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創作  作者: ゆず
8/8

第8話 柚子の決意

扉を開ける。

中に入り、扉を閉める。

木製の部屋。

とても広いとは言えないが、狭くもない。

机に椅子、寝心地のいいベッド。

それからタンス。

今の、僕の部屋。

窓から見える景色は住宅街ではなく、緑の自然とにぎやかな街並み。

できるなら、ずっとここにいたい。


『柚子!』

「っ!?」


慌てて振り向く。

けどそこには、扉が1つあるだけだった。

…ずっとここにいたい。

だけど、それはきっと皆に迷惑をかけるだけ。

早く帰ったほうがいいのだろう。

帰る方法、探さなきゃ。



<青坏side>

氷華が酷い言葉を柚子に投げかけ、柚子も部屋に戻ってしまった。

今バーにいるのは僕とスイレンだけだ。

僕はもう一度座り直し、ため息をついて前髪をかき上げる。


「どうしたもんかなぁ…」

「なにも、氷華だけが悪いわけではないでしょう」


冷静にスイレンが言う。

その言葉に僕は疑問符を浮かべた。

あれはどこからどう見ても氷華が悪いだろう。


「え、いやいやいや。あれのどこに柚子の悪気要素があったのさ」

「柚子は何も悪くないとは思いますよ。けど、状況的に氷華のあの問いは妥当です。最後の一言は余計でしたが。」


そう言われると氷華も悪くない気もしてきた。

けど、それでは柚子が不憫ではなかろうか。

そもそも、なぜ柚子はこの世界のことを知らないのか。


「なあ、スイレンは知らないの?なぜ柚子がこの世界のことを知らないのか」

「さあ。私にはさっぱり。」


冷徹に言ってのけるスイレンに、少しイライラしてくる。

それを誤魔化すようにふと時計を見る。

夕飯まではまだ時間がある。

少し仮眠をとろうと自分も部屋に戻った。

部屋のドアを閉める際、バーのドアが開いた音がした。

恐らくスイレンが出ていったんだろう。

僕はベッドに身を投げて目を瞑った。

…あれ、スイレンってドア開けなくても魔法で帰れるはずじゃ、




「…んんっ」


段々と霧が晴れるように目が覚める。

窓から差し込む光が異様に眩しい。

窓を見ると太陽はほとんど傾いており、太陽の光が一番強い時間だった。


「やばっ、夕飯!」


慌てて下に降りていく。

冷蔵庫を開け、今日のメニューを決める。

今日はオムカレーにでもしようかな。

そう思いつき、早速カレーを作っていく。

具材を煮詰め、スパイスで味をつける。

カレーができあがり、次はオムライスを作っていく。

といっても中の米はただの白米にするため、卵を乗せるだけなのだが。

といた卵をフライパンに入れ、ぐるぐると回す。

固まってきたらくるくると箸を回し、出来上がった卵を皿に乗せた米の上に乗せる。

ドレス・ド・オムライスというやつだ。

そこにカレーをかけ、パセリを少しのせる。


「よし、こんなもんだな。」


夕飯が出来上がったところでバーの扉が鈴の音を鳴らして開く。

入ってきたのはスイレンだった。


「丁度みたいですね」

「相変わらずな。」


4人分の夕飯ができあがり、上にいるであろう柚子と氷華を呼ぶ。

氷華はゲーム片手に降りてきたが柚子が一向に降りてこなかった。

不思議に思い柚子の部屋に呼びに行くことにした。

柚子の部屋の扉をコンコンコンとノックする。


「柚子〜夕飯できたよ〜」

「…」

「…柚子?」


開けるよ〜と一言声をかけてから扉を開ける。

そこで僕は驚きの現場を目にした。

これを伝えるべく、慌てて下に降りていく。


「やばいやばいやばい!!」

「何、うるさいなぁ」


氷華に文句を言われるが僕の焦りは落ち着かなかった。


「柚子がいないんだ!!」



<柚子side>


「はぁはぁはぁ…」


真っ白な息が吐き出される。

何度も、何度も僕の口から。

さっきからずっと走っている。

僕が帰る方法を探すために。

僕が、あの3人に迷惑をかけない方法を。

街の人たちに聞いたり、土を掘り起こしたり何だりとしていたせいで泥だらけだ。

もう日が暮れてきた。

帰る?……どこに?

自問自答を繰り返していると真っ黒な人影が僕にかかった。

顔を上げると自分より少し身長が高い男3人がこちらを向いて立っていた。


「…なんでしょう」

「女がこんなところで一人、いけねぇなぁ」


今僕がいる場所は人気のない場所だ。

ふむ。確かにこんなところで一人はまずいかもしれない。


「ご丁寧にありがとう御座います。街の方に移動しますね。」

「あ?いかせるわけねぇだろ」


別の男が僕の腕をつかむ。

咄嗟に振り払おうとしたが、力が強すぎて取れない。

それを見て男3人はニタニタと笑っている。


「…離してくれません?」

「あ〜無理無理w」

「今日はいいおもちゃが手に入ったな〜w」


…こいつらどうしてやろうか。

いっそのこと男のあの急所を蹴り上げてやろうか。

コイツラを撃退する方法を考えていると聞いたことのある声が聞こえてきた。


「あんたら、そいつに手出さないほうがいいよ」


声の方を見ると、そこにいたのは氷華だった。

女ということもあってか、男たちはまだ余裕の表情だ。

なんなら尚喜んでいる。


「あ〜?女に何言われてもなぁ〜。」

「か弱そうな女だな〜」

「いや、あんたら馬鹿すぎでしょ」


ニタニタと気持ち悪く言う男たちに、氷華は冷たく言い放った。

その言葉に男たちは口を止める。

いや、口どころか表情も止まってるか、これは。

そこに弾丸のごとく氷華は言葉を投げつけた。


「そいつ、青色の一員だよ?青色の噂は聞いてるっしょ?青色の奴ら怒らせたら、いくらあんたらだろうと瞬殺っしょ」


"青色"という単語が出た途端、男たちの顔が青く染まっていった。

僕の手をつかむ力も緩くなっている。

恐る恐る、と言った様子でこちらを見る男。


「ほ、本当か…?」

「え?あぁ、うん、まぁ。住まわせてもらってるしそういうことになるのかな…?」


そう言うと男たちの顔は益々青くなっていった。

そしてあくまで僕の手を掴んだまま、謎の会議をしだした。


「おい、まずいぞどうする?」

「いや、まだバレてないはず…」

「バレるのなんて時間の問題だろ!」

「ならいっそ、こいつをおとりにするとか…」

「そうだ、それだ!」


…いや、全部丸聞こえなんだけど。

僕をおとりにするということで意見がまとまったらしく、緩くなっていた僕の手を掴む力がまた強くなった。


「なら、こいつがおとりだ!こいつに無事でいてほしいんなら、金を持ってくるんだな!ありったけの!!」


そういう男にも氷華は一切驚いていない様子だった。

なんならため息をついて、耳元の丸い装置を起動させる。

氷華の能力道具だ。

起動すると、口元にマイクが伸びてくる。

さらに、機械から氷華の目の上まで線のようなものが伸びてきたと思ったら、そこから下に薄く青い3Dメガネのようなものが現れた。

氷華は何もないところでタイピングするかのように手を動かした。

数分して、氷華は驚きの言葉を口にした。


「あんたら、○〆会社の社員さんなんだ。しかもそこまで成績良くないし。このことチクったらクビにされるんだろうな〜」


今度は氷華がいたずらっぽい笑みを浮かべる。

その言葉に男達の顔はまた真っ青になる。

さらに氷華は口を開いた。


「住所は…へぇ、☆地区かぁ。一丁目。結構山の方に家あるんだね。しかも3人とも近所。昔馴染みってとこ?」


男たちはどんどん顔を青くしていく。

氷華は楽しそうに笑っている。


「観念したほうがいいんじゃない?もうあんたらに勝ち目ないっしょ。」

「いや!まだこいつがいれば!」

「そいつがいれば…なんだって?」


男たちが粘ろうとしたところで、後ろから声がした。

聞き馴染みのある声。

男たちは恐る恐る後ろを振り返った。

そこにいたのは青坏とスイレンだった。


「その手、離してもらおうか」

「言うことを聞かないならどうなるか…わかっていますよね?」


ものすごい圧を二人がかける。

男たちの足がガクガク震えていて面白い。

その時、僕の腕を掴んでいる男がハッとしたように急に強く腕を掴んで自分の方に引き寄せた。

いや、待って待って待って?近いんだけど?

ソーシャルディスタンス?


「ぉ、おおおおい!いいのか!?今俺らに手を出せば、こいつは…!」

「別に、君の手から柚子を取り戻すなんて簡単だけど」


声が上ずりながら反抗した男に、青坏が冷めた眼差しを送る。

そこでもう全て無理だと悟ったのか、男たちはおとなしくなった。




「柚子!大丈夫!?」


解放され、最初に言われたのがこれだった。

別に、皆に迷惑をかけるつもりはなかった。

ただ…ただ、皆に迷惑かけずに帰る方法を探したくて。

それだけだったのに、結果、迷惑をかけてしまった。


「…ごめんなさい」

「はぁ?」

「迷惑かけないようにって、1人で行動したのに…結果迷惑かけた」


僕は青坏たちに頭を下げた。

青坏は混乱しているようだった。

スイレンと氷華は表情が変わらず、感情が読めない。

けどきっと怒っているのだろう。

そう思ってた。

やがて、青坏がため息をついた。


「とりあえず、青色に帰ろう。夕飯冷めちゃうよ」


いつも通りの明るい青坏でそう言った。

こうして、またしても一旦青色に戻ることになった。




静かな夕飯の時を過ごす。

最後に氷華が食べ終わり、氷華が上に戻ろうとしたのを遮るように青坏が急に手を叩いた。

いきなりすぎて、僕も氷華も肩がビクッとなってしまった。

青坏は上に戻ろうとした氷華に視線を送りつつ、口を開いた。


「氷華、席に着け」

「は?あーしゲームしたいんだけど」

「いいから。飯作んないよ?」

「…チッ」


渋々、といった様子で氷華は椅子に戻った。

といっても、ゲームをしながらだが。

青坏は次に、座りっぱなしの僕の方を向いた。


「柚子。まとめると、今回は僕らに迷惑をかけたくなくて一人行動したってことでいい?」

「…うん」


青坏にそう問われ、僕は申し訳なく思いながら頷く。

あぁ、今からきっと怒られるのだろう。

そう思っていたけれど、青坏の口から出た言葉は優しいものだった。


「まずはじめに、この世界は治安が悪い。無力な女の子が一人で歩くほうが危ない。」

「…うん」

「それに、僕らは柚子のこと、迷惑だなんて思ってない」

「…え?」


思わず顔を上げる。

すると、目の前にいた青坏と目が合った。

気まずくてすぐに目をそらす。

青坏は続けた。


「柚子がここに来て帰れなくなったのは不可抗力!柚子は何も悪くないんだし、ここは何でも屋の青色でもある。申し訳ないと思うなら、依頼だと思えばいい。とにかく、気にしなくていいの。」


青坏は喋りながら冷蔵庫に向かい、あるものを取り出して僕の前に置いた。

真っ白な、ショートケーキだった。


「帰る方法が見つかるまで、僕らは仲間だ。僕らは能力道具も持ってるし、スイレンに至っては創造神の遣いだ。きっと力になれる。だから僕らのことは…いや、この場所のことは、家だと思ってくれればいい。僕らは歓迎するよ。」


…あぁ、僕は酷いやつだ。

青坏はこう言ってくれてるのに、まだ疑ってしまう。

本当に?と。

それを確認するように、後ろを振り返った。

振り返った先にいたスイレンは、いつもより少し柔らかい表情で頷いてくれた。

…氷華の方は向けなかった。


「…いいの?」

「勿論。むしろ、何も知らず力も持ってない女の子をこの危ない世界に放つ方が酷いやつだよ。」


今の僕にとって、青坏の言葉はとても嬉しかった。

…そっか、頼っていいんだ。

しみじみとそう僕が思っていると、青坏は次に氷華の法を向いた。


「そして氷華。昼の氷華の疑問は当然だとは思うけれど、最後の一言は余計だよ」

「本音言っただけっし」

「その一言のせいで、柚子はいらぬ心配をしたんだ。氷華は柚子に謝るべき。」

「はあ?なんであーしが…」


青坏が氷華に説教じみたことをする。

しかし、氷華にはあまり効き目がないようで、氷華はぐずっている。

僕はとある決意をして立ち上がった。

そして氷華の方に真っ直ぐ歩いていく。


「氷華」

「は?なんであんたがあーしのこと呼び捨て…」

「僕は氷華にとって、邪魔な存在かもしれない」


氷華の言葉を遮り、真っ直ぐに言葉をぶつける。

そう、2人が許してくれても氷華は許さないかもしれない。

認めないかもしれない。

それでも…


「けど、僕はここにいる。皆に助けてもらうし、できることがあるならする。」

「…」

「なるべく早く帰れるように頑張る。だから、早くいなくなってほしいなら尚更、僕に協力してほしい」


僕はそう言って氷華に頭を下げた。

氷華は真っ直ぐにこっちを見る。

けど、ため息をついて立ち上がった。


「バカバカしい」


そう言ってまた上に戻っていってしまった。

そんな氷華を見て、青坏は強く拳を握りしめ、表情を険しくしていった。


「氷華!」

「いいよ、青」


僕は青坏の方を見てそういった。

青坏は鳩が豆鉄砲を食らったようにポカンとした。

そう、あとは氷華次第。

僕の気持ちは伝えた。

氷華に僕の手伝いを無理強いする権利は、僕にはない。

だからこれでいい。

そう思うとなんだかスッキリしてきた。

僕はさっきより足取り軽く、元の席へと戻った。


「さ〜ってと、ショートケーキた〜べよ!」

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