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逆行令嬢、策略を変える

 お兄様に怒られてせっかくのアピール計画は中止となった。日除け対策もタリアのおかげで出来ていたのに、おかしな話だ。

 でも、ここでお兄様の気を害したら、デクラン様に悪い印象を与えられてしまうかもしれないから、別の策を練ることにした。

 お兄様の書斎から見える庭にいることは禁じられたから、どうしようかと考えていい考えが見つからないまま、お兄様が屋敷にお友達を連れて来た。

 今回は諦めるしかないわ。

 偶然を装って、廊下や玄関ホールで顔を合わせる方法はそう何度も使えないし。庭にいなかったら、家の中で遭遇するというのも同じようなものだし。少し焦らすように何回か一回だけ、顔を合わせるのなら大丈夫だろうと結論付けたら、何故かサイモンがやって来た。

 庭にいないのが気になったからだと言われたけど、幼馴染だし、お兄様に怒られたことを言ったら、苦笑された。

 当の本人を前に笑うなんて失礼だ。なんて思っていたら、サイモンは次に家に来た時に贈り物をくれた。サイモンからもらっても・・・、と思っていたら、幼馴染様はお兄様のお友達からの分も持ってきてくれたそうだ。

 嬉しい! もしかして、デクラン様からも?

 思ったより、作戦はうまくいったみたい。

 どれがデクラン様のものだろう?

 日傘? 花束? 焼き菓子?

 サイモンが教えてくれないから、もどかしい。

 親しい相手以外には消え物を送るそうだし、日傘は幼馴染特権のサイモンよね。

 じゃあ、花束と焼き菓子のどちらがデクラン様からなんだろう。

 前は初めて会ってから、社交界に出るまでほとんど会わなかったから、この頃のデクラン様の記憶はあまりない。

 社交界に出てからは、お兄様の顔を立てて毎回、挨拶をしてくれたが、それだけの関係だった。

 それが変わったのは、私が修道院に送られて面会が許されてからだから、今から四年近く後の話になる。

 贈り物もその時だ。

 四年も早くデクラン様から贈り物がもらえたのかと思うと、嬉しすぎて雲の上を歩いているような気分だった。

 だけど、ここで気にしないといけないのは、あまり接触しすぎてはいけないということ。社交儀礼上、必要な接触以外は、偶然、顔を合わせた風を装わないといけない。あからさまに会ってしまうと、デクラン様の興味が失われてしまうかもしれない。

 そういう方だもの、デクラン様は。

 贈り物のお礼をするという形で手紙と、次に来訪してくださった時に挨拶だ。

 文面は家庭教師の満点がもらえるようにそっけないけど、手紙の紙はしっかりと上質なものを選んだ。香水を吹きかけたり、押し花を入れたりしたくても、そこは親しくないのだからと我慢。デクラン様にとって私はまだお友達の妹に過ぎず、想いを寄せられても困る相手なのだ。将来浮気するとはいえ、婚約者もいるし。

 サイモンに教えてもらった、お兄様のもう一人のお友達であるケイレブ様にも同じ文面と紙でお礼の手紙を出した。


 お兄様がお友達を連れてきたと聞いた時には、お礼を言う為に自室待機した。婦人用の客間はお母様が使われるから、待つのに適さないからだ。

 メイドがやってきて、お兄様のお友達が帰られると告げたので、玄関ホールに向かう。


「ごきげんよう、皆様。先日は――・・・」


 お兄様と一緒に焦げ茶色の髪の垂れ目の青年がいた。まだ線の細い身体は少年から青年になりかけだともいえる。一年後、社交界に出た時よりも若いデクラン様。

 ああ、デクラン様だ。

 若いけど、デクラン様だ。

 うっとりしそうな気持ちを引き締めてご挨拶をしようとするけど、声が出ない。


「言いたいことがあるなら、早く言ったらどうだ? 来年は社交界にデビューをするというのに挨拶すら満足にできないのか、お前は」


 私を見付けたお兄様は鼻に皺を寄せて嫌味を言う。お兄様のお友達のお見送りに押しかける形なのだから、嫌がられても仕方ない。


「先日は贈り物をありがとうございました。とても嬉しかったです」

「気に入ってくれてよかったよ」


 なんとか言葉を絞り出した私にそう言ってくださったのはデクラン様でもサイモンでもない青年だからケイレブ様だろう。自己紹介もしていないのに、お礼を先に言ってしまったが、声をかける時に名前を呼ばなかったから大丈夫だろう。


「元気そうでよかった」


 デクラン様にそう言っていただけただけで、心配されたのかと思うだけで体中の血が沸騰するかと思った。


「俺が送ったのが、一番気に入っただろう?」


 幼馴染特権で偉そうにそう言うのはサイモンだ。水を差されてちょうどよかった。サイモンなら普通に話せる。


「どれがサイモンのくれたものか、わからないわ」

「おっかしいな。カシーが好きなものを知っているのは、俺だけなのにわからないのか?」

「どれも素晴らしかったもの。それがわからないってことは、サイモンも私の好きなものがわかってないってことよ」

「・・・じゃ、じゃあさ。誰がどれを送ったか、当ててみな。カシー」

「望むところよ」


 私とサイモンの掛け合いにデクラン様やケイレブ様が笑みを浮かべるだけでなく、お兄様も口の端を上げた。

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