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ひき算

作者: 腕 尊美

 久しぶりに友人達と語り合った。気がついた時には空も薄らと明るくなっており、物足りなさを感じながら解散した。

 朝の空気は澄んでおり、シャツ一枚で太刀打ちできる気温ではなかったが、冷える体と眠い目を擦りながら、何とか自宅の玄関先までたどり着いた。


 ポケットから家の鍵を取り出して、扉の鍵穴に乱暴に差し込もうとする。鍵の先がガガッと何度か穴の淵に当たり、ようやく奥へと入っていった。

 ぎこちないかみ合いの感触。右手に軽く力を加えて調節した。

 心地の良いかみ合いの感触。右手をひねるとカチャッと鈍い音がした。

 この家に引っ越してきた当初は、もっとすんなりかみ合っていたような気がする。時間の経過とともに緩んできてしまっているのだろうか。


「俺の中で結婚を想定すると、ひき算が始まっちゃうんだよな」

 先ほどまで話していた他愛ない色恋の話の中で、何気なく友人が口にした台詞。今の僕には妙に印象に残る言葉だった。

 確かに血の繋がりもない他人と、心の凸凹(でこぼこ)をかみ合わせるのはひき算なのかもしれない。1つ1つ互いに削りあっていき、納得できるかみ合いを探すのは、失うということかもしれない。

 だけど、それでいいんじゃないか。いや、それがいいんじゃないか。

 理解しようと悩み、尖った部分を削り、磨いていく作業は、例えひき算だろうが、相手に近づき寄り添うための、美しい愛の形なんじゃないかと思う。


 ああ、また変なことを考えてしまっている。眠いせいか頭がぼんやりとして、思考が冴えない。

 早く寝よう。

 鍵穴に差し込まれた鍵を見つめる。これ以上傷つかないように、いつかかみ合いが狂ってしまわないように、優しくなぞるようにして鍵を引き抜いた。

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