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吸血鬼だったはずなのに

 森の奥底の人里離れた場所にひっそりと暮らしていたのに、近くに村が出来てしまった。村人達が我が家の敷地に勝手に迷い込ん来るようになって場所が知られてしまったので、お役人までやって来た。「ここは領主様の土地だ。税金を納めよ」だって。


 まったくこれだから人間は。なんと愚かで自分勝手なのか。見た目は娘の姿にしているけど、あなた達が領主様と言ってる人間の一族が生まれる前から生きてるんですけど。なんたって私は、原初の一族で不死の吸血鬼。例え灰になっても復活は容易いの。


 仕方ないので秘術でお薬を作って村人達に売りましょう。病気も傷もたちどころに治ってしまうお薬だからそこそこ高値で売れるはず。それで税金を支払って差し上げますわ。そもそもこのお薬は、嗜好品である人間の生き血を吸血鬼史上最高レベルに美味しくするためと、血を吸った時の傷を瞬時に治すために考えたもの。人間を健康な状態にする事で味わいを高めてくれるのだから、村人達に流通すればこちらとしてもありがたい。近くに村が出来た事は煩わしいけど、良質な生き血を身近で手軽に育成出来ると考えれば、メリットと思えなくもない。


・・・ 


 誤算だった。お薬はめっちゃ売れて村人達に喜ばれた、までは良い。けれども、我が家に続くこの人々の行列はいったい何?我が家がめちゃくちゃ人気スポットになっているのだけど。「敷地内に店舗を建てましょう」とか「待っている間に子どもたちが退屈しないように遊具を作りましょう」とか、ボランティアでやってくれるもんだから、こちらとしては「ええ、そうね」としか言えないじゃない。子ども達も森の動物達と仲良くなったものだから「子どもは自宅で留守番してなさい」とも言えないし。そんな感じで村人達の好きにさせてたら、村からの街道も整備されちゃって、大きな馬車小屋まで出来ちゃって、もはや我が家というよりはテーマパークだわこれ。ひっそりと暮らすどころじゃないわ。


 まあでも、村人達の幸せそうな笑顔を見てるとまんざらでもないわ。夜な夜なこっそりと頂いている生き血も随分と美味しくなったし。吸血鬼って事もばれていないみたいだし。なんたって「森の魔女様」とか呼ばれているし。魔女様って何なん!?こっちは吸血鬼だっつの。けど、何て呼ばれても別にいいかな。ここの村人達は純朴で可愛いし。領主も事ある毎にお酒や料理を持ち込んできて勝手にパーティ始めてしまう様な陽気でお節介な人だし。情が移っちゃうよね。



 今年も大豊作なんだって。お祭りだーって騒いでた。「森の魔女様の魔法のおかげ」と言われたけど、私は魔法使えないから。ほんの少しアドバイスしただけ。豊作になるのは、あなた達が一生懸命努力した結果だから。特産品も出来て村が潤ったのだから良かったじゃん。


 そういえば領主が、村が発展したから町に昇格するとか言ってたなあ。なんでも大きな教会も作って、本庁の方から神父が来るのだとか。「王様に認められた」とか喜んでたからお祝いしてあげたけど、面倒事に巻き込まれなければいいけど。


・・・


 領主が病気で死んだって?そんなはずはない。あの人の生き血を定期的に飲んで健康チェックしてたんだから。病気になったら真っ先に私が気付くはず。一服盛られたかも。私がちゃんと守ってあげればよかった。悔しい。


 神父の息の掛かった新しい領主が来るようだけど、これは懸念していた通り面倒事に巻き込まれたようね。探りを入れておくか。


 新しい領主も神父も、血が吸血鬼史上最低最悪に不味い。悪意にまみれた血のようだ。二度と飲みたくないし、近寄りたくも無い。気持ち悪い。良くない事が起こりそう。


 町の人の生気が無くなってる。生き血も不味くなった。税の徴収も相当厳しくなった様だし、見たことも聞いたことも無い疫病も流行ってる。今までのお薬では効き目が薄いようだから急いで何とかしないと。これ以上助けられなかった人を増やしたくない。



 疫病が流行っている理由が分かってしまった。教会への信仰心を高めるための策だったなんて。人々へ毒を撒いて病気を流行らせて恐怖に陥れて、教会に助けを求めた者だけを解毒して「神の力」と思わせるつもりだとか。なんて愚かなの。人の命を何だと思ってるの。


 私は原初の一族であってもただの死なない吸血鬼。私の血を分け与えて使役すればその人の命は助かるけど、短期間だとせいぜい2~3人しか救えない。けれども、私の血をお薬に混ぜれば効き目は少しは良くなって、多くの人を救えるかもしれない。町の人には情が移っちゃったからね、放っておけないから。


・・・


 失敗した。疫病に罹った人にお薬を飲ませていたら教会の妄信的な信徒に捕まってしまった。目を付けられていたみたい。そりゃそうか。教会からしたら最も目障りな存在だから。体調ばっちりだったら余裕で逃げられたけど、血を使い過ぎちゃってたか。


 魔女裁判にかけられるみたい。結果は分かってるけど。疫病を流行らせたとかでっち上げられて有罪になって公開処刑なんでしょうね。きっと火あぶりにされるんだ。吸血鬼が魔女裁判だなんてお笑い草。火あぶりにされたって時間はかかるものの灰からでも復活できるから構わないけど、私を慕ってくれて一緒に救助活動をしてくれていた町の人まで嫌疑をかけられるのは可哀そう。ああ、そうだ。私の血を使ったお薬を飲んだ人なら・・・。



 縄で縛られたまま壇上に引き上げられた。穢らわしい。神父の名を語った愚かな人間の悪党め。私利私欲のために教会を使ってこの町と私を滅茶苦茶にして。私の顔を見てニヤニヤしないで。吐き気がする。


「神の名に誓って魔女裁判の判決を言い渡す。この者を有罪として火あぶりの刑に処す。また皆の者、こやつの仲間がいるだろう。言え!言わぬならこの中から嫌疑のある者を引き出すぞ」


 今だ。念話でお薬を飲んだ町の人を一時的に使役する!


 『あなた達、魔女に操られた、魔女のせいだと叫びなさい!』


「ま・・・魔女に操られたんだ!魔女のせいだ!」

「そうだ!俺たちは魔女に操られたんだ!」


 そう、それでいいの。私があなた達への嫌疑も灰にします。あなた達が心で泣いてくれている事は分かってる。でも今は私の言う通りにして。愚かな人間どもは大嫌いだけど、町のみんなは大好きよ。全員救えなかったのは心残りだけど、教会と折り合いを付けて、解毒して貰ってね。私は一旦灰になり、暫く経ってほとぼりが冷めた頃に復活します。


 ああ、この身が段々と灰になっていく。でもあなた達の顔はまだ見えているわ。お願い、今は泣かないで。泣くなら教会の目が届かないところでね。あなた達とはお別れだけど、あなた達の子孫とはまた仲良くするつもりだから。それまでね。さようなら・・・。




 ぱららららーーーん


「あなたの善行は、私にも届いております」


 あなたは?


「私は、転生を司る女神です。あなたの生前の行いはそれはそれは素晴らしいものでした。よって神の命により即座に人間に転生させてあげましょう」


 いや待って。私は死んでませんし、自分の意志で復活できますから不要ですって。人間じゃ無くて吸血鬼で良いし。


「さあ新たな人生の始まりです。幸あらん事を祈ります!」


 話を聞けぇーーー。あーー、余計な事をーー・・・・・・。


#人間への転生は完了しました。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間にも優しく、コミカルな吸血鬼でしたね。 普通に復活できるのに余計なお世話(?)で人間になってしまった主人公、 楽しい人としての生を送れることを願ってます。
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