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第五話


  帝塚山 雅


 俺のクラスの女王であり、俺が孤独に学校を過ごすことになった元凶。少しは俺が要因になった可能性もわずかばかりあるかもしれない(らしい)がほとんどこいつのせいだ。そいつが今回の俺の患者だとは。だが今回は逆にチャンスだ 。帝塚山雅の情報を集めるにおいて俺が目の敵にされている何かわかるかもしれない。そして原因さえわかれば、対処は簡単だ。


 今回の症例は幻覚症状。クラスの女王様は何かしらの幻影を見ているらしい。だが何の幻影かわからない。


 そういう曖昧な症状を持っている患者にこそ俺の持つ不便かつこういう時には役に立つ感性がある。俺は豊かな感受性を持っている。感受性でどうやって彼女しか見えない幻影の正体を特定するのかと思うだろう。俺の感受性は人と共感するにとどまらない。まあ簡単に言えば俺にもその幻影が見えるようになるってだけだ。


 前回の二人の傷である左手の不随と背中の癒えない傷。それらは事件が解決し、彼女らの傷が消えるまでこの俺の体にも発症していた。それは彼女の心の奥にある秘密を知り、そこに感受性が働いてしまったからだ。


 今回の場合、患者の治癒にはこの感受性がカギになってくる。彼女のある程度の情報を知り心の中を丸裸にしてその幻影の正体を明らかにしてやろう。そうして仕事が完了したならその流れでクラスにかかっている俺への戒厳令を解いてもらうことにしよう。



 そうしてまだ学園生活が続くことに感謝し、その学園生活がより豊かになる可能性を見据えながら鼻歌交じり人浴槽絵と行くご機嫌な俺だった。



            * * * * * * * * 


「で、なんで君たちはここにいるんだ」


「わ、私推理小説が好きで結構個人的にも事件を追っていたりしてるんです。謎を解いていくとか、隠された過去を探るとか、そういう系好きなんです。同じ学校の人ならなおさら気になります」


と家族と親友のために自分の家に火をつけるという名探偵顔負けの計画を実行した少女は言った。そして


「あんたと小夜を2人きりには出来ないでしょ。」


と、来栖さんが呟いた。


 今、俺たちは授業が終わって放課後だ。そして患者の情報を集めるために動いている。つまりは帝塚山雅の後をつけている。ストーキングをしている。しかも三人で。もともとはいつものように俺一人でやるつもりだった、が患者の情報収集のために来栖有栖と嵐山小夜にそれとなく聞いてみると


「なんでそんなこと聞くの?」


と、当たり前のことを聞き返されてしまった。だがこんなとこでうろたえる俺ではない。こんなことでいちいち動揺してたら情報を集めるなんてできない。前回でもこういう場合に備えて用意していた答えが何個かある。それを答えたはずだが、なぜか二人はこの場所にいる。



 だが、彼女たちは俺の仕事姿と内容をもう知っている状態にある。そうなると俺の昨日と今日の立場の変化と急にそんな質問をしてしまえば異変に気付き、それを俺の仕事に繋げるのは難しくないだろう。


 こんなことは以前にはなかった。なぜなら俺は一定の学校に在籍し続けたことがないからだ。こういう場合に備えての準備はしていない。勘違いしているかもしていないが俺は頭がいいわけではないし、勘がいいというわけでもない。

 俺は頭で次に起こるであろうことを予測しそれに対して完璧に準備しているというだけだ。もちろん、想定していないことが起こった場合にそれに対処することはできないし、俺は特に予想外の事に弱い。


 つまり、この状態でどうするのが正解なのかわからなかった。2人を帰らせるのがいいのだろうか。だがそれで彼女たちが不満を持ってこのことを広めでもしたら、俺の行動範囲は限りなく狭くなる。そうなると依頼失敗が浮かび始める。それだけは阻止したい。そんな考えが頭に浮かんであまり強く言えなかった。



 そんなわけで三人でのストーキングになったのだ。危険すぎるし無謀すぎる。でもどうすることもできない。もうこのことを考えるのはよそう。今は目の前のことに集中しよう。こんな見つかるリスクを背負っているのに何も得られませんでしたじゃもったいない。



「一回話したけど、もう一回言っておこう。俺についてくるのはいい。でも邪魔だけはしてくれるな。これはフリなんかじゃない。彼女の治療のためだ。彼女は人知れず苦しんでいるかもしれない。」


と、ちょっと脅し気味でいうと


「もちろんです。私もその被害者の一人だったんですから気持ちはわかります。一刻も早く解放してあげましょう」


「本当に彼女がそういう症状を負っているの?結構、精神的にもタフそうに見えるけど」


と、それぞれから返ってくる。


「この場合の精神的なタフさっていうのはあまり関係ない。どれだけ精神的強者でも傷つくには傷つくんだ。そもそも俺は心において強弱の論争は存在しないと思っている。心が強いという人間は負の感情をあまり表に出さなというだけだ。効いてないわけではなく、積み重なっておりその積み重ねの限界の線が高いということが精神的に強いということだと俺は思う。さらに、そういう強者の方が治療は手間取ったりする。彼らは自分ですらその症状に気づいていない、あるいはその原因である出来事、積み重ねている負の感情すら自覚していない可能性があるんだから」


という話をすると来栖さんが


「いや、さすがにそういう心に強く残る出来事とかは残るんじゃないの?だってそれをなかったことにしてしまったらその症状が出ていることが自体が矛盾してしまうじゃない。」


「だから、心と体は別のものじゃないんだって。その出来事を忘れるっていうのは体が勝手に心を保護するためにしているだけで、心は何かしらの傷は残ったままってことなんだ。しかもその原因を本人は知らないと来てる。そうなるとほぼお手上げ状態さ」


と、俺は両手を挙げてジェスチャーをする。


「そういうことが以前にもあったんですか?」


と、今日は金髪をポニーテールにしている嵐山さんが聞いてくる。


「あったよ、過去に一回だけ。・・・それも解決したけど」


「ふーん」


「・・・・」


急に静かになっていしまった。そんな何とも言えない空気を変えるため


「だからついてくるも、いつ帰るのも自由だからあまり目立つような行動はできるだけ避けるようにしてくれ」


と、警告だけしておいた。返事はなかったかが、大体のことはわかったようだ。これで聞かないようなら俺の判断が間違っていたということだ。それよりも、今はこっちに集中しなくては。





         * * * * * * * * *



 女王様はいま、同じクラスの仲間たち8人と一緒に帰っているところだ。多いな。だがあれだけ引き連れていれば見失うということもないだろう。その8人はそれぞれ見たことがある。あれは俺のクラスの中心人物たちだ。いつも休み時間を共に過ごしていて授業中も先生と気軽に話している。彼らが女王の手下ということか。


「一緒にいるあいつらって内部生?有名だったりする?」


と、俺よりも情報を持っているであろう2人に聞いてみた。そうすると


「いや、内部生ではないと思うわ。でも有名っちゃ有名ね。主に夜遊びで」


「夜遊び?」


「いや、大人がやってるようなんじゃなくって、夜遅くまで一緒にカラオケとか行ってるとかそういうことの方の意味の夜遊びね」


「噂によると学校からも直接注意されていて、この前、あの背のでかい人が補導されたそうです」


「ふーん、つまりは内部生が主力っていうんじゃなくて、外部生も取り入れたうえでの強権でそれを使って夜な夜な遊んでいるわけか」


 なるほど。これが女王たる所以か。付き合いの年数すら関係なく人を取り込んでしまうカリスマ性。だが俺には彼女がそんな強引で独裁的な人には見えなかった。どちらかというとむしろ逆だな。

 だがそこで異様に後ろを警戒しすぎている来栖さんが言った。



「ほんとに彼女が幻覚なんて見ていると思う?今のところ怪しい動きはないけど」


「いや、幻覚などの症状を見るとしたらこれから。彼女はああ見えたとおり精神力が強いとみるべき。だからそういった心の傷関連は彼女が一人の時、しかも誰にも知られないところでの可能性が高い。と、いうことですよね」


「そう、嵐山さんの言うとおり。センスあるよ。彼女は仲間たち、いや仲間でさえない者の前でもそういうそぶりを見せることはないだろう。だからこうやって隠れて追っているわけだが・・・」


 俺が次の言葉を言う前に彼女たちが動いた。彼女たちは学校を出てから45分程度ここの公園で駄弁り続けていた。そして次はどこへ行くのだろうか。八人全員でぞろぞろと移動を開始した。



 そして着いたのはゲームセンターだった。そのゲームセンターは俺たちの学校の近くにあって徒歩でも15分程度しないうちに着くことがことがことができる。そこへ全員入っていった。俺たちはというと外で待つことにした。理由は複数あるが一番はあまり顔を見られたくないからだ。そもそもそのゲームセンターは広々としている。それがゆえに視界がクリアなのだ。このまま入ってしまうと万が一があると判断した。別に一回程度見つかってしまってもいつものように無視されて終わるだろうが、この先のことを考えるとあまりリスクは取りたくない。だから俺たちは少し離れたところからゲームセンターの入り口を3時間程度眺め続けることになった。



 自体が動くのはとてつもなくゆっくりだった。俺がこのポイントにきて2時間程度経過した時、入り口からあの8人の中にいたと思われる半分の人が出てきた。だが彼女はいない。まだ中だろう。ちなみにこの時点で推理好きの少女とその助手は「あの子が出てきたら電話で呼んで」と、最近開いた店のアイスクリームを食べに行った。俺は別にキレることはなくそのまま見送った。なぜなら初めて友達と連絡先を交換してご機嫌だったからだ。やっぱり連絡先っていうのは多ければ多いほど良いんもんだ。早く連絡したい気持ちを抑えて見張りを続けることもう1時間。


 やっと残りの4人組が出入り口から出てきた。俺は待ってましたと言わんばかりにすぐに来栖さんへ電話して、後を追った。その4人組はどこへ行くでもなくゲームセンターの駐車場で再び駄弁り始めた。そしてそこから再び動くのに45分ほどかかった。どんだけだよ。もうしゃべることねぇだろ。早く帰れよ。別にこれでしばらく会えないとかじゃないだろ?明日普通に朝早くから顔を合わすことになるんだよ?もういいだろ。門限守れよ。もう九時前なんだが。

 俺はイライラするとともにそんなに友達と何についてしゃべっているのか気になり始めていた。そうしている間にアイスクリーム探偵たちが合流して来た。


「やっと出てきたわね。待ちくたびれたわ」


「もうそろそろ眠くなってきました」


何てことを平然と言う。が、それに俺は先ほどのイライラを抑えて


「これからだけど、もう限界なら帰ってもいいよ。多分あいつらは今日これで終わらない」


といった。そしたら


「まだ遊び足りないっていうの?こっちの追う側の身にもなれっての」


「こんなところであきらめるなんて探偵の名折れです。ぜひ最後までいさしてください。


と、やる気満々の返事だ。まあ、やる気があるならいいか。俺も一人は寂しいし。そんな感じで彼らが動くのを30分待った。




 次の彼女らの遊び場はボーリング場だった。それもあまり遠くにない場所にある。こう見ると俺の学校って遊ぶ場所ってたくさんあるんだな。そこに4人で入っていった。そのボーリング場の前まで来た俺たちは


「私たちはどうする?」


と聞いてきたのでもちろん


「やる!」




                * * * * * * * 



 そんなわけで俺は新しくできた友達とボーリングを楽しみながら張り込みを続けることにした。幸いにもお互いにかち合うということにはならず22時45分を超えたところであの4人が出ていったので俺たちも少し間を開けて出ることにした。ちなみにボーリングはめっちゃ面白かった。実力は拮抗していたし、初めてやるスポーツだったので新鮮だった。でも最終的なスコアでは来栖さんに負けてしまった。名探偵の方は迫りきる睡魔に勝てず途中で眠ってしまったが。


 彼女たちはやっと満足したのかバラバラに帰っていった。運がよかった。そうじゃないとこの目立つ嵐山さんをおぶった来栖さんを見られることになっていたかもしれないから。これでは名探偵の名は折れてしまっただろう。



 さて、ここからが本番だ。彼女が一人になるということは隠された心が発露する可能性があるということ。その瞬間を見逃すわけにはいかない。俺は静かに彼女の背中を静かに追うことにした。そしてその後ろから眠りの名探偵を背負ったワトソンがついてきた。切実に帰ってほしい・・・。



そのあとのことはというと一言で片づけられてしまう。


何もなかった。


そう。本当に何もなかった。あの後女王はそのまま家へ帰り再び家から出ることなく学校の時間になってしまった。家で発症している可能性もあったが性格的にその線は薄いと結論づけている。じゃあなぜ何もなかったのか。なぜ来栖さんでさえも途中で帰った時間もずっと張り込んでいたのにも関わらず何もなかったのか。おそらく昨日ではなかったということだ。症状が出る人は常時出る人とインターバルを挟む人がいる。今回は後者だったというわけだ。つまり、この張り込みは女王の症状を目撃できるまで続けなければならない。これで結局、家で症状が出ていましたなどとなったら、その事実が発覚する前に俺は高校生ながら過労死してしまうだろう。勘弁してもらいたい。




 だがそんな悲劇は起こらなかった。あの後の三日間、すべて誰かしらが集まって遊んでいたが、4日目にしてついにそれぞれの予定が合わなかったのか誰とも遊ぶことなくそのまま帰っていった。そしてさらに家に帰った彼女を張り込みし続けているとその日の深夜25時前に女王が一人で何かを持って家を出ていくのを見た。



 その時の俺は1人だった。この3日間来栖さんたちは欠かさずついいてきていたが4日目はどうしても外せない用事とやらで来れなかったらしい。そんなときに限って事態が動くのは少しラッキーだった。ここからは少し寂しいが1人での方がやりやすい。



 深夜に家を出てきた帝塚山さんはそのままどこによるということはなくそのまま近くの公園へと入っていった。そして誰からの目にも映る通り奇怪な行動をし始めた。何かに話しかけている。始まったか?俺は目と耳を凝らしてよーく観察する。何をしゃべっているかは距離的に少し聞こえないが、目を凝らしてみるとだんだんその相手の像が結び始めた。



「あれは・・・犬?」






              * * * * * * * *



 

 そして昨日の今日の放課後、前回はいなかった二人といつものように帝塚山さんの張り込みを続けていた俺は彼女たちに昨日見たことをそれとなく伝えてみた。


「犬、ですか」

「犬、ねぇ」


どちらともぴんとしていなかった。といっても俺も少しぼやけていて100パーセントあれが犬だったとは言えないが。だが動物だったのは間違いない。


「彼女の心に犬が関係しているということでしょうか。」


「その可能性が高いけど断言はできない。しかもそれは本当にただの犬なのかもしれない。俺だけでなく、君たちにも見えているのならそれはただの野良犬だ」


「ていうか、それが逆に本当に犬の幻影だとしたらなんであんたは見えてるのよ。当人以外には見えないはずでしょ」


と、少し痛いところをついてくる。これは俺の持つ異質の感性の話になってしまうので


「それは俺がこういうことを専門としているプロだからさ」


ということにした。その答えで満足はしなくとも納得ぐらいはしてくれたようだ。そこで


「俺が持つ帝塚山さんの情報に犬の関係することはなかったと思う。何か知っている人―」



「「・・・・・」」


沈黙だった。俺は犬に関係する話を探すところからか、と長くなりそうなことにうんざりしていると来栖さんが


「でも、犬に特定しなかったらなくもないわよ。帝塚山さんって人格者って噂じゃない?だから人だけじゃなくて動物にも優しいっていうのが一時期広まったわね。帝塚山家は拾った捨て猫であふれかえっているだとか、どんな凶暴な猫でも帝塚山さんに合わせると嘘のようにおとなしくなってしまうだとか」


「そんな根の葉もない噂を事実としてしまえそうなところが彼女の恐ろしいところですね」


「まあでも、症状は見ることはできた。これを今日君たちに確認してもらって後はある程度の情報さえ集めれば何とかなるかな。今、必要な情報は二つ。彼女が見ている幻影がなぜ犬になのか、そしてなぜそんな幻影を見ることになったのか、だ。この際君たちにも協力してもらうことにしよう。君たち二人は犬の件を俺はあの子の過去について追ってみる」


と、ダメもとで言うと二人は


「任せておきなさい」

「頑張ります」


と目を輝かせてやる気満々だった。ならそっちの件はあの2人に任せて俺はあの子の過去を探るとしよう。


              * * * * * * * *



そしてその日の深夜



「い、犬?どこ?本当にあそこにいるの?」



と来栖さんが言ってくれたおかげで帝塚山さんの症状が犬の幻影で確定したのだった


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