第三話 心のモヤモヤ
不思議な出会いから数週間。家の中の説明や使ってもらう部屋の掃除、涼の服や必要なものの買い出しとやることはたくさんあった。
この数日で大きく変わったことと言えば、
「涼、そろそろ洗濯物乾く頃だから、取り込んで畳んでおいてもらえる?」
お互い敬語をやめ、名前も呼び捨てで呼ぶことにした。
家族なのだから敬語やさん付けは必要ないと思ったからだ。
そしてわかったことがいくつか。
「それならもうしておいたよ。タンスに入れてある。」
一つ目は涼は仕事が早いということ。ほとんどの事はてきぱきこなしてしまう。私にとってはすごくありがたいことだ。おかげで家事の負担もかなり減った。
「ありがと、じゃあご飯にしよっか。」
二つ目は、涼は食事をとるということ。人間同様食べたものを燃やしエネルギーに変えるのだそう。
文字通り燃やすので汚い話、トイレなどは必要ないらしい。なのでいつも一緒に食事をとる。
そして三つ目。
涼には自我がない。自分の意見を言ったり、自分で考えて行動したりするが、私が命令をするとどんなことでも必ずそれに従う。私はなんだかそれが嫌だった。
「…大丈夫か?ぼーっとして。」
気づけば涼がこちらをじっと見つめていた。
「ううん、少し考え事してただけ、大丈夫だよ。」
「悩み事?どうした?」
聞いてもいいのだろうか、でもこのままモヤモヤするのは嫌だった。意を決して口を開く。
「涼はさ、私の言うことはどんなことでもするでしょ、どうして?」
「どうしてってそうプログラムされているからだよ。」
当たり前だとでも言うような顔でそう返事をした。
「嫌なことは嫌だって言っていいんだよ?全部に従わなくったって。」
「そういうわけにはいかない、僕はアンドロイド。プログラムには逆らえない。」
プログラムと言うのは複雑そうだ。でもそれをどうこうする技術は私にはない。
「じゃあ涼はプログラムされていることなら何でもやるの?私のそばにいてくれるのもプログラムされているから?」
何気なく聞いてしまった。すぐに後悔した。
「そうだな。僕には唯のそばにいるようにプログラムされている。」
心が冷たくなるのを感じた。彼は彼の意志で私の隣にいてくれているのではない、お父さんにそうプログラムされているからそばにいるだけ。
その事実が悲しくて、そっかと一言返し味のしなくなったご飯を無理やり飲み込んだ。
ご飯を食べた後私は涼を避けるように自室にこもった。
―気まずい感じになっちゃったな。涼は気にしてないかな。
プログラムがあるから涼は私のそばにいる。もしそれがなくなったら涼は私から離れていくのだろうか。
また一人ぼっちになるのだろうか。少し悪い方に考えると妄想は止まらず、どんどん悪い考えが浮かんでくる。
「あぁ、もう。」
心がモヤモヤして机に額をぶつける。
「うっ!」
ゴンっという鈍い音と共に額に鈍い痛みが走る。思ったより痛くて思わずのけぞり額をおさえる。
するとのけぞりすぎたのか椅子の前足が宙に浮いた。
「痛った!」
ガツンと大きな音をたて椅子ごと後ろにコケた。後頭部が痛い、たんこぶができていそうだ。
痛む頭をおさえていると、バタバタと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
そして勢いよく扉が開いた。
「どうした?!大丈夫か?!」
焦ったように入ってきたのは涼だった。いや、涼以外の誰かが入ってきたらそれはそれでやばいのだが。
「ごめん、椅子ごとひっくり返っちゃって。」
「けがはないか?」
涼は私の手を引っ張り起こしてくれ、私の頬を大きな手で包みながら怪我の確認をしてくれた。
―今の、本当に心配してくれたのかな。
涼が行うことは全てプログラムによって行われている。わかっているのだが、今、本当に心配そうな顔で聞いてくるものだから。
なんだかプログラムだとか、もうどうでもよくなった。涼がいてくれて、プログラムの一環だとしても心配してくれている。それで充分じゃないか。我ながら単純である。
「…ごめんね。」
「けががないならいいんだ。気を付けて。」
そういうと彼は少しだけ私から離れた。
うじうじしていても仕方ない。モヤモヤはまだ残っているけど、気にしすぎて涼とギスギスするのは嫌だ。せっかくそばにいてくれるのだからその時間を大切にしないと。
いつか涼が自分の意志で私のそばにいてくれたらいいな。彼の顔を見ながらそう思った。
気持ちを切り替えるため自分で自分の頬を両手で叩く。ぺちんといい音がした。
「何してるんだ?」
「気合い入れたの!もう平気。ごめんね。リビング行こ、コーヒー飲みたい。」
もう一度謝り彼の手を引きリビングに戻った。涼は何も言わずに私の手を握り返してくれた。
後ろで彼の様子が少しおかしかったのを私は知らなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回は涼に変化が…?
続きます。




