5話 バー青色
ねぇ
ねぇねぇ
目、覚ましてよ
「…ん?」
頭に直接響くような声
その声に起こされて僕は目を開けた。
そこは、真っ白な空間
木も家具も何もない、ただ白くて広い空間が広がっていた。
そこに僕は寝ていた。
勢いよく上半身を起こす。
あれ…僕はいつの間にこんなところにいたんだろう。
「あ、やっと起きた!」
「…?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ふと上から声がして見てみると、そこには白く光る何かがあった。
人の形をしているようだが…人…なのか…?
人の形をした白い光は続けて話した。
「ねぇねぇ、今、楽しい?」
「い、今…?」
「そ、今。創作の中に入って過ごしてる今」
そう言われてハッと思い出す。
そうだった。僕は突然自分の創作の世界に入ってしまって…
青坏のバー兼家についてそこの一室を借りて…そこで…
そこで僕は気づく
「これ…夢?」
「ん?あぁ、そうだよ」
白い光はさも当たり前だというように返事をした。
そして先ほどの質問をもう一度。
「で、どうなの?楽しいの?」
「楽しいわけ無いだろ!急に別世界だとかに来させられて、帰る方法も無くて」
「え〜。でも、君がそう望んだんじゃん」
不満だというように白い光はそう言ってくる。
確かに望みはしたが、本当に創作の世界に入れるだなんて考える人はただの頭おかぐらいだろう。
はぁ…と一つため息をつくと、でも…と白い光はまた口を開いた。
「いずれ馴染むよ。馴染んだときこそ…事件はつきものだけどね」
「は…?それどういう…」
「あらら。もう時間が来ちゃった」
白い光の言葉について聞こうとすると、そんな言葉遮られてしまった。
時間が来た、そういうと目の前の人の形をした白い光はより一層眩しくなる。
「それじゃ、また会おうよ」
「ちょ、待って…!」
「…ん?」
白い光とは一転
目の前に広がるのは茶色の天井
木の良い香りがする部屋
僕の部屋じゃない
ここは…
「…あぁ」
青坏の家の一室だ。
突然だが、僕の身体の適応力を褒めてほしい。
何の違和感もなく伸びをしベッドを降りる。
当たり前のように顔を洗って着替えをする。
ちなみに着替えといっても勿論服を持ってきているわけではないので、スイレンがコピーの服を作ってくれたのだ。
そしてバー…この建物で言うと一階にあるバーに行く。
一階は食べ物の良い香りで満ちていた。
カウンターを見ると皿の上に目玉焼きが乗った食パンや、レタス、リンゴなどが乗っていた。
目をキラキラさせてそれを見ていると、裏から青坏が出てきた。
「お、思ってたより起きるの早いね」
「ね、ねぇ…これって…」
「あぁ、朝ごはん。食べていいよ」
心のなかでわーい!とバンザイをし、席につく。
手を合わせていただきますをし、まずは食パンにかじりつく。
そして皿の横においてあるフォークを使ってサラダを食べて、最後にリンゴを食べる。
さすが店をやっているだけあり、青坏の作った朝ごはんはめちゃくちゃ美味しかった。
すっかり食べ終わってごちそうさまをする。
「お粗末様でした〜。あ、そういやそろそろあの2人も来る頃だと思うよ」
「あ、そうなの!?」
あの2人、とは勿論スイレンと氷華のことである。
僕は青坏からそのことを聞いた直後、急いで地下に降りた。
青坏の家は地下が水場、一階がバー、2階が青坏の部屋、3,4階が適当な空き部屋なんだそうだ。
僕はその3階を今使わせてもらっている。
水場に降りた僕は青坏から貰った新品の歯ブラシで歯磨きをした。
僕が上に上がるとほぼ同時にバーの扉が開いた。
カランカランと控えめな音が鳴る。
「らっしゃ〜い」
「おはようございます。青、そして柚子」
「うぃ〜っす」
スイレンと氷華が続いて入ってくる。
これで昨日のメンツは揃ったということだ。
少しの雑談を交えてから早速本題に入る。
「そうそう、柚子のことなんだけど」
先に口を開いたのはまさかの青坏だった。
スイレンが先に話すと思っていたので僕的には驚きである。
「どうせ帰れないならうちの手伝いしてかない?帰るヒントも得られると思うんだ」
「手伝いって…バーでしょ?僕未成年だよ?」
「実は、青の仕事はそれだけではないのです」
青坏の提案に僕が疑問な点をぶつけた後、スイレンがそう口を開いた。
僕はどういうことかと聞き返す。
「バー青色には裏メニューがある」
すると答えたのは、スイレンでも青坏でもなく氷華だった。
またしても僕は聞き返した。
「まぁ、いうならば何でも屋かな。色んな依頼を解決するっていう裏メニューがあるんだよね」
やっと当の本人である青坏が説明をした。
依頼を受ける時間帯は通常のバーと同じ。
とある注文方法で注文すると裏メニューを注文できるんだとか。
「その注文方法って?」
「青色特性青色カクテルを赤色で」
僕の質問に青坏は簡潔に答える。
確かに、そんな注文をする人は一般客にはいないだろう。
僕は納得した。
「今から早速その依頼の一つをこなしてくるんだけど、柚子も来る?」
「まぁ、ここにいても暇だしね」
そうして四人でその依頼へと向かうことになった。
少しでも帰るヒントがあるといいな