表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

Seasons / シーズンズ

2. 撮

作者: 高橋知秋

 大学生の頃に入ったサークルで知り合って、それから今まで付き合ってる悪友みたいな奴らがいて。AとNって言うんですけど。いまも一ヵ月に一度ぐらい連絡取ったり飲んだりする感じで。俗に言う腐れ縁ってやつですかね。


 で、大学生の頃は大して真面目ではない…まあ今でも真面目ではないかもしれませんけれども。ははは。でもまあ、今よりもっと真面目じゃなくて。典型的なバカ大学生でしたね、三人とも。

 サークルの部室には一応顔を出すんだけど、全然活動はしてなくて。授業サボってドライブ行ったり、河川敷で酒飲みながら朝まで花火やったり…すごい量の花火を買い込んだんですよ。コンビニで。それを全部、一晩のうちに全部やる、って言って。バカでしょ?そしたら朝までかかっちゃって。そんな感じで単位を落としかける勢いで毎日毎日三人で遊び惚けてました。懐かしい。


 それであれは…二年の夏休みですね。よく覚えてる。大学二年ってことは…だいたい二十年ぐらい前の話かな。


 いつもの三人で、俺の家で宅飲みをしようぜ、って話になって。

 その時に、Nがビデオカメラを買ったから持って行く、それで宅飲みしながら適当な映像を撮って遊ぼう、って言い出したんです。

 お前そんなもんどこで買ったの?って訊いたら、近所のあの店だよ、って言って。あの店っていうのが…当時Nが住んでたアパートの近くに、小さなリサイクルショップがあって。あそこは穴場だってNがいつも言ってたんですけど、実際に値段は安いし品揃えも結構よかったんですよね。俺もそこでアイロンとか、ラジカセとか、そういうちょっとした家電とか家具を買ったことがあって。

 その店の新入荷コーナーを見てたら、すごく良い値段でビデオカメラがあったんで、ちょうどバイトの給料も入ったところだったし、「面白そうだから買おう」ってなって半ば衝動買いみたいな形で買った、らしいんですよ。それで俺らも、おう、面白そうだから持って来い、なんて言って。


 で、その日の夜になって、俺の家の最寄り駅に三人で集合して、途中のコンビニで酒とつまみを買い込んで。あー、その時にテープも買いました。当時はコンビニにもビデオカメラ用の生DVテープが売ってたんですよ。それで買い物終わって家に着いて、ひとまず乾杯をして…。

 それで…一本目のビールを半分ぐらい飲んだ時だったかな。Nが持ってたリュックの中からビデオカメラを出したんですよ。じゃじゃーん、今日の主役でーす、なんて言って。早速なんか撮ってみよう、って話になって。

 それで、コンビニで酒と一緒に買ってきた生テープを出して、これこのカメラに使えんのかな~?なんてAと話してたら、後ろでカメラの準備をしてたNが「あれ?」って言い出して。「中にテープが入りっぱなしになってる」って言うんです。生テープを入れようとして、テープを入れるところの蓋を開けたら、既にテープが入ってた、っていう。Nは買ってから今日までまだこのカメラを使ったことがないって言ってて、じゃあこのカメラを前に持ってた人のテープだ、ってなって。

 まあ三人が全員バカ大学生だったもんで、もしかしたらエロい映像でも入ってんじゃない!?みたいな、わけのわからないテンションになっちゃって。酒も入ってましたしね。いまからみんなでこのテープ見てみようぜ!ってなって。Nが「中身はみんなと一緒に見るまでのお楽しみだから!」とか言いながら、映像を見ないようにしてカメラを操作してテープをアタマまで巻き戻して、それでカメラとテレビを繋いで、…再生してみたんです。


 そしたら、テレビに映ったのは家族のホームビデオでした。


 お父さんとお母さんがいて、子供が二人いて…男の子ふたりの兄弟でしたね。それでおじいちゃんとおばあちゃんもいて。映像の感じはちょっと古くて、九十年代前半ぐらいに見えたかな。たぶん旅行先で撮った映像で、撮ってる途中でテープを変えたんだと思うんですけど、遊園地で撮ったっぽい映像が、割と唐突な感じで始まりました。

「イヤラしい奴じゃなかったか~!」

「なんか変な期待してたの恥ずかしいわ!」

 とか言いながら、でもなんか懐かしい感じだね、なんて話になって。酒のつまみにも丁度良かったので、皆でビールを飲みながらだらだら見てたんですよね。きれいな海が映ったり、家族みんなで楽しそうにご飯食べてたり、って感じのほのぼのとした家族旅行の映像が続いてて。画質は当然良くないんですけど、それがまたなんか懐かしい感じというか。

 エロを期待していた気持ちはすっかり浄化…というか、そういう感じで…こういうのもいいねえ、なんて言って、それぞれ自分ちの家族旅行の思い出なんか話したりして、こう、見てたんですよ。


 …映像を見続けて20分ぐらい経った頃かな。Aが急に言ったんです。

「…これ、誰が撮ってんの?」

 って。


 Aは…まあバカ大学生なんですけど、それでも地頭が良いというか、結構なんか冴えてるところがあって。人より早くおかしいことや間違っているところに気付くような奴なんですよ。間違い探しが得意なタイプというか。ドライブ中も道を間違えていることにすぐ気づく。だからいつもドライブで地図係を任されてたんですけど。


「え、どういうこと?」

 って訊いたら、Aが

「いや、さっきからこれ見てるけどさ、なんかちょっと違和感があって、なんだろうって思ったら、…今まさにそうなんだけど、お父さんとお母さんがいるだろ、兄弟がいるだろ、おじいちゃんとおばあちゃんがいるだろ、だったらこれは誰が撮ってるんだろう?って思って」

 って画面を指差しながら説明するんです。

 それで俺が

「例えばさあ、カメラに映りたがらない思春期の息子とかがもう一人いて、そいつがカメラ係をやってるんじゃないの?」

 って反論したんですよ。実際俺が中学生のころ、家族のホームビデオに映るのが何となく嫌で、旅行に行った時にカメラ係をやったことがあったんですよね。そういうんじゃないかって思って。

 そしたらAは

「いや、それも考えたけど違うと思う。誰も撮影してる人に話しかけないんだよ。ずっと。これ撮ってるのが家族だったら普通…ほら、食べ物食べてるときなんかに、なんとかちゃんも食べなさい、って話しかけたりするだろ?普通。そういうのが一切無いんだよ」

 って言い出して。

「それが気になってさっきからずっと見てたんだけど、カメラに向かってポーズをしたりはするんだけど、誰も撮影してる人に話しかけないのこいつら。兄弟までだよ?見てよこの弟。四歳か五歳ぐらいでしょ?普通さ、これくらいの子供って家族がカメラ構えてたらなんか話しかけたり物を差し出したりするじゃん。そういうの一切無いんだよ。なんかおかしいよこれ…」

 …みたいなことを説明しだしたんですよ。


 Aがそんな風にシリアスに言うもんだからみんな少し怖くなってきちゃって。それで三人で静かに見てたんですけど、確かにAの言う通り、家族が全員映ってる上に、誰も撮影者に対して話しかけないんですよ。たまにカメラに向かって笑顔を作って見せたり、ピースサインを出したりとかはするのに。

 カメラマンかなんかを雇ったのかなー、とも思ったんですけど、どう見てもそんな金持ちっぽい家族じゃないんですよね。しかも家族が車に乗り込むところを撮った映像があったんですけど、そこで映ったナンバープレートが所謂”わ”ナンバーで。

「レンタカーだったね…」

 ってNがぼそっと言うんですよ。つまりこの家族、たぶんだけど車持ってないんですよ。車も持ってない家族がカメラマンを雇うって…ちょっと不自然じゃないですか。やっぱり。


 何とも言えない気持ちで映像を見てたら、…お父さんとお母さんと、あとおじいちゃんが旅館の部屋でビールを飲んでるところがあった…のかな。うーん、その間に何か別の映像入ってたかな~。その後が強烈すぎて、ちょっとその前の映像がどんな感じだったのかは曖昧なんですけど。

 ともかく、そういう映像のあとに画面が急に暗くなって。さすがに全員「ん?」とか「え?」って声が出ましたね。テレビが暗くなった瞬間に部屋の空気もなんか急に変わって、その瞬間はすごくよく覚えてます。

 で、カメラが動くと、…部屋の…廊下?というか…部屋の入口の灯りが点いてたのかな。一家が布団に入って寝てるのが見えたんですよ。

 この時点で俺はもう、ちょっと引いてて。(いや、流石にここまで撮る?)って思ったんですよね。

 だっていくら旅行の様子を映像に残すためにカメラマンを雇ったって言っても、流石に就寝中まで映像を撮ってくれ、とは言わないでしょう。もしそういう映像を撮るとしても、それぐらいは家族が一人起きて撮るんじゃないかな、と思うんですよね。少なくとも俺だったら赤の他人に寝顔や寝相を撮ってもらいたいとは思わないし。嫌じゃないですか。なんか。

 あとで話してみたら、布団で寝てる家族が映った瞬間、やっぱり他の二人も同じように引いてたみたいです。


 で、カメラが、家族の寝顔をひとりひとり…ちゃんと撮っていくんですよ。…こう、まず寝てる人の全体像を撮った後に、そこから寝てる人の顔の部分にカメラをぐっと近づけて。で、そのあとに、布団の間を…こう…慎重に…歩いて、次の人、って感じで。

 一人目が、枕元に眼鏡を置いたおじいちゃん。二人目が、おじいちゃんの隣のお父さん。お酒が入ってるからかなあ、二人ともちょっと寝相が乱れてたのを覚えてます。そこから三人目、お父さんの隣で寝ているお兄ちゃん。

 そこまで来て、…この時点で、なんかマズくない?とは思ったんですよね。映像が…ちょっと、ここまでと比べてもあまりにも異常な感じになったので。就寝中に映像を撮ってるだけでも変なのに、わざわざこんなもの…寝顔をこんなでかでかと映すか?って感じになってたから。なんかこの先ヤバいことになるんじゃないかな…って思ったんですよね。ちょっと。

 しかもお父さんが映った辺りで、Aがぼそっと、

「これ撮ってるやつはどこで寝るんだ…」

 ってまた嫌なことを言ったんです。確かに部屋には一家六人分の布団しか敷かれてないんですよ。でもそうすると、この映像を撮っているやつは少なくとも別の部屋で寝るか、…まあそういうふうにしないといけないんですよね。部屋の中にはもう布団を敷くスペースもないし。ここに来て、映像を撮ってる奴が本格的になんなのかわかんなくなっちゃったんですよ。


 えーっと、それでお兄ちゃんまで映したところで…部屋の反対側…いや対角線か、対角線上にカメラが向かって。おじいちゃんの方の足元に敷かれた布団、そこに寝ているおばあちゃん。四人目。で、おばあちゃんの隣で寝ているお母さん。五人目。それで、お母さんの布団に大分寄せた形で布団が敷いてあって、そこに弟。これで一家六人全員が映された。


 そしたら、カメラの視点が急にググっと上がって。旅館って部屋の端っこに…こう、出窓みたいになってる空間があって、そこに椅子が置いてあったりするじゃないですか。ほら、よくネットとかで「旅館独特の空間」って書かれてるやつ。あれが映ったんですよ。そしたら、映像全体が左に向かって、ゆっくり、グ~っと動き出して。

 あ、こいつは自分の顔を映そうとしてるんだな、ってことに気付いたんです。

 それを理解した瞬間に、ものすごい全身に…おぞけって言うんですかね、なんか電気みたいなのがバーッて走って。それで気付いたら、

「ヤバい!止めて!」

 って、考えるより先に叫んでたんです。で、不意に我に返って周りを見たら、他の二人も凄いわたわたしてて。あとで、画面が動き出した瞬間に全員が同じことを思ってたことが分かって。とにかく、この先を見たらヤバいと。

 でも、俺たちもうなんかパニックになってて、どうすればいいのかわからなくなってましたね。今思えばひとまずテレビの電源を切ればよかったんですけど、テンパってるからその発想になかなか至らなくて。俺はもうこれ以上見れない!ってなってたから、画面直視できなくて、ずっとテレビから目ぇ背けて横向きながら「早く早く!」って。でも三人とも…俺も、何をすればいいのかわからなくなってました。Nとかカメラ持って「これどうすんだっけ?これどうすんだっけ?」ってずっとぶつぶつ言ってて。


 そうこうしてるうちに、三人の誰でもない笑い声が聞こえてきたんですよ。

 なんだ?と思ったら、…画面見てないから映像がどうなってたのかはわからないんですけど、ビデオの中で、映像撮ってる奴が急に笑い出したんですよ。

 もう怖すぎて、その声が男だったのか女だったのかとか、そういうことはもう覚えてないんですけど、ただ覚えてるのが、その笑い方が物凄くて。狂ったような笑い方というか、「ぎゃはははははは!」みたいな感じで。ほぼほぼ叫びに近いような…そんな笑い方でした。あとから考えると、寝てる人がいる空間でするような笑い方じゃありませんでしたね。


 もう三人ともパニックになって、「やばいやばいやばい!!!」「怖い!怖すぎるって!」とか、いろいろ叫んでました。しかも誰もテレビの方を見れない。Nもいじってたビデオカメラ放り投げちゃって。

 そこでやっとみんな、テレビをとりあえず消せばいいってことに思い至ったんですけど、そういう時に限ってリモコンがどっか行っちゃってるんですよ。「おい!どこだ!どこだよ!」って叫びながらリモコンを探し回って。そしたらAが「あった!あった!」ってリモコンを手にして叫び出して。もう大騒ぎですよ。しかもその間もヤバい笑い声がずーっと流れてるわけです。

 それで結局Aにリモコン渡されて、俺がテレビを見ないようにして電源を消しました。今思えばAがリモコン見つけた時点でAがそのままテレビ消せばよかったんですけど、あいつももう混乱してて、俺にリモコン渡さなきゃ、ってことで頭がいっぱいになってたらしいです。

 俺がテレビを消した後に、Nが…「触りたくないんだけど!」とかいろいろ言いながら、ビデオカメラの電源を消して。全部終わったらもう三人とも息切れてましたね。しばらくゼーゼー言ってて誰も喋れなくなってました。


 その後、もう誰も一人の家に帰りたくない、って話になって、俺も…このまま一人で寝るのはちょっと難しいぞ、と思ったんで、急遽そのままオールで飲み明かすことになって。気分転換も兼ねて、追加の酒を買いに行くことにしたんです。その時にNが

「もうこんなん持ってたくない!だってこれ持って帰るの俺だぞ!?嫌すぎるでしょ!」

 とか言って、…いま思うとダメなんですけど、近所のゴミ捨て場に適当にビデオカメラを捨てたんですよ。俺とAは

「それでいいのかよ~!」

「おい!犯罪者!」

 みたいな感じでNのことをふざけてからかったんですけど、でも二人ともあのビデオカメラもテープも目の見えるところに置いておきたくなかったんで…本当に悪いんですけど、真面目に止めることは一切しませんでした。


 それで、コンビニに行って追加の酒とツマミを買って。帰りに、さっきビデオカメラを捨てたゴミ捨て場の前を通りかかったんです。そしたらAが暗い声で

「おい…」

 ってぼそっと言って。なんだ?と思ってAの方を見てみたら、ゴミ捨て場の方を指差してて。

 …ないんですよ。カメラが。さっき捨てたばっかりなのに。

「は?」

「え、なんで?」

 ってなって。みんなでゴミ捨て場だけじゃなく、その周りもちょっと見てみたけれど、やっぱりない。言ってももう結構深夜に近い時間帯で、管理の人とかが持ってったってこともなさそうだし、道には人通り少ないしで。全員それでなんかこええ!ってなって、ちょっと急ぎ足で家に戻って。

 これで家に帰ったときに、…当時「リング」とかが流行ったちょっと後ぐらいだったんで、「ホラー映画みたいにまたカメラが戻って来てたらどうしよう?」ってちょっと思ったんですけど、流石にそれは無かったです。

 それで三人とも安心して、あとはなんとかテンションを切り替えて、朝まで酒を飲みながらバカ話をしたんですけど。


 …あのカメラ、当然なんだけど、中にはあのテープが入ったままなんです。

 あのカメラもテープも、まだこの世のどこかにあるのかな、ってたまに思うんですよねえ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ