逆行令嬢の野望
お兄様が王宮で働くお友達を呼ぶと聞いて、私は庭に出てオレンジの木陰に行く。ここはお兄様が使う部屋からよく見えるので、お友達にも発見してもらえるだろう。
どうして、そんなまどろっこしい真似をしているかというと、デビュタント前の私は、そのお友達と話をする機会がほとんどないからだ。デビュタントを終えても、私を邪険にし始める婚約者のエスコートか、婚約者に貞節を誓って一人壁の花になっているしかないので、機会はお兄様と一緒にいる時に立ち話をした数回だけ。
適切な距離を保つ為に片手ほどしかない機会しか話さなかったお兄様のお友達のデクラン様は、婚約者に浮気された挙句、衆目を集めた場所で糾弾され、婚約破棄された私に会いに修道院まで足を運んでくれた。初めは修道院に来たばかりなので規則で会えなかったものの、根気強く何度も。やがて、訪問を楽しみにするようになった頃、デクラン様は私を修道院から攫った。
お父様かお兄様が私を引き取りに来ていればそのようなことをしなくても済んだのだが、婚約破棄前後の私の醜聞があまりにも大きかった為に私は切り捨てられ、修道院から攫われることになった。
三男でデクラン様が家を継ぐ必要がなかったとはいえ、彼の家族だけにしか認められない関係だった。それ以上、公にしてデクラン様の評判まで悪くするわけにはいかなかった。
何故、浮気されて辛い思いをさせられた被害者である私がこのような目に遭って、日陰の身にならなければならないのか?
日陰の身になるのは、浮気男と婚約者のいる男に手を出す手癖の悪い女ではないか。
人に後ろ指をさされるような人物が社交界でのうのうと居座ることが許されるなど、理不尽極まりない。
デクラン様のご家族や子どもたちに肩身の狭い思いをさせてしまったのも、私が元婚約者たちに悪評を流されて修道院に送られたからだった。ひっそりと修道院に送られただけなら、どこかの貴族と養子縁組をすることで社交界に戻れたが、悪評付きだ。社交界に戻れば私の悪評が子どもたちにまで付きまとう。
貴族の目に入らぬように暮らして、子どもたちがある程度大きくなれば縁談の為にデクラン様のご兄弟に養子にしていただいて、そうして良縁を得た。
こうしてデビュタント前に戻ってしまったからには、浮気者の婚約者とさっさと縁切りして、今度はデクラン様や子どもたちに肩身の狭い思いをさせない。子どもたちの結婚式にはデクラン様と共に親として出席して、顔を見に訪問したり、孫連れの里帰りを楽しむんだ。ということで、デクラン様との仲を早めに深めて婚約破棄される前に婚約解消してやろうと、まずは目に付きやすい場所でアピール中。
それにしても、今日は暖かくて、・・・ああ、眠い・・・。