表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイオニックレミー  作者: 堀幸司 - holycozy - 
第四章『イエティーの帰還』
25/43

第05話 ジオグラフ・フィックス

 小型拳銃SMデリンジャーで飛行船を即時墜とせるかと言えば、答えはノーだろう。

 しかし佐菜子には勝算がある。

 もちろん、大槻先生から預かっている教員ロッカーの鍵を使い、そこに隠してある狙撃用ライフルを取ってくる――というのも一つの手だろう。だがそれでは遅い。彼ら空挺部隊に次なる戦術を張り巡らせる猶予を与えてしまう。それでは駄目なのだ。


 ならば、どうするのか?


 答えは彼女が所持する端末画面にあった。

 マップ上を急速に近づく赤い光点。

 それは弾脩太の学生服に仕込まれた座標発信装置。

 その接近速度は時速一二〇キロ。あきらかに人間のポテンシャルを超えている。

 ということは、つまり……。


 ダンンッッ!!


 走り幅跳びの世界王者が新記録を出したときのように、黒いセーラー服少女が着地した。


 どこに? ――屋上のど真ん中に。

 どこから? ――少なくとも、全員の視界の外から。


 その衝撃は凄まじく、レミーの両足はふくらはぎまでコンクリートにめり込んでいた。

 レミーの背中におぶさっていた脩太は、速攻でそこから飛び退くと、ノートPCを開いて周囲の三点を見比べる。


 そう、三点を。

 粘土寺剣を。

 山千家茶子を。

 白銀の飛行船団を。

 そして叫んだ。


「敵はどいつだ!」

「スクールメーカーの飛行船よ!」佐菜子が間髪入れずに空を指差す。

「わかった! レミー!」


 脩太がノートPCを操作する。システム『カゼオトメ』を起動。


観測開始オブザベーション・スターティング』と電子音声が響き渡った。


 まさか、レミーの真の力を発揮する最初の相手がスクールメーカーになろうとは、誰も予想出来なかっただろう。おそらくはレミーを作った弾博士でさえも。

 レミーは、めり込んだコンクリートから抜け出すと、右の手のひらを天に掲げて叫んだ。


「ジオグラフ・フィックス!」


 レミーの周囲に七色の光粒子が発生し、彼女の身体に次々と吸い込まれていく。その数は無限であるかのごとく空間に満ちあふれ、奔流が尽きることはない。

 美しいレミーの黒髪は、虹色の輝きを持つ光ファイバーのような光沢を帯び、セーラー服のスカーフや赤いラインはそれ自体がきらめく鮮やかさをまとう。

 サイメタルのエネルギー量とは別次元のパワー。これまでバイオニックについて語られてきた「都市伝説」のどれもが「真実」であったのだと知らしめるに十分な姿。

 そこに光があり、光の中からバイオニックG7は誕生する。


観測完了オブザベーション・カンファームド


 電子音声が変身の正常終了を宣言したとき、そこに立っていたのは、レミーであってレミーではない何者かであった。


 それが『バイオニックレミー』だ。


 バイオニックレミーは人造人間である。

 六〇兆個の人工細胞セルビットの集合特性を利用し、

 人間の形を模すことで誕生する新生命体である。


 そのポテンシャルは全てのサイメタルを遥かに凌駕し、

 最大二六種類の武装を同時展開しながら、

 一〇の一二乗倍の高次元エネルギーを、我々人類が認識する四次元時空に展開出来る。


 その力は膨大。可能性は無限。

 彼女は今、生まれたての子供のように不確かな存在でありながら、

 それでいて力強い、最初の一歩を確かに踏み出した。


 レミーの観測完了オブザベーション・カンファームドと同時に、脩太の余命カウントダウンがノートPCで開始される。その減少スピードは予想よりもずっと速く、脩太は一瞬だが、そこから先へ進むことにためらいを見せた。


 それでも――。


「武装展開だ! レミー!」

「了解!」


 いまだ目映い輝きをまとうレミーが、上体を大きくひねる。


「シークレット・スカーレット!」


 その言霊をきっかけに、緋色に輝く光粒子たちが現れ、彼女を照らしながら周囲を旋回する。そして瞬時に結合して多数の欠片を形成すると、脈動する輝きがその激しさを増していった。


「ビームペネトレーター!」


 叫びながらレミーが左腕を前方に突き出した。光の欠片たちは一斉にそれを追いかけ、彼女の前腕部に集結して『重粒子弩弓針(ビームペネトレーター)』を構成する。

 まさに瞬時の出来事である。

 レミーは、上空に浮かぶ白銀の飛行船に照準を合わせると、宣言なしで即、発射した。

 質量兵器とエネルギー兵器の特性を兼ね備えた、直径三センチ×長さ五〇センチの弩弓針。それが三本連続で――三点バーストで、飛行船の気嚢をぶち破る。

 この飛行船の気嚢は、安全性確保のために三六分割されており、そのうちのいくつかが破られても、ただちに墜落することはない。ただし、破損による船体形状の変化が、周囲の空気との乱流を生み、機動性が大きく損なわれることだけは確かだ。

 ビームペネトレーターに狙われている以上、もはや、空挺中隊一〇五番が作戦遂行することは叶わないのだが、問題は彼らがいつ撤退するかである。職業軍人ではないスクールメーカーの武人たちは、そのぶん、戦闘にロマンを求めがちであった。そしてそれが脳内の妄想であるとわかっていながら、最後には特攻を仕掛けたりもするのだ。

 あたら命を散らすなかれ。

 レミーは三隻の飛行船のゴンドラ部分――そのコクピットに弩弓針を一本ずつ撃ち込んだ。

 それは「殺ろうと思えばいつでも殺れるのだ」という無言の宣言。

 必殺のプレッシャー。

 すなわち戦闘の強制終了。

 上空にしばらくとどまっていた三隻の飛行船は、すみやかに転進を始めると、一斉に学園の空域から離脱を開始する。その速度はぐんぐんと増し、やがて彼らの姿は雲の白さにかき消されて見えなくなっていった。

 目下の危機を回避した一同はホッと胸をなで下ろし、笑顔で互いの労をねぎらう。

 特に脩太は、自分の余命がどれだけ削られたのか悟られぬように、その笑顔も不必要なほどに晴れやかだった。

 そんな中、粘土寺剣だけは厳しい表情を隠せないでいる。バイオニックの性能が噂に違わぬものだったからだ。

 一般論として、どんなシステムでもそうだが、世間にうたわれている性能はあくまで理論最大値であり、現実に運用した場合の実測値とはギャップがあるものだ。ひどい場合は、話半分にも満たないことさえある。サイメタルも、その性能は「当人のイマジネーションが完全無欠だった場合」の想定値であり、現実には六~七割あれば上出来と見積もっておくほうが無難だ。

 しかし、たった今、粘土寺が目撃したバイオニックの性能は違った。一二〇%の力を出していたのではないだろうか? 目映い光に包まれていたせいで「豪華に見えた」という贔屓目も多少はあるだろう。しかし、やはり「想像を超えていた」ことは認めざるを得ない。


「それにしても……」と粘土寺はかぶりを振る。


 山千家茶子、千歳佐菜子、そしてバイオニックG7と、まさに最強の三人ではないか。

 知力・体力はもちろんのこと、戦いの勘というものを彼女たちは身につけている。それは天賦の才であり、後天的な修練でなかなか追いつけるものではない。


「女傑三人ありか……いや、こういう呼びかたはもう古いのかもしれんが」


 粘土寺としては、気の利いたことを言ったつもりだったが、


「女傑って……あなた歳いくつ?」と茶子があきれ、

「もしかして昭和生まれなんじゃないの」と佐菜子がつっこみ、

「ああ、何だ、卑猥な言葉じゃないのか」となぜかレミーが残念そうに言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ