第二話 贈り物との出会い
それから数週間。
気持ちの整理はまだついていないが、ぼーっとする時間は減り、なんとか生活できるようになった。
何気なく観ていたテレビのニュース番組であの日の事について話している。
事件性はなく、不運な事故だったと中年のキャスターが話していた。
聞くのが辛くなってテレビを消した。
ゆっくりと立ち上がり父の書斎へ向かう。数日前から書斎に出入りするようになった。
そこに行けばまだお父さんがいる気がして。
シンと静まり返った部屋。少し雑に置かれた資料。片付ける気にはならない。部屋の中を見て回る。
ざっと本棚に目を通していると一つの本が目に入った。その本だけやたらと古い。題名も書かれていなかった。気になり手に取ってみようと本に触れた瞬間、カコンという音と共に本が奥に引っ込んだ。
「え?」
何事かと驚いていると本棚が動き出し、下へと続く階段が見えた。
まるで映画に出てきそうな仕掛けだ。薄暗く光る階段を恐る恐る降りる。不思議と恐怖はない。
下まで降りると一つの扉が見えた。ゆっくりとその扉を開ける。
中には難しそうな機械やコードが所狭しと並んでいた。
こんな部屋があったなんて知らなかった。何があるかわからないので慎重に進む。
奥の方にカーテンで仕切られている場所があった。ホラー映画ではカーテンは王道の脅かし要素の一つ。さすがに少し怖くなったが好奇心が勝ち、ゆっくりとカーテンを開けた。
「きゃー?!」
目の前の光景に悲鳴を上げる。
そこには一人の男性がいた。立った状態でいくつものコードが体に繫がれていた。
必死に呼吸を整えゆっくりと近づく。目は固く閉ざされているので寝ているのかと思った。
だが立ったままは寝ないだろうし、なにより生きている感じがしない。
恐る恐る手を伸ばし男性の頬に触れる。その瞬間どこからかピコンと何かが起動する音が聞こえた。あたりが騒がしくなる。
怖くなり部屋の隅までダッシュして物陰に隠れる。ぎゅっと目をつぶっていると部屋が静まり返った。
「なんだったの。」
隠れている机から顔半分を出す。変わった様子はなさそうだ。いや、ある。明らかに違うところが。
先ほどの男性が目を開け無表情でこちらを見ていた。
やばい、ばっちり目があってしまった。
この状況をどうするべきか。働かない頭をフル回転させていると
「起動完了。…唯さんですね?」
聞きなれない声が聞こえた。あの男性が発した声だった。
なぜ私の名前を知っているんだ、頭の中はパニック状態だ。
するとそれを見た男性はゆっくりと近づいてきた。
「初めまして、私はKI999。あなたのお父さんに作られたアンドロイドです。」
…お父さんが?心の中で呟いたつもりが口に出ていたらしい、アンドロイドはこくんと頷いた。
全然状況が整理できていないがとりあえず、
「あの、何か着てください。」
このアンドロイド、服を着ていない。いくらアンドロイドとはいえ見た目は人間。目のやり場に困るのだ。
机に置いてあったお父さんの服を着てもらい、空いているスペースに腰を下ろす。
「あなたは一体?」
そう問いかけると少し考える素振りを見せた後急に立ち上がりごそごそとしたあと私の目の前に来た。
…近い。
「私はあなたのお父さん、竜一さんに作られました。竜一さんがいない間、一人で寂しい思いをしないようにと。これから私があなたのそばにいます。」
「…お父さん、死んじゃったんです。だから私はこれからずっと一人なんです。」
「なら私がずっとそばにいますよ。」
「本当ですか?一人じゃないの?」
思ったより震えた声になってしまったが、きちんと聞き取ってくれたようでこくんと首を縦に振った。
初対面なのに不思議と安心する。
「…アンドロイドさん。これからよろしくお願いします。」
今日、私の一人ぼっち生活が幕を下ろした。
秘密の部屋を出てリビングに向かう。新しい家族になったアンドロイドは静かに後ろをついてくる。
お父さんが死んで、書斎に行ったら秘密の部屋を見つけ、素っ裸のアンドロイドと出会い、これから一緒に暮らしていく。なんて非現実的なんだ。そう思いながらもそれを受け入れている自分がいた。
そういえば、お父さんはこのアンドロイドに名前を付けてくれと言っていた。これから一緒に生活するのになまえがないと不便だ。
いい名前がないか考えているとリビングについた。アンドロイドに椅子に座るように言い、自分も向かいの椅子に座る。
「えっと、まずあなたの名前を決めようと思うのですが…何か希望とかありますか?」
「いいえ、ありません。ですがKI999でかまいませんよ。」
即答されてしまった。しかもそれは型番であって名前ではない。
「KI999って言いにくいし、これから先その呼び名でいくと不便なことも増えるので、希望がないなら私がつけますね。」
じっと彼の顔を見つめる。すると一つの名前が頭に浮かんだ。
「…涼。」
彼は今までずっと表情を変えない。涼しげな顔をしているから【涼】。なんて単純なのだろう。
我ながらネーミングのセンスを疑う。
「涼ですね。アップデート完了。」
「え?決定?いいんですか?」
あまりにも早すぎる決定に思わず問いかける。
「問題ありません。」
まぁ、本人がいいと言うなら、それでよしとしてもらおう
「じゃあ涼さんで。改めてこれからよろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。」
涼さんも同じように頭を下げる。なんだかお見合いしているみたいだ。
クスリと笑みがこぼれる。お父さんがいなくなってから初めて笑った気がする。
これから一体どんな事が待ち受けているのだろう。お父さん、お父さんが安心して天国にいけるように頑張るから。
どうか見守っていてください。少し心のモヤモヤが晴れた気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回へ続きます。




