逆行令嬢の兄とお友達
王宮から友人たちを連れて屋敷に戻ってきたネビルは、自分用の書斎に入ってギョッとした。
(何をやっているんだ、あいつは)
窓の外に見えるのはオレンジの木の下で眠っている亜麻色の髪の少女。妹のカサンドラだ。
まだ社交界に出ていないとはいえ、庭で眠るなど、肌が日に焼けたり、雀斑ができたりと美容にも良くなければ、商家の娘でもしない非常識な行動である。
ネビルとカサンドラは仲が良いとは言えない。そもそも、同じ子ども部屋にいても、ネビルは跡取りとして教育が施され、カサンドラは比較的自由時間が多かったことをネビルは不公平だと思っていた。
行く行くはネビルの為に結婚するカサンドラだが、まだ父親が健在で、妹自身も結婚していないとなると、ネビルにとって利用価値はまったくない。婚約はしていても、それは相手の家が役に立つから婚約しているだけで、利益が見込めなくなれば解消される。
まだ口約束だけで、それほど役に立っていない妹が、自分の価値を下げる行動をしていると知って、ネビルは顔を顰めた。
「あれ~。カシーじゃん。あんなとこで、何やってんだ~?」
呑気にそう言うのは、王宮に一緒に上がっていた幼馴染のサイモンだ。昔からこの屋敷に遊びに来ていた彼はネビル同様、カサンドラのことはよく知っている。カサンドラが非常識な行動をとっていても、それを誰彼に話さないだけの分別も持ち合わせている。
問題は王宮でできた友人たちだ。
ネビルは側仕えのジョンに命ずる。
「風邪を引くといけないから、カサンドラを起こしてきてくれ」
「かしこまりました」
ネビルたちの世話をする為に傍にいたジョンが部屋を出て行く。
「カシーと言うと、ネビルの妹のカサンドラ嬢か?」
王宮でネビルがまだ不案内だった時に手助けしてくれたことがきっかけで友人付き合いをし始めたケイレブが言う。ケイレブだけがこの中で、カサンドラとは面識がない。
「ええ。デビュタント前とはいえ、情けない。恥ずかしいばかりだ」
カサンドラと仲が良くないので、ネビルは辛辣だ。
「このところ、雨ばかり続いていたのだから、わからないでもないな」
ネビルと同じ職場で働いているデクランがやんわりと空気を変えようと口を挟む。デクランはカサンドラとは以前、顔を合わせたことがあるので面識がある。
だからといって、デクランが擁護した理由はカサンドラに好意を抱いているからではない。
カサンドラが篭絡しようと考えている元・夫だったデクランは争いごとや場の空気が悪くなることを嫌う性格をしているからだった。




