逆行令嬢の兄、怒る
今日も今日でネビルの家に招かれたケイレブは、部屋に案内されてすぐに窓の外の変化に気付いた。
「あれ? なんか見えるけど、布?」
よく見ようと、窓に近付いたケイレブに次いでデクランもまた窓に近寄って、タリアの名案を見る。
「日除けみたいだな」
「やっと、日除けを付けるってことに気付いたのか」
何度もカサンドラが眠っている間に日傘が飛ばされて、気付いたデクランが従僕に拾いに行かせた時には使い物にならなくなっていたことを知っていたサイモンは、ようやく解決策を思い付いたことに安心したようだった。
だが、タリアがオレンジの木とその隣の木に布を結び付けて日除けを付けたことに額に青筋を立てた人物がいた。
ネビルである。
自分が応接室として使う書斎からよく見える場所に甘やかされた妹が嘲笑うかのようにいるだけでなく、じっくり腰を据える準備をしているとしか思えなかった。
最早、心情的には嫌がらせだ。
ネビルが友人を自宅に連れてこなければいいだけの話なのだが、残念ながら本人は友人を家に呼ばないという選択肢はない。カサンドラの家であると同時にネビルの家でもあるのだ。自分が譲歩する理由などない、というのが理由だった。
幼馴染のサイモンなり、お人好しで社交的なケイレブなり、波風を立てることが嫌いな日和見主義のデクランなり、誰かしらの屋敷でもよく、更に言えば街の酒場で充分である。
しかし、集まるのは何故かネビルの家だ。
ネビルが中心となっているからに他ならないが、他の三人がそれぞれそれほど親しくないのも理由の一つだった。
そしてそんな三人はネビルの荒れ狂う心情など気付かずに、庭で微睡んでいるカサンドラを微笑ましいとばかりに、温かな目で見守っている。淑女らしくない行動ではあるが、友人の妹で、それもデビュタント前の少女のやることだ。子どもっぽいと目くじらを立てるより、温かい目になってしまう。
これが突撃してきたり、付きまとってくるなら、そのような気持ちを持つことはなかっただろうが、デクランを篭絡しようとした策略のおかげで好印象を与えていた。昔、ネビルと一緒にヒヨコのように付きまとわれて悪戯がバレた経験があるサイモンですら、「まだ淑女とは言い難いけど、成長したなあ」と感慨を感じて微笑ましく思った。
ネビルは表面上は怒りを抑え込んで友人たちとの時間を有意義に過ごしたが、それでカサンドラがお咎めなしとはいかなかった。