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父からの最期の贈り物  作者: 葵音
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第七話 逃走

それから数日。特にこれといった事は起きなかった。あきらめてくれたのだろうか。

そんなことまで思うようになった。

そんなある日、何か他に資料がないか涼と二人で書斎を整理していた時だった。


―ピンポーン


いきなりチャイムが鳴った。モニターを見るとそこには無表情の栂野さん、それと黒いスーツを着た男が数名いた。

怖くなり思わず後ずさる。それを見た涼がそばに来てくれた。


「開けない方がいいな。唯、このまま居留守使うぞ。」


私たちは居留守を使うことにした。だがそれも無意味に終わった。

カチャカチャと鍵を開けようとする音が聞こえた。ピッキングして開けるつもりなのだろうか。

この家のドアは二つのカギがついている。同じ鍵ではないからピッキングには時間がかかるはずだ。

だが開けられるのも時間の問題。どうするか迷っていると


「唯、どこかに隠れるぞ。」

「隠れるってどこに…あっ。」


涼も同じことを考えたようで、私の手をとりあの秘密の部屋へ音を立てないようにして向かう。

部屋に入りカギを閉め、望月さんに電話をかける。1コール、2コール、気持ちが焦る。


―早く出て!


祈りが通じたかのように電話の向こうから聞こえてくる望月さんの声。

しかし恐怖で上手く声が出ない。するとすかさず涼が手を出してきた。

電話を渡すと冷静に状況を説明してくれた。


「…できるだけ見つからないように、望月さんたちが来るまで我慢してくれだって。もう少し我慢な。」


安心させるように私の手を握り笑顔を見せてくれる涼。私は涼の手を握り返し大きく頷いた。

するとバタバタと上が騒がしくなった。ついに入られたらしい。


―どこかにいるはずだ、探せ。


息をのんだ。体が震える。涼がそっと抱きしめてくれた。でも震えは収まらない。

「くそっ、ここも時間の問題かもしれない。」

「どうしよう、どこかから出られないかな。」


このままではいずれ…嫌な予感が頭をよぎる。


しばらくその場にとどまっていたが、書斎の方が騒がしい。

この場所が見つかってしまったのだろう。


涼が私から離れ、ドアとは反対側にある本棚をじっと見つめたかと思うといきなり本棚をずらし始めた。

そこに現れたのは小さめの通路だった。はいつくばっていけば通れるだろう。


「ここから出よう。ここにいるより外に出た方がいいだろう。」

「そうだね、行こう。」


ドアの向こうが騒がしい。カギをかけているがもう間もなく開けられてしまうだろう。

躊躇している暇はない。赤ちゃんがハイハイするかのように小さい通路を抜ける。


少し進むと出口が見えた。涼が出口をふさいでいた板を蹴とばす。一気に光が差し込み思わず目を細めた。涼が先に飛び降り、次に私が通路から飛び降りた。少し高かったが涼がしっかり受け止めてくれた。


どちらからともなく手を取り合い走り出す。

どこに向かえばいいかなんてわからない。でもとにかく遠くに逃げなくては。しばらく走って逃げた。

だが、現実はそう上手くいかない。家から離れた人通りの少ない路地裏の隅で息を整えていた時だった。


「いたぞ!あそこだ!」


黒いスーツの男が少し離れたところからこちらを指さしている。


「チッ」


涼は顔をしかめ、私の方を見た。

「もう少し頑張れるか?」

「大丈夫、行こう!」


もっと運動しておけばよかったと後悔したがもう遅い。転ばないように懸命に足を動かした。

涼が手を引っ張ってくれているからまだ辛さもマシだ。


入り組んだ路地裏を生かし何とか黒スーツを撒いた。だが私の体力も限界に近付いていた。

仕方なく今は使われていないであろう工場に身を隠すことにした。

二人でドラム缶が並べてあるところに身を隠す。


涼はあたりをきょろきょろと見渡し警戒している。私は情けなくも息を整えるので精いっぱいだ。


「あっ、望月さんに連絡しなきゃ。」


どこにいるのかを知らせなくては。逃げるのに必死で忘れていた。急いで携帯を取り出す。


「えっ、嘘でしょ…」


望月さんに電話をかけようとした瞬間携帯が真っ暗になってしまった。電池切れだ。

そういえばフル充電にしていなかった。こんな時に切れるなんて、ついていない。


「…どうしよう。」


働かなくなった携帯を見つめる。どうにかして連絡を取らないとまずい。


「落ち着いて、大丈夫。何があっても守るから。」


焦りを隠しきれない私を見て涼はいつもの笑顔を見せた。不思議だ、涼の顔を見ていると自然と落ち着きを取り戻せる。

返事の代わりに笑顔を返した。

ずっとここにいてはいつか見つかってしまう。息も整い落ち着いた頃、場所を変えようと立ち上がり一歩を踏み出した瞬間だった。


「やっと見つけた。」


今日はなんてついていない日なのだろう。思わず顔をしかめる。工場の入口に複数の人が立っている。

栂野さんたちだ。コツコツと革靴を鳴らしながらこちらへ近づいてくる。


「捕えろ。」


物騒な言葉が聞こえたと思った瞬間、黒スーツの男たちが一斉にこちらに走り出してきた。逃げたいのに足が震えて動かない。

すると隣で手を握ってくれていた涼が私の手を放し男たちに向かって行ってしまった。


「涼!」


声を張り上げる。足はまだ動かない。涼はどんどん男たちを倒していく。

一人、また一人と男が倒れていく。あっという間に男たちを倒してしまった。

呆気に取られていると突然どこからか飛び出してきた男が涼に何かをした。

火花がばちっと出た瞬間、涼が片膝をついた。すぐに立ち上がったが男に蹴られ、涼が倒れる。

このままじゃ涼が危ない。そう思った瞬間、さっきまで石のように固まっていた足がすんなり動く。

今にも涼を殴ろうとしている男めがけて突進する。

ドスンと重い衝撃が体を襲う。

男は油断していたのか思っていたよりも吹っ飛んだ。


「涼!大丈夫?」


倒れている涼を引き起こした。


「あぁ大丈夫だ。ありがとう。」


どうやら対したけがはなさそうだが少し苦しそうにしている。どうしたらいいのかわからずワタワタしていると突き飛ばした男が立ち上がりこちらへ走ってくるのが見えた。

私は涼が前に出るより先に床に落ちていた角材を拾って男のお腹めがけてスイングした。

走ってきた勢いもあってか角材がヒットすると男は静かに倒れた。


「…やるね。」


ぼそりと涼がつぶやくと片手を差し出してきた。何も言わずにハイタッチした。


「やってくれたな。」


声のする方を見る。栂野さんが笑顔でこちらを見ていた。すっかり忘れていた。

まだ栂野さんが残っていたのだった。


「驚いたよ、まさか自我が芽生えていたなんて。これは興味深い。だが俺の開発には不要だ。」


楽し気に話す栂野さんを見て鳥肌が止まらなかった。


「唯ちゃん、資料持っているんだろう?それを渡せば無事に帰してあげる。渡さないというなら、お父さんのもとに行くことになる。」


スーツの男たちがやられているのにずいぶん余裕だ。


「渡しません。あなたには絶対に。」

「君のお父さんもそうだった。絶対に渡さないと。あの人だけの開発じゃなかったのに。急に開発をやめる と言い俺から資料を隠した。あれがあれば俺は有名になれたんだ。世界一の発明家として。」


急に栂野さんの様子が変わった。狂気に満ちた目をしていた。


「あいつが邪魔だった。あいつがやめるなんて言わなければ、今頃俺は…だから消してやったんだ。邪魔で きないよう。」

「今なんて…?消した?お父さんを?」


信じられない言葉が出てきた。頭の中が真っ白になる。


「栂野さんがお父さんを殺したの…?」

「そうだよ、簡単だった。難しい開発で爆発の危険性もあったと話せばみんな信じてね。事件性があるなん て誰も思わなかった。」


淡々と話す栂野さん。言葉が出なかった。


「どうしても渡さないっていうなら仕方ないよね。お父さんによろしく、唯ちゃん。」


一瞬だった。栂野さんがスーツの中から黒い何かを取り出した。筒状のそれは私の方を向いている。

銃だとわかった時には遅かった。

―あっ、撃たれる


パンッと言う乾いた音が鳴るのとほぼ同時、私は横から突き飛ばされた。

慌ててその方をみるとそこには涼がいた。


「えっ。」


涼の心臓部分に近いところから火花が飛んでいる。


「…逃げろ、唯。」


そういうと涼はばたりとその場に倒れこんだ。上手く呼吸ができない。

ゆっくりと涼のそばにしゃがみ込む。


「涼?ねぇ起きてよねぇってば。」


肩を揺さぶっても涼の目は閉じられたまま。


「残念、壊れちゃったね。開発にいてくれたらスムーズになるかなとも思ったけど、まぁ資料さえあれば問 題ない。さぁ、唯ちゃんこうなりたくなかったら資料を渡せ。」

 

再び銃を向けてくる。お父さんも涼もこいつに奪われた。もうなにもかもどうでもよくなった。

二人が、涼がいない先なんて考えたくない。


ゆっくりと栂野さんが近づいてくる。涼の顔に触れる。


…ここで資料を渡してしまったら?お父さんと涼の死は何になる?そうだ、こんなやつに負けてたまるか。


「お前も奴らのもとに送ってやろう。」


銃が向けられているのがわかる。でもこんなところで死んだら二人に怒られるだろう。

うつむいていた顔を少しあげ、栂野さんを睨む。


「恨むなら、自分のお父さんを恨んで。」


狂気に満ちた笑顔で銃を向けてくる栂野さんの手をさっき拾った角材で思いっきり殴る。

上手く当たったようで銃が落ち床を滑っていく。


「このガキッ!」


頬を一発殴られ吹っ飛ぶ。痛みなんて感じなかった。栂野さんが銃を拾うのが見えた。

今度こそ終わりかな。そう思いながらも最後まで彼を睨みつけた。


「今度こそさよならだ。」


銃口が目の前に来る。

ここまでか。そう思い目を閉じる。


「警察だ!銃を捨てろ!」


突然聞こえてきた声に目を開く。

栂野の後ろに銃を構えた人たちがいた。ざっと5人くらいだろうか。その中に見知った人が見えた。


「…望月さん。」


なぜ場所が分かったのだろうか。栂野さんも驚いているようだ。

視線が私ではなく望月さんたちの方に向いている。


「近づくな!」


流石の栂野さんも焦っているようで銃を私から望月さんたちに向けた。

とっさに栂野さんから距離をとり、近くにあったドラム缶の後ろに転がり込む。

「くそっ!」


悔しそうな栂野さんの声と走り去る足音が聞こえた。ドラム缶から少し顔を出すとそこには栂野さんはいなかった。逃げたのだろう。


私は転がるように涼の元に駆け寄った。さっきと変わらず涼は目を閉じ動かない。


「涼。」


名前を呼びもう一度背中を揺らす。反応はない。


「ねぇ、いなくならないって言ったじゃない。起きてよ。」


涙で前がぼやけていく。


「唯ちゃん…。」


望月さんの悲しそうな声が聞こえた。私は覆いかぶさるように涼を抱きしめた。


「おいて行かないで…」


私の背中に温かい手が触れる。望月さんが背中をさすってくれた。



どれくらいそうしていたのか。バタバタと忙しない足音が聞こえてきた。


「栂野を確保しました。署に連行します。」

「ご苦労様。よろしく。」


捕まったという事実にほっとした。


「唯ちゃん、立てる?署まで一緒に来てほしいの。」

「…はい。でも涼は?」


返事が返ってくる前に担架が運ばれてきた。


「とりあえず、涼君も署に運ぶわね。どうするかはこれから決めましょう。」


望月さんに支えてもらいながら涼が担架に乗せられ運ばれていくのを眺める。

その後に続き私も車へと向かう。


「あの、涼と同じ車に乗せてください。」

「…わかったわ、こっちよ。」


無理を言って涼と同じ車に乗り、署に着くまでずっと涼の手を握っていた。



ここまでよんでいただきありがとうございました。

物語も終盤へ

次回へと続きます。

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