの身体を破壊するには、シンプルながらも有効な手段と言わざるを得ない。
このまま放置しておくと、取り返しのつかないことになる。
「おい、どきな、弾脩太」
いつの間にか粘土寺がすぐ後ろに立っていた。
だめだ、レミーを破壊させるわけにはいかない。
「あなたの勝ちだ。もういいでしょう、雌雄は決したんだ」
「てめえなあ……そうなりゃ、そこで潰れてるバイオニックG7は生徒会の備品になるんだぜえ。ヘタレなこと言ってんじゃねえよ」
そのとき、足もとからレミーのか細い声が聞こえた。
「しゅ……うた、大丈夫……一時的な…………回復中……」
息も絶え絶えだが、レミーが言いたいことは何となく伝わる。
「ほれみろ、G7はまだまだヤル気だぜえ」
そう言いながら粘土寺は、レミーのセーラー服の襟元をわっしとつかむと、彼女の身体を地面からベリベリと剥がしていく。
「ん?……てめえ、やっぱずいぶん重てえな。何でだ?」
しかし、持ち上げられたレミーは、すでに意識を失っていた。
「フン……寝たか。だったら水でも被って出直してこいってな――オラよッ!」
粘土寺はいとも簡単に、軽々と、レミーの身体をぽーいと放り投げた。シンプルな放物線を描いて飛んだその身体は、新校舎の外れにある屋内プール棟の天井ガラスを豪快に突き破って落ちていった。




