逆行令嬢、見切る
三人からの贈り物が三つ。この中からサイモンがくれたものを当てるのは二度だけ。間違えることは一回しか許されていない。二回間違った時点で、最後まで選ばれなかったものが正解だからだ。
前だったら何の躊躇もなく二回答えていたが、今は違う。
二回答えて、デクラン様の贈り物が何だったかも突き止めなくてはいけない。
そこで役に立つのが前の記憶だ。
伊達に何年も夫婦やっていなかったので、デクラン様の表情の変化ぐらいはわかる。
サイモンの贈り物を答えると同時に、デクラン様の表情を見て、それがデクラン様の贈り物だったか確認しなければならない。
しかもこの方法だと、贈り物を二回とも当てられなかった時のほうがいいときたもんだ。
一回目失敗=一つ目の贈り物がデクラン様のものかどうか見極める
二回目失敗=二つ目の贈り物がデクラン様のもの
二回目でわかった時は選ばれずに残った贈り物がデクラン様のものだ。
ところが、一回で当たってしまった時は二つのうちどちらかわからないので、まったくの当てずっぽうでしかない。
ただのありがとうございますから、送られたものがわかった状態でお礼を言われるのとでは桁違いだ。
それにしても、運命は私の選択を後押ししているようだ。デクラン様はサイモンと同じ方向にいるので、表情を観察しやすい。
「私のことを良く知っていると自負するからにはお花ね」
幼馴染ということで日傘をくれたであろうサイモンに自信満々で間違って見せる。デクラン様の表情に変化はない。お花はデクラン様ではなく、ケイレブ様だったようだ。
「ちがーう。なんで間違えるかなー。幼馴染だろ?」
「幼馴染と言っても、サイモンはお兄様とばっかり遊んで、私のこと、何度も置いてけぼりにしたでしょ」
そうなのだ。お兄様もサイモンもそれはもう、私を置いてけぼりにして遊びに行ってしまっていた。歳が3歳も違うと、好みも違うのか、本当にひどかった。
「あれは危ないからお前を置いて行ってやっただけだろ」
「・・・」
どこが危険なのか思い返しても思い当たらない。
「いいから、次、答えてみろよ」
「・・・。お菓子」
話題を変えられても元の話題が固執するほどのものではないので、釈然としないまま答える。デクラン様の表情は・・・――変わらない?!
えぇ?!
「よくわかったな。まあ、わかりやすいか」
日傘をくれたのはデクラン様だったの?!! サイモンじゃないの?!
てっきり、幼馴染で親しいからサイモンだって思ったのに。
お礼を言うにも、婚約者どころか、幼馴染や親戚ですらないデクラン様から日傘をもらっただなんて言えないわ。
だからなの?
サイモンが贈り物を持ってきたのは。
幼馴染であるサイモンが持ってきたら誰が贈ったか記録されることはないけど、使用人に届けさせたら執事が誰からの贈り物か記録を残しておくから、その為にサイモンに持ってこさせたの?!
今、サイモンじゃないって暴露されていても、ここにいる四人と近くで控えている使用人だけだから、記録には残らないし、問題にはならないけど。
形が残るものをデクラン様が?!
これはデクラン様が私に好意を持ってくれているってことなの?!
サイモンの贈り物のどこがわかりやすかったのかさっぱりわからなかったことなど、最早、どうでもよくなった。