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バイオニックレミー  作者: 堀幸司 - holycozy - 
第一章 『黒いJK』
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第02話 初めてのバトル

 脩太は反論しなかった。

 正直なところ、反論するだけの論拠が自分の中になかった。

 脩太が答えに窮したのを見て、彩子が満足げに微笑む。


「さて、貴様にとって、ここはすでに敵地なわけだがどう切り開く? それとも、昼行灯を装って、このままやりすごすか?」

「何もしないわけにはいきません。僕には、会わなきゃならない人がいるんです」

「フン、浅いな。だがそれもよし。我ら生徒会にたてつく気概があったとはうれしい誤算だ――」


 だしぬけに列車が長いトンネルを抜けた。

 収縮していた車体が、バンッ! と膨らむ感触とともに、車両の両脇に並んだ窓から一斉に陽の光が差し込む。

 漆黒の暗闇から、白亜のきらめきに。

 その一瞬の転換が、戦いのゴング代わりだった。


「――では行くぞ、弾脩太!」


 言うや、能満別彩子は右手を前に突き出し、指鉄砲のポーズをとる。

 間髪を入れず、彼女の腕を取り巻くように無数の光粒子が現れ、それらが瞬時に結合すると多数のポリゴンを形成した。そしてそれは、すぐさまマシンガンの形状になると、指鉄砲を構えた彼女の前腕部と置き換わる。その一連の過程を見ていなければ、まるで切り落とされた腕の代わりに、マシンガンが生えたように見えることだろう。

 彩子のサイメタルは、戦闘用である。

 サブマシンガン、通称『シルエットフィンガー』。

 身も心も戦闘モードになった彩子に、脩太の命を慮るようなゆるさはなかった。まるでその精神までも銃器になったかのような冷徹、そして冷酷が脩太を襲う。

 彩子が予告なくそのトリガーを引くと、三点バーストで弾丸が繰り出された。狙うは脩太の心臓――だが、その発砲の刹那、脩太もまたアクションを起こしていた。

 すでに学ランの右ポケットに手を突っ込んでいた脩太は、キウイ・フルーツくらいの玉を取り出すと、勢いそのままに客車の床へ投げつける。

 まるで派手めな「かんしゃく玉」のように火薬が炸裂し、脩太の周りに銀色の紙吹雪が舞う。

 その金属めいた輝きに、彩子はその正体をすぐに見破った。


電波欺瞞紙(チャフ)か!!」


 脩太の心臓を狙ったはずの弾丸は、まるで空間が歪曲したかのように弾道をそれると、それぞれ客車内の壁や天井に着弾した。

 脩太の紙吹雪。それは、サイメタルそのものを薄く伸ばした(はく)を、一定の大きさに切り刻んだものだった。つまり『電波欺瞞紙(チャフ)』である。通常の弾丸に対しては何の役にも立たない紙吹雪だが、サイメタル製の弾丸なら話は別だ。干渉しあう互いのサイメタルが、文字どおり自分を見失うのである。だから弾丸は脩太からそれた。

 ただし、このサイメタル・チャフにも難点はある。それは既存のチャフと同様に「あらかじめ、相手に応じたサイズや形状で切り刻んでおく必要がある」ということだ。つまり脩太は、この旅路で敵対する相手として副会長・能満別彩子が現れることを想定し、そのサイメタルの特性データを手に入れていたということになる。


「忍者か貴様! やけにポケットがふくらんでいるなとは思ったが!」


 彩子はサブマシンガンをあらためて脩太にむける。


「弾脩太、他に何を仕込んできた?」

「引き出してみればいいでしょう!」


 チャフ作戦の思わぬ成功に一番驚いていた脩太は、強気に舞い上がったテンションで叫ぶ。

 怒りの形相で彩子が二射目を撃とうとすると、脩太は再びチャフ玉を床に投げつけた。しかしその二射目はフェイントだった。すぐさま三射目が放たれると知るや、防御が間に合わないことを悟った脩太は座席の背もたれの陰に飛び込んだ。


「フン……通用するのは、一つのネタに一度だけだ。他に何を仕込んできた? ポケットの中身は大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない」


 というのは強がりで、もちろん問題ありありである。むしろ問題しかない。

 曽祖父のノートPCに記録されていた、生徒会メンバーのサイメタル仕様――なぜそんなデータが入っていたのか知る由もないが――を見て、さっきのチャフ玉を作ったのが昨夜のこと。もしもの保険として準備しておいたが、しょせんは相手の出鼻をくじくだけの代物だ。この圧倒的不利を覆せるわけもない。

 よくよく考えたら、相手を怒らせただけで、余計不利になったんじゃないかとさえ思える。

 結局のところ、脩太自身に強い力がない以上、勝つという目はないのだ。


「座席の背もたれで震えたままか? それでやりすごせるとは貴様も思っていないはず。そろそろバブリスの表面だ。『拒絶の地平面リジェクト・ホライズン』を越える前に、私が屠ってやろう」


 そう言うと、彩子は生身のままの左腕を前に突き出した。力強くグーに握られた手は、何かを決意したかのように硬く固まっている。右腕のサブマシンガンのときと同じように、光の粒子が舞い、多数のポリゴンが形成されると、今度は、やや大ぶりな筒状の銃器が完成した。

 エナジーボム・ショットガン、通称『サイレントノヴァ』。

 彩子は、エナジーボムの射出口を、脩太が隠れている座席の背もたれに向けた。

 チュィィィン――静かだが、どこか耳障りなチャージ音が響く。


「そんなステンレスの背もたれ、こいつのエネルギー量が相手では紙装甲だぞ」

「問題……ないッ」と呻いた脩太の言葉に真実はあるのか。


 エナジーボム・ショットガンのチャージ音がピークに達すると、紫色のスパークを帯びた光弾が飛び出した。サイメタルの質量をエネルギーに転換したエナジーボムである。

 エナジーボムは、通常の弾丸より初速が遅い――しかし、人間の反射神経でどうにかなる代物でもない。射線上に座席の背もたれがある以上、その裏側にいる脩太ごと焼き尽くしてしまうのは決定事項である。

 今さら対処のしようもない。助かる道は一つだけ――それは。


 ドドドドドドドォォォッ!!


 突然、左側の車窓が目映くなったと思うや、轟音とともに、緋色に輝く「光の棒」が客車を串刺しにした。

 それはちょうど彩子と脩太の中間地点、そして彩子が放ったエナジーボムと激突する軌跡を描いていた。


「「何だ!?」」


 そう叫んだのは彩子であり脩太でもあった。だしぬけに起こった出鱈目な展開に、二人ともまともなリアクションが取れないでいる。そうするうちに、車体を貫いていた光の棒が、反対側へと抜けていった。

 そこで初めて、今のが極太のビーム体だったことを悟る。

 そして戦い慣れの差が出たのか、さきに我を取り戻したのは彩子のほうだった。

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